魔導士ルーファス(2)
「アホはあなたです。正々堂々とわたくしとルーファス様は、優勝して商品をいただきます」
気温が1度下がった。
「ふふっ、小娘。わかっておらんようだな、あのペンダントは妾の物だと言っておろう。だれが優勝しようが、あれは妾の物なのだ」
「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの、みたいなガキ大将ですかあなたは」
「おまえもわからん奴だな。あれは昔からずっと妾の物なのだ、バカめ」
「今度はバカ呼ばわりですか?」
ヤバイ。
恐ろしい気配がバチバチと電気を帯びるように肌を刺す。
しかも、目にも見える形でマナフレアが発生している。
気づけばカーシャとセツを中心に逆ドーナッツ型に人々が遠ざかっている。
そして、輪の中心から逃げ遅れたルーファスとビビ。
このまま魔力の嵐に巻き込まれてしまう。
ルーファスが申し訳なさそうに手を上げた。
「あのぉ〜、カーシャはどうしてあのペンダントが欲しいの?」
「欲しいのではない。あれは妾の物なのだ」
「そういう言い方をされるとそこで会話終了なんだけど。私たちは良質なホワイトムーンを探していて、あれがどうしても必用なんだよ」
「そういうことなら貸してやらんこともない」
この発言でセツの怒りは爆発寸前だ。しかし、ルーファスの前なので、抑えて抑えて顔の筋肉がプルプル震える。
「貸してやる……貸してやる……ですか?(あとで地獄見せたる、泣いたって叫んだってもう許るさんど!)」
「そうだ貸してやる。1日1000ラウルでいいぞ」
セツの我慢も限界だ。
「おんど――っ!?」
ゴリラ顔に変貌したセツが鉄扇を構えた瞬間、カーシャはしれっとルーファスの首根っこをつかんで盾にした。
きょとんとするルーファス。
引き攣った笑みのセツ。
バレてない!
どうやらルーファスはセツの本性には気づかなかったらしい。
完全にセツはカーシャに弱みを握られている。これではカーシャに勝つことができない。
カーシャは妖しく笑う。
「ふむ、一致団結して妾のために妾のペンダントを奪い返しに行くぞ!」
……しーん。
きょろきょろと周りを見回したビビは、笑顔をつくって拳を上げた。
「おーっ♪」
……しーん。
慌ててルーファスも拳をあげた。
「お、おーっ!」
……しーん。
3人を置いてスタスタと歩き出していたセツが振り返る。
「なにやってるんですか、あなたたちは。もうレースは開始してますよ」
……しーん。
気づけばスタート地点には4人しか残っていなかった。
レースに出場することになってしまったルーファス。
が、どんなレースなんだかさっぱりだった。
わかっていることは、優勝賞品がホワイトムーンのペンダント、2人1組のペア戦らしいこと。
セツは握っていた手のひらを広げ、そこに乗ったサイコロをルーファスに見せた。
「ルーファス様が振りますか?」
「はい?」
「レースはこのサイコロを振って進めていくそうです」
「ならべつに急がなくてもいいんだ」
人間すごろくということだろうか?
「いえ、急がなくては勝てません」
「はい?」
「すごろくに似ていますが、サイコロは競技者が順番に振るのではなく、止まったコマで出される問題や障害を乗り越えると再び振ることができるそうです。つまり早くクリアすればするほど、先に進めるそうです」
だったらこんなところでグズグズしていられない!
サイコロは8面体だ。8を出せば多く進める。だが、多く進めばいいというわけではないのが、すごろくだ。
セツは折りたたんでいた紙のマップを広げた。
「これがすごろくのマップです」
1コマ目、灼熱コース。
2コマ目、極寒コース。
3コマ目、クイズ。
4コマ目、ドクロマーク。
5コマ目、4コマ進む。
6コマ目、クイズ。
7コマ目、5コマ戻る。
8コマ目、海コース。
とりあえず1回目で行けるのはここまでだ。
気になるのは4コマ目のドクロマークだろう、なにかはわからないが、とりあえずそこには止まりたくない。
「ではルーファス様、4と7には止まらないようにお願いします」
と、セツはルーファスにサイコロを託した。
「僕が振るの!?」
「やはりここはルーファス様が振るのがよいかと。妻は3歩下がって夫についていくものですから」
「夫でも妻でもないけど、がんばって振りたいと思います」
サイコロを握り締めるルーファスに緊張が走る。
握った拳が汗ばむ。
「ルーファス様、早くしてください。もうわたくしたちだけですよ?」
「え?」
周りを見回すと、スタート地点にはルーファスとセツだけ。
が、突然スタート地点に人が降って湧いた。
赤と青の双子の魔導士。
赤髪のオル悔しそうに地面を蹴飛ばす。
「んだよスタートに戻るって!」
「自分でサイコロ振ったんだろ、今度はオレが振るぜ……って、へっぽこ!」
青髪のロスがルーファスに気づいた。
そして、ユニゾン。
「「てめぇもこのレースに参加してやがったのかっ!」」
なんだかよくわからないが、いつもこの二人に因縁をつけられるルーファス。
早く逃げようとしたルーファスは勢いでサイコロを振った。
「えいっ!」
――4。
ええっと、4コマ目はたしか……ドクロマーク。
今日も期待を裏切りませんルーファスは。
愕然とするセツ。
「いったいこのマスに止まると……(まさかいきなりの失格?)」
それはすぐにやって来た。
ぎゅるるるるるぅ。
ルーファスの腹の虫が鳴いた。
「ううっ……いきなりお腹が痛く……」
「はっ!? まさかこのコマはステータス異常を起こすのでしょうか!?(しかし、わたくしには何の変化も)」
本当に何の変化も起きていないのか?
まさか、ルーファスのお腹が痛くなったのは偶然?
腹を押さえるルーファスが、苦しそうに顔を上げた瞬間、鼻水を飛ばしながら噴いた。
「ぶふぉっ!?」
「どうかないさいましたかルーファス様!?」
「ぷぷっ……いや……なんでも……あははははは」
「今度は笑いが止まらないステータス異常ですか!?」
「ぷぷっ……だいじょう……ぶっ!(顔が……セツの顔が……)」
真っ黄色になっていた。
ステータス異常はランダムらしい。
ルーファスは腹痛。
セツは顔が真っ黄色。
当の本人であるセツは自分の顔が見えないので、なにが起きているのか理解していない。
オル&ロスもセツの顔を見て、腹を抱えて笑った。
「「ギャハハハハハハ!」」
突然、周りが笑い出してセツは何が何だかわからない。
「いったいどうしたというのですかっ!」
ちょっと怒ってるようだ。
でも原因はわかっていない。
ルーファスはセツの顔を見ないように、必死に笑いを堪えている。
「さ、先を……ぷっ……急ごう」
強引にコマを進めようとルーファスがサイコロを振った。
――8!
もっとも多い数。コマは海コースとなっている。
ルーファスとセツの体がスタート地点から消えて転送される。
果たして海コースでルーファスたちを待ち受けているものとは!?
そして、優勝はだれの手にっ!
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)