魔導士ルーファス(2)
白い月が微笑むとき3
息を切らせるルーファス。
結論から言うと黒子は見失ってしまった。
目立ちそうな黒子なのに、情報もプッツリ途切れてしまった。
まさかこの?地上?にいないのか?
それはさておき、別の話がルーファスの耳に飛び込んできた。
――空色ドレスの電波系魔導士が大暴れ。
どうやら現場はメルティラヴらしい。
ルーファスは急いでカフェに戻ることにした。
煙が立ち上っているが見えてきた。
人だかりから逃げるように這い出してきたユーリの姿。
その姿を見てルーファスは目を丸くした。
「どうしたのユーリその格好!?」
上着を包帯のようにグルグル巻いた斬新なスタイル。
「ローゼンクロイツ様の愛の鞭に巻き込まれて、服がボロボロになってしまったんです」
ということは、ユーリも現場に?
ビビやローゼンクロイツは?
辺りを見回すルーファスにユーリが気まずそうな顔を向けた。
「ルーファス……」
「なに?」
「……服を買うお金を貸してください(金は貸しても借りるながオーデンブルグ家の家訓なのに!)」
実は良家の出であるユーリ。人からお金を借りることはオーデンブルグ家の者として恥だった。
ルーファスは首を傾げる。
「はい?」
「アタシ、これしか服を持っていないんです(服がないと明日から生活できない)」
「えっ?(……だから毎日同じ服を着てたのか)」
そこに人混みから出てきたビビが割り込んできた。
「あたしの貸してあげるよぉ……あっ、でもユーリちゃんのほうがちょっぴり胸大きいかもあたしより」
ビビは自分の薄っぺらな胸とユーリの胸(偽造)を見比べた。
慌ててユーリは取り直す。
「だ、大丈夫ですよ、胸なんてどーとでもなりますから(元からないもんね!)。ビビちゃんに服を貸してもらえるなんて光栄です、返すときはリボンをつけて返しますね!」
「リボンはいらないけどぉ。返すのはいつでもいいよ♪」
「ありがとうございますぅ!(ビビちゃんの服……嗚呼、幸せ)」
絶対にユーリは貸してもらった服の匂いを嗅ぐ!
断言できる!!
そして、ビビはじと〜っとした目で誰かさんに目をやった。
「ユーリちゃんもいろいろ苦労してるんだね、誰かさんのせいで(ルーちゃんのばーか)」
「……そうですね、私が全部悪いんですよね。僕がユーリを召喚したんだもんね、そうそう僕が悪いんだよ……どーせ僕には魔導の才能なんてないし、召喚術なんてした僕が悪いんだよね」
いじけたルーファスはしゃがみこんで、地面にらくがきを描きはじめた。
ビビが呆れたようにため息を吐いた。
「ルーちゃんはなにも悪くないから平気だよ、元気だして♪」
「嗚呼、生まれてきてごめんなさい。そんなこと言って生んでくれたお母さんごめんさい。もう僕なんか生きてる価値もないね……あは……あはは」
「ルーちゃんがあたしのこと召喚してくれたから、こうやって出逢えたんだよ。あたしはルーちゃんに逢えて本当に幸せなの……だから元気だして、ね?」
ルーファスを励ますビビの姿を見るユーリは不機嫌そうだ。
「別に落ち込んでるヤツなんか励ます必要なんてないんです。この世は強い者だけが生き残るんですから(アタシのビビちゃん激励されるなんて、人間の分際で)」
吐き捨てたユーリ。
その前に真剣な顔をして怒っているビビが立った。
「ユーリちゃんなんか大ッ嫌い!」
バシーン!
強烈なビビのビンタがユーリの頬を叩いた。
頬を押さえて呆然とするユーリ。
「(なんで?)」
そして、走り去っていくビビの後ろ姿。
しばらくして、時間差攻撃でユーリはショック!
「ビビちゃんにフラれたぁ〜っ。服も貸してもらえな〜い……絶望だ」
ユーリは両手両膝を地面に付いた。
横ではルーファスもへこんでいる。
その後、ルーファスの記憶は少し飛んでしまった。
鼻血を出して気絶しているルーファスをセツが抱きかかえた。
「ルーファス様! ルーファス様!」
「うう……ううっ(頭がクラクラする)」
「どうなされたのですかルーファス様!」
「あ〜〜〜、セツ?」
「そうです、あなた様の妻になるセツでございます!」
「それは違うから!」
ちゃんとツッコミはできた。
ちょっとまだクラクラとしているルーファスだが、ツッコミができれば問題ないだろう。
「ルーファス様、どこの刺客にやられたのですか?」
「どこのって(てゆか刺客って)。記憶があんまりないんだけど……とにかく大丈夫だから」
「嗚呼、ルーファス様に万が一のことがあったら。わたくしもすぐに後を追う覚悟はできております」
「そんな重い覚悟しなくていいから(そんなプレッシャーかけられたら、それで死ぬし)」
セツの肩を借りてルーファスは立ち上がった。
ユーリの姿はない。
ビビもどこかに行ってしまった。
黒子はもう知らん。
で、なにしてたんだっけ?
「さっそくですがルーファス様」
「はい?」
「レースのエントリーしておきましたから」
「はい?」
「優勝賞品のペンダントが展示されていたのですが、あれこそわたくしの求める良質なホワイトムーンでした」
「はい」
そう言えばそんな話もあった。
ここでなぜか身悶えるセツ。
「あぁン!(けれど、ここでホワイトムーンが手には入ってしまったら、わたくしは故郷に帰らねばならない。そうなればルーファス様と遠距離恋愛に、身が裂かれる想い!)」
そもそも付き合ってません。
セツはテキパキと自分とルーファスにゼッケンをつけた。
「ペアルックですね!」
「こういうのはペアルックとは……」
「さあ、早くしないとレースがはじまってしまいます!」
「私はまだ出場するとは言ってないんだけど」
「でもルーファス様のお返事はわかっておりますから!」
プレッシャー。
ルーファスの周りには押しの強い友人知人が多いが、セツが現在ナンバーワンだろう。
そして、これまでナンバーワンに君臨していたのは――。
レースのスタート地点につくと、見覚えのある魔女がルーファスに近づいてきた。
「いいところで会ったなルーファス」
カーシャは不適な笑みを浮かべている。その横にはなぜかビビが?
きょとんとするルーファスにカーシャは勝手に話し出す。
「優勝賞品は妾の物。ルーファスの物は妾の物。わかっているだろうな?」
「は?」
それ以上ルーファスは声が出なかった。思考停止。
ルーファスを押しのけてセツが前へ出た。
「カーシャさん! なにをおっしゃているのですか、優勝賞品は勝者の物。つまりわたくしとルーファス様の物です。そして、あなた!」
セツはビシッとビビを指差して言葉を続ける。
「なぜここにいるんですかっ!」
「え〜っとぉ。カーシャさんに無理矢理。このレースってペアじゃないと出場できないからって」
そういうことらしい。
ズン!
っとカーシャがセツの前に立ちはだかる。
「図々しいにもほどがあるぞ」
あんたの言うセリフか。
カーシャはさらに続ける。
「あのペンダントは妾の物なのだ。だれがなんと言おうと、それは変わることのない真理なのだ、アホめ」
今までならこんなカーシャに真っ正面から食ってかかる者はいなかった。
が――。
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)