魔導士ルーファス(2)
そして、店の奥にいる女はアインの母親だったりする。見た目は20代後半だが、2児の母だ。
「なんだいアインの知り合いだったのか」
「はい、こちらはクラウス魔導学院の先輩です」
と、アインが紹介した。
アインの母――アルマが考え込んでうなる。
「娘が世話になってるなら、ホワイトムーンを分けてやりたいとこだけど……」
すぐにセツが食い付く。
「ぜひ!」
「さっきも言ったろ、ウチにはないって」
そこにスーッとアインが割り込んできた。
「あのぉ、なんの話をしてるんですか?」
「良質のホワイトムーンを探してるんだ」
と、ルーファスが答えた。
アインは困った表情をした。
「もうすぐ鍛冶対決があるんですけど、それに使おうと思ってる良質なホワイトームーンがなくて困ってるんですよぉ。だからお父さんってば、自分で採りに行くとか言って独りでグラーシュ山脈に……」
ホワイトムーンは希少であり、貴重である。採取には危険を伴い、命を落とすこともある。
セツは難しい顔をしている。
「わたくしも自力で採取するしか……」
それを聞いたルーファスは正直思ってしまった。
「(さすがにそこまで付き合えない)」
ルーファスにとってグラーシュ山脈は思い出の地だ。悪い意味で。
ヌッとアインがルーファスとセツの間に入った。
「自力で採りに行く気満々のところ悪いんですけど、良質なホワイトムーンを使ったペンダントがレースの商品になってましたよ。ウチで使うには少なすぎるんですけど、本当にいい石でした」
「どこでどんなレースですか!?」
セツの食いつきがいい。
「中央広場のほうでやってるみたいです。内容はよく見てこなかったので(配達の途中だったから)」
それだけ聞くとセツはルーファスの腕を引っ張った、
「行きましょう、ルーファス様! 早くしないとレースに出場できません!!」
出場する気満々だった。
もちろんルーファスはしない気満々。
店を出てすぐにルーファスは立ち止まった。
「あっ!?」
「どうかなさいました?」
「ごめん、急用!」
「えっ、ルーファス様!?」
セツが止める間もなくルーファスが走り出す。
いったいルーファスは何を見たのか?
街中を走る黒い影。
ヒツジのパペットに引っ張られるように、黒子が全力疾走している。
ルーファスの召喚に乱入した謎の黒子。どうやらユーリを探しているらしいが、そもそも何者なのだろうか?
ルーファスの視界から黒子が消えた。
そして、ルーファスの体力が消えた。
「ううっ……(もう走れない)」
ちょっと走っただけでルーファスリタイア。
息絶え絶えになりながら、ルーファスが顔をあげると、ピンクのフリフリが近づいてきた。
「ルーちゃん!」
ビビがツインテールを揺らして駆け寄ってくる。
「やっぱり探しに来てくれたんだ!」
「えっ……いや……(そういうわけじゃないんだけど)」
でもハッキリ否定しないルーファス!
とりあえずビビは満面の笑顔だ。
「(セツもいなくなってくれたみたいだし)よぉ〜し、美味しいスイーツ食べに行こう♪」
「はい?(なんでそうなるの?)」
「ルーちゃん覚えてる?」
「なにを?(心当たりがない)」
「こないだ約束破ったでしょ?」
「そんなことあったような、なかったような」
これはぜんぜん心当たりがないリアクションだ。
ビビがルーファスに腕組みした。
「とにかーく! 今からメルティラブに行くんだからねっ!」
「ええーっ!」
「しゅっぱーつ!」
強引な展開になるとルーファスは弱い。
ビビに引きずられて馬車に乗り込み、揺られながクラウス魔導学院方面に移動する。
クラウス魔導学院は1つの都市ほどの規模と生徒数を誇り、学院周辺には数多くのショップがひしめき合っている。
学生たちに人気のカフェ――メルティラヴ。普段は生徒たちの溜まり場だが、今日は休日なので一般客の方が多いようだ。
席についたビビはさっそくスイーツを注文。しかも片っ端から。
「ここから〜っ、ここまで。あとこれとこれとこれも食べたいなぁ」
「ちょっと頼みすぎじゃあ」
「心配しないで、全部あたしが食べるから♪」
「そういう問題じゃないんだけど」
溜息をつきながらルーファスは窓の外を見つめた。
セツを置いてきてしまって、黒子は見失い、ビビとカフェ。
とりあえず、ここにセツが現れたら大波乱だね!
テーブルに並べられていくスイーツの山。
ルーファスの表情がどんどん不安げになっていく。
「あのさぁ、私は人を追ってる最中でさ、こんなところでスイーツなんか食べてるヒマないんだけど(僕のサイフからお金が消えていく)」
「別にいいじゃん。こないだ約束破ったルーちゃんなんだよ、今日はルーちゃんのおごりでいっぱい食べるんだから!」
「はぁ、ついてないなぁ」
このごろ出費が多い。
というのも、ユーリを召喚してしまったので、その生活費やらなんやらを出してあげたりと。
ここでルーファスは気づく。
「(あの黒子からも生活費せびられたらどうしよう)」
倹約のためにルーファスはスイーツを食べたくても食べられない。
目の前では美味しそうに頬を膨らませるビビ。
見ていても辛いだけなので、ルーファスは窓の外に目を向けた。
街を行き交う人々。
そして、若者にからんでいる黒頭巾の変態。
「……あーっ!(あの人だ、やっと見つけた!)」
大声をあげたルーファスは席を立った。
「どこ行くのルーちゃん?」
「ちょっと急用!」
「行っちゃダメだよ、約束破る気?(せっかくのデートなのにぃ)」
「ごめん、サイフ置いていくから、じゃあね!」
ルーファスはサイフをテーブルに叩きつけて店を出て行ってしまった。
「もぉ、ルーちゃんったら!」
ビビはほっぺたを膨らませてケーキにフォークを突き刺した。
ヤケ食い開始!
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)