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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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白い月が微笑むとき1


 自宅地下の実験室。
 今までにない手ごたえを感じるルーファス。
 魔法陣が淡く輝く。
 そして、ルーファスは最後の一言を声高らかに叫ぶ。
「――出でよ、インぶはっ!?」
 いきなり、魔法陣から飛び出した影に膝蹴りを喰らい、ルーファスは鼻血ブーしながら転倒した。
 明らかな召喚ミス。
 ルーファスが最後まで言葉を言えなかったことから、無理矢理召喚に乱入してきたことが伺える。
 召喚されたのは燕尾服を着たスマートな男が立っている。実にこの男はナゾに包まれている。どこがナゾかって、首から上が黒子の頭巾だからだ。
 黒子は腕にはめたパペット人形をルーファスの眼前に突きつけた。
「オイ、ソンナトコニ突ッ立ッテタラ、危ネェーダロ!」
 腹話術だった。
「ご、ごめんなさい」
 蹴られたルーファスが謝ってる構図。
 黒子は自分の首を動かさず、パペットで辺りを見回した。
「此処ハ何処ダ。教ヤガレ、スットコドッコイ!」
「え〜っと、国から言ったほうが宜しいんでしょうか?(こ、この人形怖いよぉ)」
「オ前人間ダロ、ダッタラ此処ハのーすダロ。のーすノ何処ダ、スットコドッコイ!」
 ノースとは人間界のことを示す言葉であるが、人間たちは自分たちの世界をガイアと呼ぶのが一般的であり、ノースと呼ぶのは別世界の住人である。
「アステア王国の王都アステアですが……ちなみにここは私の家の地下室です」
 パペットは手を広げて驚いたリアクションをした。ちなみに黒子はまったく無反応で、見える透明人間に徹している。
「オオ、ヤッパあすてあ王国ナノカ! オイ、ウチノ小娘ヲ見ナカッタカ?」
「小娘ってどのような感じの?」
「世界デ一番ぷりてぃナ小娘ダ。名前ハゆーり・しゃるる・どぅ・おーでんぶるぐッテンダ」
「それなら知ってますけど」
 知ってるもなにも、ユーリもルーファスが召喚したのだ。
「オイ、サッサト吐ケ。知ッテルンダロ、サッサト言ワネェート、ヌッコロスゾ!」
 黒子は持っているパペット人形を、ルーファスの顔面にグリグリしていた。
「何デ、言ワネェーンダヨ。隠スト、ヌッコロスゾ!」
「そ、それはあなたが僕の顔をグリグリするから……(窒息しそうだったし)」
 苦しそうなルーファスは、謎の黒子に追い詰められている。
「ウッセンダヨ、ノロマ! モウイイ、俺様ガ自分デ探ス!」
 そう言って、パペットと黒子は嵐のように姿を消した。
「……なに今の人?」
 今日は休日で、ルーファスは朝から召喚術の特訓中だった。
 そして、呼びだしてしまったのが今のパペットと黒子。
 とりあえず召喚は大失敗だ。
 気を落としながらルーファスは地下室を上がった。
 ピンポーン♪
 玄関のチャイムが鳴った。
「ルーちゃんあ〜そぼ♪」
「ルーファス様、遊びに参りました!」
 不機嫌そうに顔を見合わせるビビとセツ。二人はルーファス宅の玄関前で鉢合わせしてしまったのだ。
 覗き窓からその様子を見たルーファスは、居留守を使うことにして回れ右。
 そこに立ちはだかる姉の姿。
「未来の妹を邪険に扱うんじゃないよルーファス」
 そう言ってリファリスは玄関を開けた。その顔はなぜかニヤけている。
 玄関を開けると、何食わぬ顔でセツはビビを押しのけて一歩前へ。
「ごきげんようお姉様。頼まれていた焼酎をお持ちしました」
「よく来たねセっつん、おみやげまで持って来てもらっちゃって、悪いねぇ〜。これをみやげにダチとやってくるとしようかね」
 むふふ。と笑いながらリファリスは酒を受け取ると、さっさと家を飛び出してしまった。見事なまでに酒で買収されている。
 軽くシカトを食らったビビはちょっぴりショック。
「さ、先に遊びに来たのはあたしなんだから!」
「玄関を先にくぐったのはわたくしです」
 セツがビビに向けた視線から火花が散る。
 このままでは危険と判断したルーファスが間に入る。
「まあまあ二人とも、お茶でも用意するから、奥の部屋で大人しく待っててよ(なんでこの二人、こんな仲悪いんだろ)」
「お茶菓子のおまんじゅうを持って参りました」
 と、饅頭を取り出したセツを見て焦るビビ。
「ちょ、ちょっとそこまでケーキ買ってくるね!!」
 今からかッ!
「べつにおまんじゅうだけでいいよ」
 何気ないルーファスの一言。
 グサッとビビが致命傷を負ってうずくまった。
 勝ち誇った顔でセツが冷笑を浮かべビビを見下す。
 ルーファスはどうしたのかと慌てる。
「ビビ大丈夫? 具合でも悪い?」
「だ、だいじょぶ……こんなことじゃへこたれないもん」
 ビビのことを心配するルーファスは、セツに取って都合が悪い。
「ルーファス様、本人が大丈夫だと言っているのですから、放っておいて、ささっ、行きましょう」
 セツはルーファスの腕にガシッと腕組みをして、無理矢理奥の部屋に連れて行ってしまった。
 残されたビビは、廊下の冷たい風に当たりながら、その場からしばらく動けなかった。

 リビングでお茶でも出す予定が、気づけばセツはルーファスの部屋まで乗り込んでいた。
「ここがルーファス様の部屋なのですね。父上以外の殿方の部屋に入るのは、これが初めてです」
 言葉にプレッシャーが含まれている。
「そ、そうなんだ……(殺気にも似た雰囲気が漂ってるのは僕の気のせい?)」
 おそらく気のせいではないだろう。
 今、この部屋には狩りをする動物がいる。
 セツは素早い動きでドアを閉め、カギを閉め、密室空間を作りあげた。
「殿方の部屋で二人っきり……こんなこと、初めての経験です」
「そ、そうなんだ……(なんかキラキラした瞳で僕のこと見てるよぉ)」
 セツはルーファスの腕に両手でしがみつきながら、上目遣いでルーファスに熱視線を送っている。
「(さあルーファス様、いつでもいらっしゃってください。ガバッと、ガバッと!)」
「(胸が腕に当たってるんですけど)」
 ツーッとルーファスの鼻から血が出た。免疫力のないルーファスには、これ以上の攻撃は生死に関わってくる。
 瞳を閉じたセツは顎を出して唇を少し上向きにした。
 まるで瑞々しい果物のようだ。
 唇が食べて食べてと誘っている。
 ぷしゅ〜っと空気が抜けるような音がしたような気がした。
 次の瞬間、ルーファスが気を失った。
 そして、ドアを蹴破って乗り込んできたビビ!
「不純異性交遊禁止!!」
 鉄拳制裁を放とうとビビがセツに飛び掛かる。
 だが、倒れたルーファスを起こそうとセツがしゃがんだため、見事にビビはセツの真上をダイビング。そのまま腐海の森に激突。
 ちなみに腐海の森とは、あまりにも散らかった部屋を指す揶揄である。
 大きな物音で意識を取り戻したルーファスは、ガラクタの山に埋もれているビビを見た。
「なにやってるのビビ? 散らかしたら片付けておいてね」
 ビビショック!
「(このまま山に埋もれて朽ち果てよ……もう疲れたよパト○ッシュ)」
 ビビ――ここに眠る。
 されはさておき、邪魔が入って水を差されたので、気を取り直してセツは部屋を物色。
「ルーファス様! まさかこれは!?」
 驚きを隠せないセツ。
「えっ、なに?(変な物とか別にないハズだけど)」