魔導士ルーファス(2)
ルーファスはセツに顔を向けることなく走った。
燃え広がる炎の海。
「ビビ! そっち側にいるんでしょビビ!」
「ルーちゃん、ルーちゃんなの!? 炎の壁が立ちふさがって……あついっ!」
「大丈夫、今助けに行くから!」
二人を隔てる炎の壁。
ルーファスの周りにマナフレアが発生する。だが、安定感に欠け、現れては消える。
「ブリザード!」
ルーファスの放った吹雪が炎を呑み込んだ!
しかし、駄目だ。炎の勢いが強すぎて、呑み込んだ矢先から呑み返される。
「マギ・ウォータービーム!」
水を出そうとしたが、安定せずに蒸気と化して消えてしまった。
焦るルーファス。
焦れば焦るほど安定した魔法は使えない。
「げほっ、げほげほっ、ルーちゃん!」
ビビの悲鳴が聞こえてくる。
ルーファスは歯を食いしばった。
マナフレアが安定する。
「マギ・ウォータービーム!」
滝のような水がルーファスの手から噴射された!
これならいけるか!
愕然とするルーファス。
水は炎に触れることも叶わず、刹那にして水蒸気を化した。
膝を付いてうなだれるルーファスの傍に、セツが現れた。
「これは普通の炎ではありません。並大抵の魔法では消すことは不可能。これを消すことのできる芭蕉扇がここにあります」
それはセツが武器として使っていた鉄扇だった。
「すぐに貸して!」
ルーファスは手を伸ばしたが、セツは鉄扇をすっと引いた。
「貸して差し上げるのには条件があります」
「いいから早くかして、そうしないとビビが!」
「わたくしと結婚してください。そうすれば、この芭蕉扇を貸して差し上げます」
「…………」
ルーファスは真剣な顔をしたまま、身動きを止めた。
そして――。
「わかった、結婚するよ」
「男に二言はございませんね?」
「それでビビを助けられるなら!」
「(そこまでしてあのおなごを……)」
複雑な表情したセツ。
炎の海はビビだけでなく、ルーファスたちも呑み込もうとしている。
もう一刻の猶予も残されていない。
ルーファスはセツから芭蕉扇を奪うように取った。
「これで扇げばいいんだよね!」
体をねじり、ルーファスはフルスイングで鉄扇を振るった。
巻き起こるタイフーン!
これまでセツが起こしてきた風よるも強い。
すべてを薙ぎ払う風。
炎の海が風の波に呑み込まれ消えていく。
ルーファスを中心に巻き起こった風はすべてを吹き飛ばす。
ここでひとつ問題が起きた。
風の中心にいるルーファスはいわゆる、台風の眼の中にいるようなもので安全なのだが、外にあるものはすべて暴風に見舞われる。
「きゃあああっ、助けてルーちゃん!」
空に舞い上がって竜巻に巻き込まれているビビ。炎は免れたがこのままでは!
ビビが竜巻の外に放り出された。
このままでは加速するビビは地面に叩きつけられてしまう。
「ビビ!」
鉄扇を投げ捨てルーファスが走った。
「(絶対に絶対にビビを受け止めるんだ!)」
駄目だ、ルーファスの足では間に合わない。
そのときだった!
鉄扇を拾い上げたセツがルーファスに向かって風を起こす。
「追い風!」
風によって背中を押されたルーファスが加速する!
ビビが地面と激突する!
――世界が静まり返った。
「ルー……ちゃん」
「ビビ……」
「ルーちゃ〜ん!」
ビビは涙を流しながら自分を抱きかかえているルーファスに抱きついた。
間一髪、ルーファスはビビを受け止めたのだ。
へっぽこ魔導士と呼ばれる(主にカーシャが言い広めている)ルーファスが、ここぞという場面で決めたのだ。
でも、そんなルーファスは長続きしなかったりする。
空から空色の物体が飛来してくる。
元の大きさに戻ったローゼンクロイツだ。
ガツン!
落ちてきたローゼンクロイツがルーファスにナイス跳び蹴り!
倒れたルーファス。
そして、覆い被さったローゼンクロイツ。
一瞬して辺りの空気が凍り付いた。
接吻!
見事なまでに決まった男同士のキッス!
慌ててルーファスは気絶しているローゼンクロイツを退かして立ち上がった。
「事故だよ事故に決まってるじゃないか、みんなだって見てたでしょ!」
「ルーちゃんの変態!」
ビビのビンタがルーファスを打ちのめした。
そして、セツもショックを受けていた。
「ルーファス様との婚約が破棄……」
其の二、婚約者が新たに他の者と接吻した場合は無効とする。
ルーファスは女の子としないとイケナイと思っていたが、どうやら同性でもよかったらしい。
ローゼンクロイツの発作も治まり、鬼女の姿もいつの間にか消えていた。
これで一件落着――というわけにはいかなかった。
「ルーファス様、もう一度わたくしと接吻を!」
「えっ……もう婚約なんてこりごりだよ!」
逃げるルーファス。
追うセツ。
結局、なにも解決していなかった。
第14話_鉄扇公主はラブハリケーン おしまい
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)