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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

INDEX|46ページ/104ページ|

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 ルーファスはセツに顔を向けることなく走った。
 燃え広がる炎の海。
「ビビ! そっち側にいるんでしょビビ!」
「ルーちゃん、ルーちゃんなの!? 炎の壁が立ちふさがって……あついっ!」
「大丈夫、今助けに行くから!」
 二人を隔てる炎の壁。
 ルーファスの周りにマナフレアが発生する。だが、安定感に欠け、現れては消える。
「ブリザード!」
 ルーファスの放った吹雪が炎を呑み込んだ!
 しかし、駄目だ。炎の勢いが強すぎて、呑み込んだ矢先から呑み返される。
「マギ・ウォータービーム!」
 水を出そうとしたが、安定せずに蒸気と化して消えてしまった。
 焦るルーファス。
 焦れば焦るほど安定した魔法は使えない。
「げほっ、げほげほっ、ルーちゃん!」
 ビビの悲鳴が聞こえてくる。
 ルーファスは歯を食いしばった。
 マナフレアが安定する。
「マギ・ウォータービーム!」
 滝のような水がルーファスの手から噴射された!
 これならいけるか!
 愕然とするルーファス。
 水は炎に触れることも叶わず、刹那にして水蒸気を化した。
 膝を付いてうなだれるルーファスの傍に、セツが現れた。
「これは普通の炎ではありません。並大抵の魔法では消すことは不可能。これを消すことのできる芭蕉扇がここにあります」
 それはセツが武器として使っていた鉄扇だった。
「すぐに貸して!」
 ルーファスは手を伸ばしたが、セツは鉄扇をすっと引いた。
「貸して差し上げるのには条件があります」
「いいから早くかして、そうしないとビビが!」
「わたくしと結婚してください。そうすれば、この芭蕉扇を貸して差し上げます」
「…………」
 ルーファスは真剣な顔をしたまま、身動きを止めた。
 そして――。
「わかった、結婚するよ」
「男に二言はございませんね?」
「それでビビを助けられるなら!」
「(そこまでしてあのおなごを……)」
 複雑な表情したセツ。
 炎の海はビビだけでなく、ルーファスたちも呑み込もうとしている。
 もう一刻の猶予も残されていない。
 ルーファスはセツから芭蕉扇を奪うように取った。
「これで扇げばいいんだよね!」
 体をねじり、ルーファスはフルスイングで鉄扇を振るった。
 巻き起こるタイフーン!
 これまでセツが起こしてきた風よるも強い。
 すべてを薙ぎ払う風。
 炎の海が風の波に呑み込まれ消えていく。
 ルーファスを中心に巻き起こった風はすべてを吹き飛ばす。
 ここでひとつ問題が起きた。
 風の中心にいるルーファスはいわゆる、台風の眼の中にいるようなもので安全なのだが、外にあるものはすべて暴風に見舞われる。
「きゃあああっ、助けてルーちゃん!」
 空に舞い上がって竜巻に巻き込まれているビビ。炎は免れたがこのままでは!
 ビビが竜巻の外に放り出された。
 このままでは加速するビビは地面に叩きつけられてしまう。
「ビビ!」
 鉄扇を投げ捨てルーファスが走った。
「(絶対に絶対にビビを受け止めるんだ!)」
 駄目だ、ルーファスの足では間に合わない。
 そのときだった!
 鉄扇を拾い上げたセツがルーファスに向かって風を起こす。
「追い風!」
 風によって背中を押されたルーファスが加速する!
 ビビが地面と激突する!
 ――世界が静まり返った。
「ルー……ちゃん」
「ビビ……」
「ルーちゃ〜ん!」
 ビビは涙を流しながら自分を抱きかかえているルーファスに抱きついた。
 間一髪、ルーファスはビビを受け止めたのだ。
 へっぽこ魔導士と呼ばれる(主にカーシャが言い広めている)ルーファスが、ここぞという場面で決めたのだ。
 でも、そんなルーファスは長続きしなかったりする。
 空から空色の物体が飛来してくる。
 元の大きさに戻ったローゼンクロイツだ。
 ガツン!
 落ちてきたローゼンクロイツがルーファスにナイス跳び蹴り!
 倒れたルーファス。
 そして、覆い被さったローゼンクロイツ。
 一瞬して辺りの空気が凍り付いた。
 接吻!
 見事なまでに決まった男同士のキッス!
 慌ててルーファスは気絶しているローゼンクロイツを退かして立ち上がった。
「事故だよ事故に決まってるじゃないか、みんなだって見てたでしょ!」
「ルーちゃんの変態!」
 ビビのビンタがルーファスを打ちのめした。
 そして、セツもショックを受けていた。
「ルーファス様との婚約が破棄……」
 其の二、婚約者が新たに他の者と接吻した場合は無効とする。
 ルーファスは女の子としないとイケナイと思っていたが、どうやら同性でもよかったらしい。
 ローゼンクロイツの発作も治まり、鬼女の姿もいつの間にか消えていた。
 これで一件落着――というわけにはいかなかった。
「ルーファス様、もう一度わたくしと接吻を!」
「えっ……もう婚約なんてこりごりだよ!」
 逃げるルーファス。
 追うセツ。
 結局、なにも解決していなかった。

 第14話_鉄扇公主はラブハリケーン おしまい