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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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鉄扇公主はラブハリケーン1


 ビビちゃんショック!
 猛烈なキッスを道ばたで目撃してしまった。
 馬乗りになっている袴姿の女の子。
 乗られちゃってるのは、我らがルーファス!
 なにこの、ルーファスが押し倒されて襲われちゃってる構図は?
 漂白された顔面で硬直しているビビ。
 ようやく唇を解放されたルーファスは、目を白黒させてビビと顔が合ってしまった。
「ち、違うんだってこれは、その……事故なんだ!」
 慌てるルーファス。
 だが、ここで一発、女の子は破滅の呪文を唱えた。
「心からあなたのことをお慕い申しております」
「は?」
 ルーファス硬直。
 代わりにビビの硬直が溶けた。
「ルーちゃんの変態!」
 ピンクのツインテールをふりふりさせながら、ビビは走り去ってしまった。
「ち、違うんだって!」
 虚しくビビの背中に伸ばされた手。
 さてルーファス、この状況をどう釈明する?
 まっ、釈明して誤解を解くにしても、目撃者は走り去ってしまったけど。
 乱菊の着物に烏羽色の袴。黒髪は後頭部に高く束ねられ、滝のように美しく流れ、ルーファスの首元をくすぐっている。
 少し切れ長の目の奥の黒瞳で見据えられ、ルーファスはドキッとした。
「あ、あの、ちょっとどいてくれるないかな?(腿に膝とか当たってるんだけど)」
「離れたくありません」
「でも、今の状況は……(野次馬がいつの間にか)」
 下校途中のクラウス魔導学院の生徒たちが、いつの間にやら集まってきていた。
 これだけ目撃者がいたら、大スキャンダル確定だった。
 若い学生さんたちは、この手の話が大好きですですから、ルーファスも運の尽きですね。まあ元々運なんてないけど!
 実力行使でルーファスは女の子の体を押して退けようとした。
 が!
 強く抱きつかれて状況悪化。
「なぜ拒むのですか、もしやわたくしのことが嫌いになったとか!?」
「キライとかキライじゃないとか、そういう次元の問題じゃなくて、そもそも私たちなにもないよね?」
「結婚の約束は嘘だったのですか!」
 野次馬が一気にざわめいた。
 さらに鈍器のような罵声がルーファスに投げつけられた。
「結婚まで約束した子を振ろうなんて最悪だな!」
「こんな綺麗な子を振るなんて男じゃねえ!」
「まさかルーファス君がこんなひとだったなんて……」
「振るんだったら俺にくれ!」
「今日のパンツ何色? げへげへ」
「ひとりだけ抜け駆けなんて許さないぞルーファス!」
「お前だけは俺たちを裏切らないと思ってたのによ、ひとりだけ彼女つくりやがって!」
 さまざまな声が飛び交った。
 慌ててルーファスは野次馬に視線を配った。
「誤解だってば、婚約なんてした覚えないし!」
「今さっきしたではありませんか!」
 と、女の子。
 すぐさまルーファス反論。
「さっき会ったばかりで、そんな約束するわけないじゃないか。だって君はいきなり空から降ってきて、私とぶつかって……ごにょごにょ」
「恥ずかしがらずにはっきりとおっしゃってください。わたくしと接吻を交わし婚約したと!」
「キスはごめん、事故だったんだよ事故。でも婚約はしてないじゃないか!」
「なにをおっしゃているのですか、その接吻こそが婚約ではありませんか。代々我が家では初めて接吻した相手と契りを交わすという掟があるではありませんか」
「知らないよそんな掟!」
 だが、女の子の眼は本気と書いてマジだ。
 だが、ルーファスだっていきなり結婚なんて無理な話だ。
 掟だかなんだかわかないが、ここはどうにか事を治めなければ。
「出会ったばかりのひとと結婚なんて、君はそれでいいの? 私たちお互いの名前すら知らないんだよ?」
「わたくしは前々からお名前を存じ上げております、ルーファス様。わたくしはセツと申します」
「いつの間に名前を!?」
「さきほど周りの方がそう呼んでおられたので」
「ぜんぜん前々じゃないじゃないか……(この手のタイプは説得とか無理そうだ)」
 ルーファスは溜息を漏らした。
 周りから野次が飛んでくる。
「結婚しちゃえよルーファス!
「しないよ!」
 すぐさま言い返したが、すぐさま言い返してくる。
「ここで逃したら一生結婚できないぞ!」
「好きでもないひとと結婚なんてできないよ!!」
 少し怒ったルーファスの声が響き渡った。
 耳にした女は固まった。ショックを受けたのかもしれない。
「ルーファス様はわたくしのこと……好きではないのですね……でもわたくしは好きなので問題ありません!」
 なんというポジティブ。悪い言い方をすれば、なんて強引なんだ。
 野次馬も敵と化している今、ルーファスに残された手段はこれしかあるまい!
「ごめん!」
 ルーファスはセツを大きく突き飛ばし、逃走!
 困ったときは逃げるに限る。

 逃走を図ったルーファスだが、すぐにセツが追ってきた。
 体力勝負では女子にすらルーファスは負ける。しかも悪いことに、セツは足が速かった。追いつかれるのも時間の問題だろう。
 前方に空色物体発見!
 すぐさまルーファスは駆け寄り、ローゼンクロイツに助けを求めるべく、そっと耳打ちをした。
 そして、セツがついに追いついた。
「ルーファス様、逃げるときにちょっとわたくしの胸に触れましたよね。事故など装わずに、触りたいなら触りたいとおっしゃってくれればよいのに」
「えっ、ごめん、触る気なんてなかったんだ!(じゃなくて……ここで相手のペースに呑まれたら負けだ)」
 急にルーファスはキリッと真面目な表情になり、ローゼンクロイツの背中を押して紹介した。
「じつはもう結婚してるんだ、このローゼンクロイツと。だから君とは結婚できない、ごめん」
 が〜ん!
 ショックを受けたのは、木陰からローゼンクロイツをストーカーしていたユーリ。
 さらに別の木陰にしたアイン。
 おまけにたまたま通りかかったビビは再起不能に陥った。
 衝撃の波及はこれだけでは済まなかった。このひとまでもショックを受けた。
「そうだったの!?(ふにゃ)」
 瞳を丸くしたローゼンクロイツ。
 ルーファスは思わず呆気にとられた。
「いやいやいや、そういうことにしてって段取り話じゃないか」
「そう言えばそんな話もあったね(ふあふあ)」
「はっ!? しまったネタバレしてしまった!」
 ルーファス自爆。
 まあルーファスの考える作戦なんて、所詮は浅知恵です。
 ユーリが木陰から飛び出してきた。
「そんなことだろうと思いました。ローゼン様がこんなへっぽこ魔導士と結婚なんて見え透いた嘘もいいところです」
 見え透いた割にはショックを受けていたが……。
 さらにアインも飛び出してきた。
「そうです、ローゼンクロイツ様はみんなものなんです!」
 それを聞いたセツは妄想した。
「みんなのもの……(自主規制)」
 ポッとセツの頬が桜色に染まった。なにを妄想したんだ、なにを。
 ここでビビも飛び出して――と行きたいところだが、未だショックから立ち直れずに白い灰と化してしまっている。
 アインはササっとセツに名刺を差し出した。