魔導士ルーファス(2)
パンツに願いを4
ベッドで目覚めたルーファス。
「はっ……ここは!?」
ちょっと薬品臭い。
「保健室か」
廊下で倒れたはずなのに、いつの間にか保健室のベッドで寝ていた。
「(だれか運んでくれたのかな。親切なひともいるんだなぁ)」
その親切なひとはここにはいないらしい。
保健室にはだれもいなかった。
ベッドから起き上がって、辺りを見回して目に付いたのは、ホワイトボードだった。
――妖精を見つけに行ってきます。
と、今日の予定に書かれていた。
「(保健室の先生まで……放課後で本当によかった)」
もしも生徒が多くいる時間だったら、騒動はもっと大きくなっていた。
その騒動の発端はルーファスだ。
「お腹痛い」
責任感でお腹が痛くなってきた。
「(もうちょっとベッド寝てようかな)」
責任放棄!
ルーファスがベッドで横になっていると、物音が聞こえてきた。
ドドドドドドド!
ドーン!
ドガガガ!
ピロロロロ!
ズドン!
きっとどこかで派手な追いかけっこが展開されているのだろう。
そんなことには構わず、寝続けようとするルーファス。
ドッカーン!
爆発音と共に部屋が揺れ、ベッドが跳ね上がった。
「な、なに!?」
驚くルーファス。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
天井が崩れ落ちてきた。
砂煙が舞い上がり視界を覆う。
「ホワイトブレス!」
猛吹雪が崩れた天井辺や砂煙を呑み込んだ。
「な、なんなのあのバカ女!」
叫び声が聞こえた。ララの声だ。
上の階から落ちてきたララを追ってカーシャが姿を見せた。
そして、ルーファスはベッドの下に姿を消した。
遣りたい放題のカーシャからララは必死に逃げているらしい。
そして、ルーファスもカーシャから逃げた。
ベッドの下に身を潜めてカーシャに気づかれないようにする。ここで顔を合わせたら、渦中に巻き込まれるのは間違いないのだ。
保健室を飛び出して逃げるララ。
その背中にまたもカーシャが魔法をぶっ放す。
「ホワイトブレス!」
保健室もろとも一瞬して凍り付く。
だが、ララには逃げられてしまった。
「チッ」
カーシャは舌打ちして保健室を出て行った。
ベッドの下から身を震わせて這い出してきたルーファス。
「ハックション!」
鼻水ブー。
いろんな意味でルーファスは震えが止まらなかった。
「やりすぎなんだよ……カーシャは」
保健室が氷河期になってしまったせいで、ここにはいられなくなってしまった。
仕方がなくルーファスも保健室から出た。
ルーファスはどっと溜息を落とした。
「はぁ……(早くだれか願い事叶えて終わってくれないかな)」
このままずっと追いかけっこが続くと思うとゾッとする。
「(もう帰っちゃおうかな)」
追試はとっくにあきらめたので、そのほうがいいかもしれない。
でも気がかりなのは……。
「(どんな契約だったのかな?)」
ファウストと交わしてしまった悪魔の契約。
「(先生は悪魔じゃないから魂を要求してくることはないと思うけど)」
悪魔の契約のことを考えると憂鬱になる。
「(やっぱり妖精探ししようかな)」
優柔不断なルーファス。
でも足は校舎の外へと向かっていた。
中庭が見通せる廊下を通ったとき、ルーファスの足がふと止まった。
なにやら騒がしい。
中庭に群がる生徒たち。
追いかけっこをしている雰囲気じゃないが、いったいなんの集まりだろうか?
気になったルーファスは中庭に足を運んだ。
人混みを掻き分けてその中心に向かう。
声が飛び交う。
「押すなよ!」
「触った奴はさっさとどっか行けよ」
「やった、これで1人目のお尻触れた!」
生徒たちが群がっていたのはリリだった。
なんとリリは亀甲縛りにされて身動きを封じられ、さらに白目を剥いて、ついにで泡まで吐いて気絶していたのだ。
今がチャンスと生徒たちはリリに群がり、ペタペタ、もしくはペシペシとお尻に触っていく。すっかりリリのお尻はお猿のように真っ赤になっている。
とりあえずルーファスも人混みを掻き分けて、リリのお尻に触ることにした。
赤いふんどしでキュッと締められた小振りなお尻に触れる。ちょっとひんやりして気持ちいい。そして、ちょっと硬い。
止まっていた鼻血がツーっと出た。
慌ててルーファスは鼻を押さえてその場から離れた。
べつに男のケツを触って欲情したわけじゃない。
そう、ルーファスは二人のお尻の感触を思い出してしまったのだ。
ビビのお尻は小柄な身体の割には大きくて揉みごたえがあった。
ユーリのお尻は小振りだったがとても柔らかかった。
「って、なに思い出してるんだよ!」
セルフツッコミ。
ルーファスは煩悩を消し去るため、今見たばかりの赤ふんのケツを懸命に思い出した。
「うう……なんか気分悪くなってきた」
なにが楽しくて男が男のケツなんか妄想しなきゃいけないんだ!
でも、そのおかげでルーファスの鼻血は止まった。
青ざめた顔をしてルーファスは廊下に戻った。
とりあえずラッキーにも、なんの努力も苦労もせずにリリの尻をゲットできた。
「(それでにしてもだれが縛り上げたんだろう?)」
しかも、早い者勝ちの勝負なのに、みんなの目の触れる場所にリリを残していくなんて?
「(犯人は抜けてるひとか!)」
間抜けのルーファスに抜けてるとか言われたおしまいだ。
なんにしても、これで残すはララのお尻だけだ。
ララの姿はさっき見たばかりだ。必死こいてカーシャから逃げていた。
安易にリリのお尻に触ることができるようになったことで、追跡者たちの標的はララの集中するだろう。ここからが激戦だ。
「(やっぱり帰ろうかな)」
戦う前に心が折れそうなルーファス。
「(でもあと半分なんだから、ラッキーでどうにか……ラッキーか)」
ラッキーはラッキーでも、いつもルーファスはアンラッキーだ。
ユーリがトボトボと肩を落として歩いてくる。
「どうしたのユーリ?」
「はぁ。カーシャさんには殺されかけるし、妖精は見失っちゃうし(ホントなんなのあのバカ女教師は)」
ホント困ったもんですカーシャには。
あれだけ派手な追いかけっこをしていれば、すぐに見つかりそうなものだが?
今度はビビが駆け寄ってきた。
「ルーちゃん!」
ビビの姿を見たユーリはちょっぴり頬を桜色にした。
「(ビビちゃん今日も可愛いなぁ、むふふ)」
女の子の格好をしていて、女の子になりたいと願っているのに、じつはユーリちゃんソッチ系なのです。詳しくはマ界少年ユーリを読んでね!
ビビはユーリの顔を覗き込んだ。
「え〜っと、ユーリちゃんだっけ? こんにちわ!」
「アタシの名前ちゃんと覚えてくれたんですね、嬉しいです!(カーシャさんに頼んだ惚れ薬早くできないかなぁ、むふふ)」
惚れ薬の話はマ界少年ユーリを読んでね!!
ビビはルーファスに顔を向けた。
「あと女の子のお尻を触るだけでいいのに、見つからないんだけどルーちゃん知ってる?」
「保健室でカーシャに追いかけられてるの見たけど、そのあとはさっぱり」
二人の間にユーリが割り込んできた。
「ビビちゃんはどんなお願い事をするんですか!」
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)