魔導士ルーファス(2)
「あははは、ばかな奴ら。だれもオレのケツ触れねぇでやんの!」
欲望に駆られた生徒を弄んで愉しんでいるのだ。
クラウスがビシッとバシッとリリを指差した。
「騒ぎの張本人は君だな!」
「そうさ、オレは妖精ケツタッチンのリリ。オレと双子のララのケツを触れたら、どんな願い事でも叶えてやるぜ」
「その話も本当かどうか怪しいところだ。ありもしない餌をちらつかせて、僕らを弄んでいるように思えてならないな」
「弄んでるのは認めるけど、願い事はホントだぜ。ウソかどうか、アンタがオレらのケツ触ってみろよ?」
「ならば世界平和でも願ってみるか。というわけだから生徒諸君、争いはやめて僕に願いを譲って――」
クラウスが言い終わる前に、生徒たちがリリに飛び掛かった。
「願いを叶えるのは俺だ!」
「世界一の魔導士になるのは私よ!」
ドドドドドドド!
逃げるリリ。
追いかけていく生徒たち。
残されたクラウス。
「…………」
だれもクラウスの話なんて聞いちゃいなかった。
クラウス挫折。
床に両手と両膝をついてしまった。
「学院では普通の生徒として扱ってくれって言ってるけど……言ってるけど……これでも一国の王なのに!」
王の権威もなにもなかった。
ポンとルーファスがクラウスの肩を叩いた。
「王様扱いされないのはいいことじゃないか。みんなクラウスのことを仲間だと思ってる証拠だよ!」
「……そ、そうなのか(単純に願い事に目が眩んで無視されたように感じたが)」
クラウスの思っているとおり!
辺りを見回したクラウス。
「ところでビビの姿が見えないようだが?」
「ビビならもうとっくに妖精追っかけて行っちゃったよ」
「……そ、そうか(恩を売るつもりはないが、この扱いは……ショックだ)」
助けたビビにまで軽く扱われ、ちょっぴり傷心のクラウス。
だが、一国の王として、この程度のことでいつまでも落ち込んではいられない。
アステア王国の繁栄を担う王として、クラウスは攻めの姿勢を表意した。
「僕もみんなの輪に入って妖精を捕まえてやる。それで願いを叶えてもらえば、だれも文句を言わないだろう。僕は行くぞ、だれにも負けない、僕は妖精のお尻を触ってみせる!」
お尻を触って見せる、お尻を触って見せる、お尻を触って……。
クラウスの言葉が廊下にエコーした。
ただの変態発言にしか聞こえない。
一国の王が『お尻を触る』なんて、政治問題に発展しそうだ。
熱く燃え上がるクラウスに感化されて、ルーファスの闘志にも火がついた。
「私だってお尻を触ってみせる。クラウスにだって負けないよ!」
「望むところだルーファス!」
漢[おとこ]と漢は互いの手をガッシリと握り合った。
勇気!
友情!
その先にあるのは勝利!
果たして勝利の栄冠をつかむのはルーファスかクラウスかッ!?
クラウスはルーファスの瞳を見つめた。
「行くぞルーファス!」
「おう!」
ルーファスならぬ男らしい返事。
今のルーファスはいつもとひと味もふた味も違うぜ!
廊下を駆け出すルーファス。
が、それをすぐにクラウスが止めた。
「待てルーファス!」
「なに?」
「廊下は走っては駄目だ!」
「……そ、そうだね」
「僕は生徒たちの模範にならなくてはいけないからね」
優雅に廊下を歩き出すクラウス。
せっかく燃え上がってたルーファスの心が、急速に冷えていく。
「(クラウス……本気で妖精捕まえる気あるの?)」
あるにはあるだろうが、こんな調子で歩いていて、捕まえられるかどうかは不安だ。
ルーファスはクラウスとは別の道を進むことにした。
「私はあっちの廊下を探すよ」
「健闘を祈る!」
「あ、うん、クラウスもがんばって(なんだかなぁ)」
クラウスと別れたルーファスは、妖精を探して歩き回った。
いったい妖精たちはどこにいるのか?
それはね、クラウスが歩いて行った方向です!
リリが飛んで行った方向にクラウスは歩いて行ったのだ。
ついついルーファスはクラウスと別れてしまったが、自ら妖精の手がかりを手放しのだ。
まあ、あのままクラウスと一緒にいても、歩いて妖精を捕まえられるかどうかは怪しいかったが。
今からリリのほうに行って、途中でクラウスに会ってしまうのも気まずいし、ルーファスは道を変えずに進むことにした。
騒ぎはどんどん大きくなっているようなので、きっとすぐにララのほうも見つかるだろう。
ドドドドドドド!
ほらさっそく見つかった。
パンチラしながら逃げるララ。
先頭を走ってララを追っているのはユーリだ!
「待ちやがれボケッ!」
ちょっと素が出てますよユーリちゃん。
ここでボーッとしてたり、逃げてしまったら、さっきと同じ結果になってしまう。
ルーファスは妖精ララを捕まえなければならない!
――と言っても、ルーファスにはなんの作戦もなかった。
ルーファスが戸惑っている間にも、ララと生徒の大群が押し寄せてくる。
ララはもう目の前だ。
「メガネ退け!」
「えっ、私のこと?」
ララに言われても、自分ことだと理解するのにルーファスは時間を要した。まだメガネに慣れていないのだ。でも名前じゃなくてメガネ呼ばわりされるってことは、すっかりメガネキャラの仲間入りだねルーファス♪
ルーファスの瞳に映ったいちごパンツのドアップ。
次の瞬間、ルーファスの顔面が踏みつけられた。
「ごべっ!」
ララに踏んづけられたルーファス撃沈。
そこへユーリも突進してきた。
「邪魔邪魔退いてーっ、きゃっ!」
可愛らしく悲鳴を上げたユーリとルーファスが激突。
後続の生徒たちも倒れたルーファスたちにつまづいて、将棋倒しになってしまった。
ユーリはすぐに起き上がろうとしたのだが――。
「きゃっ、だれアタシのお尻触ってるの!?」
ユーリの目の前にはルーファスの顔。
ぷにぷに。
ユーリを抱きしめながら倒れていたルーファスの手は、小振りなヒップを鷲掴みにしていた。
「……わ、わざとじゃないんだ!」
ぷにぷに。
「死ね!」
顔を真っ赤にしたユーリちゃんがグーパンチを放った。
「ぶへっ!」
思いっきり顔面を殴られたルーファス。
虫の息のルーファスは鼻血を出しながら床にへばってしまった。
「ビンタじゃなくてグーって……ひどいよ(ぐすん)」
しかも女の子じゃなくて、じつは男のグーパンチという……可哀想なルーファス。
さらにユーリも生徒もララを追っかけてすでに行ってしまった。
鼻血の海に沈みながら、ルーファスは力尽きたのだった。
ドドドドドドド!
そこへまたも地響きが聞こえてきた。
逃げるリリがこっちへ向かってくるではないか!?
先頭で追いかけているのはカーシャとファウストだ。
「邪魔だファウスト!」
「カーシャ先生こそもう一匹の妖精を追いかければよいでしょう!」
「あいつに先に目を付けたのは妾だ!」
「私は召喚されたときから目を付けていたのですよ!」
妖精を捕まえるとか、願い事を叶えてもらうとか、そんなことじゃなくて、張り合うことがメインになってる二人だった。
ルーファスはこの場から立ち上がれなかった。
うさぎさんのパンツが見えた!
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)