魔導士ルーファス(2)
パンツに願いを2
急いで召喚実習室を飛び出したが、もちろん妖精たちを見失ってしまったルーファス。
とりあえず辺りを探してみると、廊下の壁にらくがきを発見した。
――リリ様参上!
と、スプレーかなにかで描かれたらくがきは、若気の至り臭がぷんぷん臭っていた。
「本人が描いたのかな?」
学校関係者でこんな大胆なマネをする者はないので、とりあえずあの妖精の仕業に間違いないだろう。
ここから妖精はどこに向かったのだろうか?
ぼーっとらくがきをルーファスが眺めていると、だれかが後ろから近付いてきた。
「あーっ、ルーちゃん壁にらくがきなんてイケナイんだぁ!」
「わ、私じゃないよ!」
ルーファスが振り返った先にいたのはビビだった。
「わかってるよ、ルーちゃんにこんな大胆な犯行できないもんね」
「あの妖精が描いたんだよ、きっと」
「あの妖精?」
「召喚の追試で……」
「もしかしてまた失敗しちゃったのぉ?」
「で、でもまだ不合格って決まったわけじゃないんだ!」
「ふ〜ん(もう召喚とか一生しないほうがいいんじゃないの。また騒動にならなきゃいいけど)」
騒動にならないわけがない!
そーゆー期待をルーファスは裏切りません!
少なくともルーファス含めた4人が、妖精と追いかけっこをしている。この輪が広がれば大騒動に発展するのは間違いない。
そして、ここでビビと出会ってしまったために、ビビの参戦フラグが立ってしまった。
ルーファスは騒ぎが大きくなる前に、さっさと事態を収拾しなきゃいけない。参戦人数が増えれば増えるほど、ルーファスは不利になっていく。
「じゃ、私は追試の続きがあるから!」
駆け出したルーファス。
「ちょっと待って!」
ビビが呼び止めた。
「そっち召喚室じゃないよ?」
首を傾げたビビ。
「逃げ出した妖精2人組を捕まえなきゃいけないんだよ。召喚は失敗したけど、使役できたら合格にしてもらえるんだ」
「だったらあたしも手伝うよ!」
「ホントに!?」
「うんうん、だってルーちゃんに合格して欲しいもん」
「ピンクの服を着た少女の妖精と、青い服の少年の妖精なんだけど、空を飛んでるから見たらすぐわかると思うんだけど、とにかく二人を捕まえて欲しいんだ。それで私が二人のお尻に触って願い事をすれば、どんな願いも叶えてくれるから、それで追試試験を合格にしてもらおうと思って」
ギラ〜ンとビビの眼が妖しく輝いた。
……しまった。
うっかりルーファスは全部説明してしまった。
「願い事が叶うってホント?」
「そ、そんなことを言ってないよ!」
慌ててルーファスは否定するがもう遅い。
「絶対言ったもん。でもお尻に触るってどーゆーこと?」
「二人組の妖精のお尻を触るっていうのが、願い事を叶えてくれる条件らしいんだ」
「ルーちゃんのえっちぃ」
「しょ、しょうがないでしょ! そういう条件なんだから!」
否定したにも関わらず、質問に答えてうっかり認めたも同然。
ビビはヤル気満々だった。
「あたしも願い事叶えてもーらおっと♪」
ルーファスを置いて駆け出したビビ。
「ビビ!」
急いで呼び止めようとしたが、もうビビはどっかに行ってしまった。
こうやって騒ぎはどんどん大きくなっていくのだ。
ライバルがまた独り増えてしまって、ルーファスはグズグズしてられない。
一刻も早く妖精を見つけたいが、手がかりもない。
廊下の向こうから女子生徒二人が雑談しながらやって来た。
「今の話本当かな?」
「本当なら、さっき見つけたときに触っておけばよかったー」
「でも1人だけじゃダメなんでしょ?」
まさかこの話って?
ルーファスは二人に声をかける。
「あのちょっといい? その話ってもしかして妖精のお尻に触るとって話?」
「そうですけど」
肯定されてルーファスショック。
すでにウワサが広まってしまっている。
慌てるルーファス。
「その話だれから聞いたの!?」
「ピンク色のツインテールの子からですけど。妖精を見なかったって聞かれて、願い事の話をしてくれました」
ビビだ。
ウワサを広めるのが早すぎる。このペースでビビが生徒たちに聞いて回ったら、あっという間に学院は大騒ぎになりそうだ。不幸中の幸いは、放課後で生徒たちが少なくなっていたことだろう。
しかし、妖精たちが学院の外にまで飛び出したら、ウワサもいっしょに街に飛び出してしまう。
ルーファスは二人の女子生徒に頭を下げた。
「ありがとう、じゃ!」
急いでルーファスは駆け出した。
女子生徒たちと別れてから、ルーファスはハッとした。
「(慌てて妖精をどこで見たか聞き忘れた)」
闇雲に探すよりも聞き込みをしたほうが早そうだ。きっと追いかけっこをしている姿は目立っているだろう。けど、人に尋ねるときは、願い事のことは伏せたほうが良さそうだ。
――という考えは甘かった。
ルーファスは新たな壁のらくがきを見つけた。
デカデカと描かれているリリとララの似顔絵に添えられている言葉。
――ウチらのお尻にタッチできたら、どんな願いも叶えてあげるよ(ハートマーク)。
「似顔絵……うまい」
そんなとこに感心してる場合じゃないぞルーファス!
辺りを見回すと、そんな感じの参加者を募って煽るようならくがきがいっぱいあった。
妖精たちにとってはゲームなのだ。
中庭から声が聞こえてきた。
「おい、妖精見つかったか?」
「いちごパンツなのは確認できたけど、触る前に逃げられた」
さらに別の生徒がその輪に駆け寄ってきた。
「ファウスト先生が妖精を捕まえようとしたところに、カーシャ先生が乱入して大騒ぎになってるらしいぞ!」
その話を遠くから聞いたルーファスは青い顔をした。
「またカーシャったら……はぁ」
犬猿の仲の二人はいつも顔を合わせるとそうだ。
こうやってどんどん騒ぎは大きくなっていく。
再びルーファスが捜索を開始しようと足を一歩出すと、ちょうど校内放送が流れてきた。
《全校生徒のみなさんお知らせします。妖精が校内に紛れ込んでいますが、くれぐれも捕まえようとしないでください。生徒のみなさんは節度のある行動を心掛けてください》
騒ぎは驚異的なスピードで広まっているらしい。校内放送で注意がされるほどだ。
廊下で地鳴りがした。
ルーファスは眼を丸くした。
ララがこっちにやって来るではないか!?
またとないチャンスだが、その後ろからはトップを走るユーリと、その後ろにはバッファローの群れのような生徒たち。
ルーファスは命の危険を感じた。
「こっち来ないで!」
ドドドドドドドド!!
生徒の群れに呑み込まれたルーファス。
「ぎゃああぁぁぁぁ〜」
ルーファスの悲鳴も足音の地鳴りに呑み込まれる。
ドドドドドドドド!!
欲望に駆られた生徒たちに眼中にはルーファスなど映っていなかった。
生徒たちが去った廊下には、服がボロボロになって潰れたルーファスが残されていた。
「うう……みんなヒドイよ」
そんなルーファスに手が差し伸べられた。
――違った。
手を差し伸べるのではなく、襟首をつかまれて強制的に立たされた。
「妖精はどこだ?」
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)