魔導士ルーファス(2)
ユーリは事務員に眼を向けられた途端、スマイルを浮かべた。もちろん営業スマイル。
犬は群れの中で格付けをする。それはあくまで本能によるものだが、ユーリは打算でそれを行っている。そーゆー子なのです、ユーリちゃんは。詳しくはマ界少年ユーリを読んでね!
追い詰められたルーファスは、前へ進むしかなかった。
もうすでに魔法陣は描き終わっている。
「じゃあ呼び出しますから、行きますよ、行くからね、行っちゃうよ?」
「早くしろルーファス!」
踏ん切りの付かないルーファスにファウストの叱咤が飛んだ。
急かされたルーファスは勢い任せに召喚した。
「出でよイ――」
まだ最後まで言葉を発していないというのに、魔法陣が輝き何かが空間の歪みから飛び出してきた。
「「大当たり!」」
と声を合わせながら現れたぷかぷか浮いた2つのシルエット。
召喚されたのはピエロのような衣装を着たちっこい少年少女だった。
唖然とするルーファス。
「……失敗した」
また予定外のものを召喚してしまったのだ。
だが失敗は失敗でも、不合格と決まったわけではない。
ファウストが口を開く。
「使役できたら合格だ」
そうだ、まだチャンスはあるのだ!
ルーファスはさっそく契約交渉をしようとした。
「ともだちになってください!」
友好による契約交渉だった。
ピンク衣装の少女がイヤそうな顔をした。
「キモイ〜」
ブルー衣装の少年が笑った。
「ぷぷっ、ダッセーメガネ」
メガネデビューしたばかりのルーファス。レンズはグルグル渦巻く分厚いもので、メガネによるイメチェンのマイナス効果を引き出してしまっている。
ルーファスはめげずにがんばる。
「ともだちになってください!」
……し〜ん。
友好による交渉は無理そうだ。
ルーファスは気負いを入れてがんばる。
「こ、この野郎、私の言うことを聞いてくださいコンチキショー!」
たぶん威圧したつもりなのだろうが、ぜんぜんなってない。
少女は少年と顔を見合わせた。
「変な奴に呼び出されちゃったけどどーするーリリ?」
「決まりなんだからしかたねぇーだろ。さっさとゲームしようぜルル」
少女のほうがリリ。
少年のほうがルル。
ゲームとはいったい?
ユーリがハッとして眼を丸くした。
「思い出しました! 伝説の妖精ユニットに違いありません。性格が悪いですが、運良く召喚できた者には幸福を訪れるというケツタッチンです!」
ファウストが頷いた。
「うむ、たしかにケツタッチンのようだ。私もはじめて見た」
幸運が訪れる妖精ケツタッチン。
ということは?
「私に幸運を訪れるってこと!?」
ルーファス興奮。
チッチッとリリが舌を鳴らした。
「呼びだしただけじゃダメだぜ。オレとルルのケツを触れたら、どんな願いでも叶えてやるよ」
「簡単には触らせないけどー」
ルルはお尻を突き出し、スカートから覗いたパンツをフリフリ振った。いちごパンツだ。
女の子のお尻にタッチなんて、痴漢プレイだ!
そんなことルーファスにできるハズがない。
「でも触れれば追試に合格できるんだ」
どんな願い事でも叶うというのに、欲がないのか、目の前のことしか見えていないルーファス。
だがユーリが違った。
大いなる願いを込めてルルに飛び掛かった。
「アタシは!(本物の女の子になりたい!)」
ユーリの手が宙をつかむ。いちごパンツまであと一歩で逃げられた。
「きゃはは、捕まえられるもんなら捕まえてみな。ウチのお尻だけ触っても願い事は叶わないよ。ほら、リリが逃げちゃうよ」
リリは宙を飛びながら部屋の外に出ようとしていた。その後ろ姿は中身丸見え。リリもスカートのような衣装になっていて、空飛ぶ後ろ姿は丸見えなのだ―― 赤いふんどしが。
愕然とショックを受けるルーファス。
「あ、あんなの触りたくない!」
男がふんどし姿の男のケツを触るなんて、変態行為だ。
ルーファスは痴漢にも変態にもなれず、もはや断念しようとしていた。
しかし中間のユーリはどっちもイケる口だった。
「絶対に捕まえてやる!(そしてアタシは女の子になる!)」
どっちのケツを触ることにも躊躇なし!
部屋を出て行った妖精たち。それを追ってユーリも姿を消した。
残されたルーファスの眼前に羊皮紙が突き付けられた。
「ルーファス、契約を忘れたとは言わせんぞ?」
ファウストと交わしてしまった悪魔の契約。
「べつに言い訳とかしませんよ。もう不合格でいいです」
「ならば契約に基づいてあることをしてもらうが、いいな?」
「へ? 言い訳させないための契約じゃ?」
「予定外のモノを召喚し、それに対処できなかったときの契約だ。そう契約書には書いてあったはずだが?」
……勢いでサインしちゃったから読んでない!
が〜ん。
ルーファスショック!
「そ、そんなぁ」
いつか悪徳商法に引っかからないかと、ルーファスのことが心配になる。
しかし、ルーファスに残された道はまだある!
あの妖精を使役できればいいのだ。
てっとり早い方法は、お尻に触って願い事を念じる。
「がんばろう。お尻に触るだけでいいんだ。でもやっぱりムリですよファウスト先生。男の子のお尻はがんばって触りますけど、女の子はちょっと〜」
「こんなところで油を売っているヒマはないぞ」
「なんでですか?」
「編入生もそうだが、事務員も眼の色を変えてケツタッチンを追って行ったぞ。学院中に噂が広まるのも時間の問題だろう」
どんな願い事も叶えてくれる。そうなったら、だれもが眼の色を変えて妖精を追いかけるだろう。
さらにファウストは付け加える。
「ケツタッチンに願いを叶えてもらえるのは1人だけだ。願いを叶え終えたケツタッチンはすぐに姿を消してしまうのだ」
「ますます急がないとダメじゃないですか(ますます合格できる気もなくなってきた)」
「わかったら早く行け」
「ファウスト先生は行かなくていいんですか?」
「もちろん行くに決まっているだろう!」
行くのか!
ルーファスを置いてファウストも部屋を飛び出した。
独り召喚実習室に残されたルーファスも慌てて妖精たちを追った。
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)