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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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パンツに願いを1


 運命の日。
 珍しく凜とした表情をしているルーファス。
 その前には薄ら笑いを浮かべるファウスト。
 しんと静まり返った召喚実習室。
 ルーファスが息を呑んだ音が響いた。
 そして、ファウストが重々しく口を開く。
「わかっているな?」
 強烈なプレッシャーを含んだ声だった。
 ルーファスの顔から滝のような汗が流れた。
「や、やっぱり今日はやめにしませんか?」
「ならば即、赤点決定だ!」
「……ですよねぇー(ぐすん)」
 温情に温情を重ねて、どうにか追試を受けられることになった。
 これまでの失敗を考えれば、とっくに愛想を尽かされ、不合格にされているところだ。
 そこをなんとか、不慮の事故ということで、追試に追試を重ねてきたが、さすがにそろそろ次はない。ファウストがそういうプレッシャーを放っているのだ。
 ここでルーファスの召喚戦歴を振り返ってみよう。
 9月4日シルフ――普通に召喚失敗で、追試が決定。
 9月7日ハリュク――呼んでもないビビを呼びだしてしまう。
 9月22日ガイア――練習中に未知との遭遇をしてしまい王都を巻き込んだ事件に発展。
 9月23日ノーム――呼んでもないビビの母親を呼び出してしまう。
 10月2日ノーム――呼んでもないユーリを呼びだしてしまう。
 ユーリとは諸事情から地元を飛び出した女装ッ娘なのだが、ルーファスは未だにユーリが男ということを知らなかったりする。現在ユーリはカーシャの偽装工作によって、クラウス魔導学院に編入手続きをしている最中だ。詳しくはマ界少年ユーリを読んでね!
 そして、本日10月4日シルフ。発端となった召喚試験から1ヶ月。ルーファスにとっては、怒濤の流れで過ぎ去る早いような、内容が濃いために遅いような1ヶ月だった。
 ファウストが1枚の契約書をルーファスの顔面に突き付けた。
「ここにサインするのだ!」
「……え?(これってファウスト先生お得意の悪魔の契約書じゃ)」
「今回の追試はいかなる理由があろうとも、失敗は許さん。言い訳ができぬように、ここにサインするのだッ!!」
 ファウストの気合いに押され、物怖じしたルーファスは契約内容をよく読まないでサインしてしまった。
 満足そうに微笑んだファウストは、すぐに契約書をしまってしまった。
 サインをしてしまって、時間が経ってからルーファスはじわじわと恐怖が湧いてきた。
「……しまった(とんでもない契約書にサインしちゃったよぉ。カーシャとのやり取りを見てれば、取り立ての厳しさは知ってたのに)」
「では召喚の準備に取りかかるのだ」
「いや……心の準備が……」
「何度目の追試だと思っているのだ。心の準備など無用だろう!」
「は、はい! 今すぐに取りかかります!」
 焦って準備をはじめるルーファス。この焦りが失敗に繋がらなければいいが……。
 召喚の成功率を高めるための魔導具を並べ、魔力が注入されている召喚用の水性ペンキのバケツに巨大な筆を浸けた。
「用意できましたファウスト先生!」
「うむ、準備だけは上達しているようだな」
「魔法陣もテキストを見なくてもバッチリ描けます!」
「自慢できるほど難しい魔法陣ではないぞ。初歩の初歩の魔法陣だ。あんなもの、空で描けて当たり前だ」
「ですよねぇー」
 一気にルーファストーンダウン。
 どんどん自信が失われていく。
「なんかもう召喚術とか一生成功する気がしないんですけど」
「召喚士[サモナー]に弱気は禁物だ。召喚相手によって、こちらの態度を変えることは、契約成立の大きな要素である。無償の契約となれば、なおさらこちらの態度が重要なことを忘れるな。力に従う者には威圧や武力で接する必要がある」
「武力とか威圧とか苦手なんですけど」
「ならば、はじめから友好的な相手を召喚するのだな」
 呼び出したい相手をちゃんと呼び出せるなら、これまでの失敗だってなかった。
 なかなか魔法陣を描き始めないルーファス。ペンキが乾いてしまいそうだ。
 ファウストが痺れを切らせる。
「早くしろ」
「トイレ行っちゃダメですか?」
「却下だ」
「追試内容をレポート提出とか変更できませんか?」
「却下だ」
「そこをなんとか……」
「ならんな。召喚を成功させる以外は認めん」
 だが、ここでファウストは悪魔の笑みを浮かべて続ける。
「しかし、私とて悪魔ではない。サービスしてやろう」
「どんな?」
「どんなモノを召喚しようと、使役できたら合格にしてやろう。もしも魔王級を使役できたら、A++をやってもいいぞ、クククッ」
 また不慮の事故で予期せぬ相手を召喚してしまっても、とにかくその相手と召喚しろというのは、ある意味難易度が上がっているような気がする。最悪、生き物ですらないものを呼びだしてしまったら、使役とか契約以前の問題だ。
 けれど、呼び出す相手によったら好条件で物事が運ぶかもしれない。
 ルーファスは思った。
「(人なつっこい犬でもオッケーなのかな?)」
 オッケーだとしても、犬を呼び出す魔法陣を知らなきゃダメだ。もちろんルーファスは知らない。そもそも、今回の試験では、召喚するものは固定されている。
 固定されているのにも関わらず、違うものばっかり呼び出してるから、追試に追試なのだ。
 ルーファスは意を決して魔法陣を描きはじめた。
「よし、どんなものでドンと来い!」
 固定されているのに、なにが飛び出すかわからない気満々だった。
 魔法陣を書き終え、ルーファスが詠唱をはじめようとしたとき、実習室のドアが開いた。
「こちらが召喚実習室になります」
 部屋に入ってきたのは事務員の女性と、そのあとに続いて来たユーリだった。
 事務員はファウストと目が合って慌てた。
「使用中でしたか、失礼しました。編入生に校内を案内していたところでして」
「まだ準備中だ構わん。せっかくだから、見学して行くがいい」
 ルーファスが目を丸くした。
「はっ?」
 ただでさえ失敗確立が高いのに、見学者なんかいたら、ルーファスは緊張でさらに失敗してしまう。
 活発そうでボーイッシュってゆーか、じつはボーイなユーリが瞳をキラキラさせた。
「見学させてもらえるなんて嬉しいです!(オーデンブルグ家の家訓――とりあえず人の好意は笑顔で受けとけ!)」
 ぶっちゃけ見学自体はどーでもいいと思ってるユーリだった。
 慌てるルーファス。
「見学なんてダメダメ、ダメ! ファウスト先生、もしものことがあったら大変ですよ!」
「失敗しなければいい話だ、ククッ」
 その笑いは成功すると思ってない感じだ。
 さらにユーリも白けた眼でルーファスを見ている。
「(あの人そーとー使えないし、失敗確実っぽいなぁ。事故に巻き込まれないようにしなきゃ。あっ、軽く巻き込まれて損害賠償請求するっていうのも手かも)がんばってルーファス!」
 心のこもってない応援だった。
 ルーファスはプレッシャーで押しつぶされそうだった。自分に集まる視線から逃れられない。その視線の1つが『早くしろよ』という感じで睨んでいる。
 ビビるルーファス。
「(怖いよユーリ。なんか僕にだけキツイ気がするなんだけど……気のせい?)」
 きっとそれは気のせいじゃない。