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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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 その一撃も素早く立ち上がったルーファスの手によって止められた。
 再びそこで酔っぱらったオッサンが近付いてきた。
「だから別の場所でやれって言ってんだろーッ!」
 オヤジの鉄拳!
 またもルーファスは避けきれずに殴られ地面に倒れた。
 この状況に入れずに見守っていたアインは、ある仮説を立てた。
「まさか……女の子には強くても、オヤジには弱い!?」
 あっ、ルーファスが逃げた!
 オッサンから逃げた!
 だが、逃げただけではない!
「君が美しすぎて立ち眩みが……」
 それはきっとぶん殴られたからだ。
 次から次へとくどいていたルーファスの足が止まった。その表情は驚きに満ちあふれている。
「後光が差している!」
 その視線の先を歩いていたのは空色ドレスの麗人。
「まさに君こそ空に輝く真の太陽だ!」
 ルーファスがローゼンクロイツをくどいたーーーっ!!
 ビビ&アインショック!
 大鎌がビビの手から落ちた。
「疑惑はあったけど……あったけど……あからさまにやおいなんて!!」
 ローゼンクロイツのストーカーであるアインのショックも計り知れない。
「ローゼンクロイツ様の性嗜好に口出しなんて恐れ多いですけど、だれかのものになるなんて……許せません!」
 アインは恋の炎を燃やした。
「ファイアーボール!」
 炎の玉がアインの手から投げられた。
 その攻撃を防いだのはルーファスではなくローゼンクロイツだった。
「ウォータービーム(ふにふに)」
 一瞬にして炎は水に呑まれて消えた。
 ローゼンクロイツの瞳は目の前のルーファスではなく、アインを見据えていた。
「おいたはダメだよ(ふあふあ)。ライトチェーン(ふにふに)」
「ああんっ、ローゼンクロイツ様ぁ!」
 アインは自らライトチェーンに巻き付いて簀巻きにされた。
 ふあふあしているローゼンクロイツの前で、ルーファスはひざまづいていた。
「君には歯の浮くような飾った言葉なんて必要ない。君を現す言葉はこの一言で十分だ――荘厳!」
 そう‐ごん【荘厳】――重々しくおごそかで立派なこと。威厳に満ちあふれているさま。
 たしかにそのふあふあした感じは悟りの境地を開いたようにも見える。
 その表情はアルカイック・スマイル――口の両端をかるく引き上げる微笑は、上機嫌や陽気や愉快といった感情を超越し、慈悲深い呪術的な神の領域の微笑。単純に若干アヒル口っぽいとも言えるが。
 そのローゼンクロイツの口が言葉を言葉を紡ぎ出す。
「……呪われてるね、そのメガネ(ふにふに)」
 エメラルドグリーンの瞳の奥で輝く五芒星[ペンタグラム]は多くを見通す。
 さらにもう一言付け加えた。
「キミの名前は?(ふにふに)」
 目の前にいるのはルーファス。ローゼンクロイツが知らないハズがない。
 つまり……?
「嗚呼、なんということだ。僕としたことが、己の名前を君の心に深く刻み込んでもらうことを忘れていたなんて。僕の名前は愛の貴公子ことアル・ツヴァン3世!」
 ルーファスじゃない!?
 ビビとアインは大きな誤算をしていた。
 ルーファスの性格が変になったのではなく、ルーファスの身体が別の人格に乗っ取られていたのだ。
 どおりでローゼンクロイツが男だと知らずにくどいたわけだ。
 大鎌をしまったビビがルーファスの顔をまじまじと覗き込んだ。
「ルーちゃんじゃないの?」
「ルーちゃんとはこの身体の持ち主のことかい? 僕はこの身体の持ち主とはまったくの無関係の赤の他人の幽霊さ!」
 おまけ付きならぬ、おばけ憑きのメガネだった。
「早くルーちゃんの身体から出てって!」
 ビビは必死になってツヴァンのメガネを取ろうとするが、ヒラリヒラリとかわされる。やっぱり女の子には強いらしい。
 だったらローゼンクロイツならどうだ!?
 でもローゼンクロイツはふあふあしているだけだった。
 ビビはローゼンクロイツに顔を向けた。
「ローゼンも手伝ってよ、こいつをルーちゃんの身体から追い出して!」
「……めんどくさい(ふぅ)」
 で片付けられた。
「もぉ、ローゼンのばか!」
 頬を膨らませたビビはひとりでなんとかしようと奮闘。
 でもやっぱりダメだ。
 ツヴァンはルーファス以上にルーファスの身体を自由に操っている。息を切らせているのはビビだけだ。
 ほんの一瞬、ツヴァンの動きが止まった。
 ビビの手がメガネに伸びる。
 バシッ!
 その手は呆気なくツヴァンに捕らえられた。
「君に僕の自由は奪えない」
「ルーちゃんの身体から出てって!」
「そんなにこの身体の持ち主が大事なのかい――この僕よりも!!」
「当たり前でしょ!」
 そりゃ当たり前だ。
 ツヴァンはルーファスの顔を借りて真面目な表情をした。
「君とこの身体の持ち主の関係は?」
「……ともだち。ただのともだちだけど、それがなにか?」
 ちょっと怒ったような言い方だ。
「ただの友達か……まあいい。君が本当に僕にこの身体から出ていって欲しいと願うのなら、1つ条件がある」
「どんな?」
「こんな僕だが、この世でただひとり……告白できなかった女性がいる。彼女に告白できなかったことで、僕は死んでも死にきれずに愛用していたメガネの呪縛霊となってしまったんだ。条件は彼女を捜し出し、僕と合わせて欲しい」
 呪縛霊になったいきさつは置いといて、なんでそんなメガネ売ってんだよ!
 ビビは条件を呑むことにした。
「うん、わかった。それでその女性の手がかりは?」
「運が良ければまだこの街に住んでいると思う。名前はクリスチャン・アリッサ」
 少ない手がかりだ。
 しかし、この名前に反応した者がいた。
「……知ってるよ(ふにふに)」
 ただふあふあしてるだけじゃなくて、ちゃんと話を聞いていたらしい。
 ツヴァンは驚いた。
「知ってるのかい!?」
「知ってるよ、どこで働いているか(ふにふに)」
「会わせてくれ、会わせてくれたら成仏でも何でもしてやる!」
 必死に訴えたツヴァン。
「いいよ(ふあふあ)。そこに行く用事があったから(ふにふに)」
 こうしてローゼンクロイツの案内でアリッサの元へ行くことになったのだった。

 案内された場所は目と鼻の先だった。
 アンダル広場を見下ろす聖リューイ大聖堂。
 この場所は観光のために一般開放されている部屋と、関係者以外立ち入り禁止の部屋に分かれている。
 ローゼンクロイツが進んでいく先は関係者以外立ち入り禁止の場所。
 先頭を歩くローゼンクロイツの姿を見ながら、ビビはとても心配そうな顔をしていた。
「(あのローゼンが自信満々に歩いていく……絶対に迷うはず!)」
 方向音痴と言えばローゼンクロイツ。彼の知り合いだったらみんな知っている。
 そして、ふとローゼンクロイツの足が止まった。
「……迷った(ふにゅ)」
 やっぱり!!
 わかっていた、わかっていた結果だ。なのにローゼンクロイツを先頭に歩かせたのが悪かった。
 この場所にいるということまでわかっていれば、あとは簡単に見つかるかもしれない。聖リューイ大聖堂に来たこと自体が迷った結果という可能性も捨てきれないが。
 ツヴァンは近くにいたシルターに尋ねることにした。