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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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ルーファスエボリューション3


 リューク国立病院で騒動があった翌日。
 今日は学院も休みのガイアの休日で、ルーファスは目覚ましをかけずにスヤスヤ安眠。
 ――のハズだったのだが。
「ルーちゃんおはよーぐると!」
 部屋に飛び込んできたビビがルーファスの腹にエルボー!
「うげぶっ!!」
 奇声を上げてルーファスがエビのように飛び上がった。
 激痛で目を覚ましたルーファスだったが、目の前にいるビビがぼやけて誰かわからない。
「だれ? リファリス姉さん……じゃないよね」
 ルーファスビジョンでは、ビビの頭がちょっとカニっぽく見えている。ツインテールがハサミの部分だ。
「ちょ〜可愛い仔悪魔のビビちゃんに決まってるでしょ〜(やっぱり目よくなってないんだ)」
「あぁ〜、ビビか。ってなんで人の部屋に勝手に……」
「勝手じゃないよ、ちゃんとお姉さんに入れてもらったし」
「僕より先に起きてるのか……リファリス姉さん」
 まるでいつも自分の方が先に起きているような言い方だが、いつも先なのはルーファスの目覚まし時計の音で起こされているリファリスだ。
 朝――と言っても昼近いのだが、元気ハツラツなビビちゃん。
「よしっ、張り切ってメガネ屋さんに行こーっ!」
「……めんどくさいよ」
 テンションが低いルーファス。
「ルーちゃんもっと元気出さなきゃ1日がはじまらないよ!」
「低血圧なんだから仕方ないよ。きのうは遅くまでネットやってたし(レベル2も上げられたし)」
 まったく目をいたわる気ナッシング。しかもやってたのはおそらくオンラインゲームだと思われる。
 だるそうにルーファスは上半身を起き上がらせた。無精全開なので、髪の毛が結わいたままだ。結わいたままで寝たせいで、ボサボサに毛羽立っている。しかも年季の入ったTシャツの襟がヨレヨレなのがチャームポイントだ。
 ボリボリとルーファスは頭を掻いた。
「めんどくさいよ。眼鏡屋さんどこにあるか知らないし」
「それならちゃんと調べてきたよ! そこのお店今なら全品20パーセントオフだって!」
「ふ〜ん」
 と言った直後に再び就寝。
「ルーちゃん起きて!」
「あと5分、いやあと10分、やっぱり1時間」
 伸びている。
「ルーちゃん起きてってば!」
 身体を揺するが起きてくれない。
 ビビちゃんエルボーはリファリスの目覚ましボールより効果が薄いらしい。
 しばらくがんばったビビだが、大きく息を吐いてあきらめた。そして、部屋を出て行ってしまった。
 部屋も静かになって安眠パラダイスに浸るルーファス。
 だが、そこに恐怖が忍び寄っているとは思いもしなかった。
 ビビがリファリスを連れて帰った来た。
「起きろルーファス!」
 リファリスはルーファスの両足首を掴んで、グルンと遠心力をつけて投げた!
 投げた! 投げた! 投げたーっ!
 カメラアングルが3カット切り替わるかのごとく3回言ってみましたが、投げられたのは1回です。
 投げられたルーファスは壁に激突して、そのままマンガの山に落ちた。
「いっ……ててててて……リファリス……姉さん……今のはちょっと……やりすぎ」
「ハァ? アンタがこんなカワイイ女の子を寝坊して待たせるのが悪いんだろう」
「(べつに寝坊したわけでもないんだけどなぁ。勝手に家まで来たんだけど)」
 あえて口には出さない。口に出したところで、リファリスを前にしたら意見は消されてしまう。
 とりあえず目も覚めてしまったので、ルーファスは仕方なく出掛ける準備をすることにした。
「顔洗ってくるね。ビビはリビングで待ってて」
「うん、じゃあお姉さんとお昼ご飯食べてるね!」
「(ひとんちに押しかけて来て、昼ご飯まで食べる気なんだ。まるでカーシャだ)」
 カーシャのほうがもっと厄介で、ルーファス宅にはカーシャ専用の食器が勝手に置かれていたりする。

 昼食と身支度を済ませて、ルーファスとビビは街に出た。
 王都での公共の移動手段はいくつかある。
 十数年前に全路線が開通したアステア鉄道は、王都の外周を一周する路線にある4つの駅と、王都のほぼ中央にあるアンダル駅とが繋がっており、さらに外周の4つの駅からはほかの街への移動も可能だ。
 もっと細やかな移動をするなら、乗り合い馬車だ。馬車は一定の路線を運行しているものと、自由に行き先を指定できるものとに分かれている。この馬車を引く馬は実際の馬ではなく、馬を模った魔導具である。なぜ馬の形をしているかというと、街の外観を損なわないための配慮である。
 近年になって人口の増加などに伴い、乗り合い馬車を大幅に削減して、バスを導入する案が検討されている。
 ルーファスとビビは馬車に乗って商店街までやって来た。
 この場所は王都の中でも古くからの商店が建ち並んでいる場所で、ここにあるドラゴンファングという鍛冶屋は王都アステアでも3本の指に入る名工がいる。
 という場所でひときわ目立つ新装開店の電飾。古くからの店が並んでいるとはいえ、たまには新参の店があったりする。
 しかも、そのお店がビビの見つけてきたメガネ屋だったりする。ちゃんと20パーセントオフののぼりも出ている。
 店内に一歩足を踏み入れると――。
「おめでとうございます!」
 店主がすっ飛んできて、こう続ける。
「開店から10人目のお客様でございます、コケッコー!」
 もしかして景品とかもらえちゃったりするんだろうか?
 なんて淡い期待を抱くとか抱かないとかの問題ではなく。語尾に『コケコッコー』がついてたとかいう些細な問題ではなく。
 店主の顔が変だ!!
 仮面舞踏会でよく看る鳥さんの羽根がいっぱいついた目元を隠すマスカレードマスク。よ〜く見ると、目の穴にレンズがはめ込んであって……歴としたメガネだ!
「景品はとくになにもございませんコケッ」
 景品云々とかよりも、やっぱり語尾にも注目したくなる。
 ちょっと帰ろうかどうか迷い出すルーファス。
「(このお店怪しすぎる……とくにこの店員なのかよくわかんない人が)」
 でもビビはすでに店内を物色しはじめていた。
「ライブのときとかサングラスかけたらカッコイイかなぁ」
 さっそくビビは良さそうなデザインのサングラスを手に取った――瞬間、店主が駆け寄ってきた。
「お客様はお目が高いコケコッコー!」
「もしかして売れ筋のなの? でも売れてるのだと、被っちゃうアタシの個性が引き立たないしー」
「いえいえ、なんとお客様が開店以来はじめて手に取った商品でございますコケッコー」
 新装開店で10人目の客ということなので、ほとんどの商品がそうだろう。
「じゃあどこがお目が高いの?」
「お目が飛び出るほど高いの略でございますコケ」
「高いってどのくらい?」
「10万ラウルでございますコケ」
「高っ!」
 自分の国に帰ればお金なんてどうとでもなるが、今のビビはなかなか貧乏だったりする。当面の生活費は、身につけていた高額なアクセサリーを売ってどうにかしたのだが、収入はゼロなのでそのうちお金が底を突く。
 悩むビビちゃん。