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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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 クラウス魔導学院の健康診断もこの病院が行っているので、きっとルーファスの詳細な診断書がディーの手元にあるに違いない。
 白衣のポケットからディーは指示棒と取り出した。
「それでは右目から行おう。左目をつぶって、これがわかるかね?」
 1.0の並びのマークが指示棒で指された。
 ルーファスは左目をつぶって、それをじ〜っと見つめた。
「見えません」
 次々とマークが指されていく。
 その度にルーファスは『見えません』と答えた。
 ディーは指示棒の先端を床に向けた。
「では、次は左目だ」
 言われてルーファスは右目をつぶろうとするが、頬が引きつってうまく片目だけ閉じられない。
 ものすごくブッサイクな表情になってしまっている。
「う……まく、つぶれないんですけど?」
「だれか目を押さえてやってくれないかね?」
 ディーはビビとローゼンクロイツに顔を向けた。
 ルーファスはベッドに拘束されているので、自分の手で目を隠すこともできない。
 ビビが元気よく手を挙げた。
「はいはい、は〜い! アタシがやりま〜す!」
 さっそくビビはルーファスの目を手で覆った。
「…………」
 ルーファス沈黙。
 そして、ボソッと言った。
「なにも見えないんだけど?」
 言われてビビはハッとした。
 両手でルーファスの両目を隠してしまっていたのだ。
「ごめ〜ん! 間違っちゃった、えへっ♪」
 気を取り直して視力検査再開。
 次々と指されるマークだが、やっぱり『見えません』の連続だった。
 そして、検査が終わるとディーは深刻な顔をした。
「ふむ、両目とも0.2以下だ。ここではこれ以下の検査はできないので、ほかの場所で精密な検査をしよう。そして手術だな」
「はっ?」
 っと言ったままルーファスは固まった。
 ルーファスの頭の中で『手術』という言葉がエコーした。
 そして、ハッと我に返った。
「絶対イヤだよ! 死んでもイヤだよ! 手術なんてありえないよ、しかも目とか危ないじゃないか!」
 ルーファスの頭に過ぎるニュース。王都のとある眼科で手術を受けた患者が次々と角膜炎を発症、視力が落ちた患者や失明寸前の患者まで出てしまった。当時まだ視力が悪くなかったルーファスは、『ふふ〜ん』と思うだけだったが、その恐怖が今襲い掛かってきた。
 妖しげにディーは微笑んでいる。
「手術と言っても実に簡単なものだよ。もちろん私が執刀する」
「手術なんてしません!(しかもこの人が執刀したら、麻酔かけられてる間にどんなことされるか……怖っ)」
 ちなみに通常、眼の手術は局部麻酔なので、あ〜んなことやそ〜んなことをされる心配はたぶんない。
 ビビがルーファスを見つめた。
「視力が戻るなら手術したほうがいいよ!」
「人事だと思って、手術受けるの僕なんだからね!」
 が〜ん、ビビちゃんショック!
 ルーファスのためを思っていったのに、怒鳴られた。
 落ち込むビビに代わってローゼンクロイツが促す。
「手術すればいいよ(ふあふあ)」
「ローゼンクロイツも人事だと思って!」
「うん、人事(ふあふあ)」
 が〜ん、ルーファスショック!
 投げたボールをそのまま打ち返された。
 ディーがルーファスの目の前にまで近付いてきた。
「友人たちもこう言っているのだよ。今からすぐ手術をしようではないか」
「いやいやいや、気が早いですからディー先生。ちなみにその手術ってどんなものなんですか?」
「角膜をスライスして」
「はっ? 絶対にありえないし、絶対に手術なんてしませんから!!」
 ルーファスはジタバタして暴れようとするが、拘束されていて身動き一つできない。
 ディーはどこからともなく注射器を取り出した。
「手術中に暴れられると危険だから、全身麻酔にしよう」
 笑った。ディーが妖しく笑った。全身麻酔なんてされて気を失ったら、なにかされる!
 ルーファスは逃れるために必死だった。
「ヤダヤダヤダヤダーッ!」
 叫んだルーファスが思わぬ力を発動させた。
 魔力の暴走による爆発。
 ルーファスを中心に小爆発が起き、ディーの身体が吹き飛ばされた。
「良い魔力だルーファス君」
 爆発に巻き込まれながらディーは無傷。黒衣が多少焦げている。
 思わぬ爆発にビビも驚いた。
「だいじょぶルーちゃん!」
 そして、ローゼンクロイツは独りで視力検査!
「上上、下下、左右左右」
 肝心のルーファスがベッドから解放され、さらにローゼンクロイツの魔導チェーンも破壊していた。
 拘束を解いたルーファスはすぐさま逃亡。
「手術なんてイヤだーっ!」
 診察室を飛び出したルーファスは病院の廊下を走った。
 だが、前がよく見えずにいきなりだれかに大衝突!
 ドン!!
 看護婦が転倒。M字開脚でパンツ丸見えだが、今のルーファスにはぼやけて見えない。ちなみに純白のレース付きだ。
「ご、ごめんなさい!」
 謝ってる相手が看護婦だってこともよくわかっていない。
 すぐに後ろからはディーが追いかけてくる。
「そこの彼を捕まえろ。麻酔を使っても構わない、怪我は絶対にさせるな」
 ボソボソっとした小さな声なので、周りのスタッフには届かなかった。
 突然、ルーファスの頬を何かか掠めた。
 まるでそれはダーツ。
 ルーファスが振り返ると、ディーが注射器を投げてきた。
 ビュン!
「うわっ!(注射器投げるとかありえないし!)」
 さらにビュン!
 ビュン、ビュン!
 次から次へと投げられた注射器をかわすルーファス。
 ディーは眉を細めた。
「私のダーツをかわすとは、良い瞬発力だルーファス君」
 避けるのはだけは得意なルーファスだったりする。
 ルーファスから外れた注射器は、そこらへんを歩いていたスタッフや患者に刺さり、次々と深い眠りに落ちていく。
「なんでこんな人が副院長なんだよ!」
 ルーファスは叫んで逃げた。
 王都アステアでは実力主義なところがけっこうあるので、アレな人でもいいポジションにいる場合が多い。クラウス魔導学院の教員もそんな感じだ。
 とにかくルーファスは逃げた。
 逃げて逃げて逃げまくるほどの被害拡大。
 大量のスタッフが意識を失ったために、病院機能まで低下。
 大惨事だ。
 スタッフたちも必死でディーを止めようとする。
「副院長もうやめてください!」
「黙りたまえ」
 ディーの投げた注射器にブスっとされて、止めに入ったスタッフも深い眠りに。
 スタッフはルーファスを捕まえるグループにも分かれていた。
「大人しく捕まりなさい!」
 でもなかなか捕まらないルーファス。
 だって逃げるのは得意だから。
 ついにイライラしてきたスタッフはルーファスに殴りかかってしまった。
 そこへディーの投げた注射器がブスッと、殴りかかったスタッフも眠らされた。
 必死で逃げていたルーファスだったが、ついに廊下の端にまで追いやられてしまった。これ以上逃げ場はない。
 この場にビビも追いついてきた。ちなみにローゼンクロイツは病院で迷子になっている。
 ルーファスに迫るディー。
「もう逃げ場はないよルーファス君」
「手術は……手術だけは……」
 生唾をゴクンとルーファスは飲んだ。背中はもう壁についてしまっている。