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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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ルーファスエボリューション2


 逃亡を図ったルーファスだったが、すぐビビが追いかけてきた。
「ルーちゃん病院!」
「病院なんて行かないよ、本当に大丈夫だから!」
 逃げ続けるルーファス。
 だが、本当に手強いのはビビではなくローゼンクロイツだった。
「ライトチェーン(ふあふあ)」
 ローゼンクロイツの手から放たれた魔導チェーンがあっさりルーファスを拘束。
 簀巻きにされたルーファスは身動きひとつ取れなくなった。
「ううっ……ひどいよローゼンクロイツ」
「ボクはひどくないよ(ふあふあ)。それよりも、ルーファスだれかに目をやられたの?(ふーっ)」
「まあ、そういうこともあったりなんかしたり」
 そこへビビが割ってはいる。
「あたしのせいなの! ルーちゃんがあたしのこと庇ってくれた代わりに……」
「詳しく教えてくれる?(ふにふに)」
 ローゼンクロイツの瞳が妖しく輝いた。
 ――こうしてビビは事件の詳細を語り、それが終わるとルーファスは酷く落ち込んだ。
「クロウリー学院長に他言無用って言われてたのに……」
 溜息を落としたルーファスをローゼンクロイツが見つめた。
「あいつに何を言われようと心配しなくていいよ(ふーっ)。ルーファスに手を出すようなことがあったら、絶対に許さないからね(ふーっ)」
 いつもよりもローゼンクロイツが波立っていることにビビも気づいた。
「(もしかしてローゼン怒ってる? ルーちゃんのことだから? ルーちゃんとローゼンって……)」
 こんな風にローゼンクロイツを感じたのは、ビビにとってはじめてだった。
 ビビがルーファスやローゼンクロイツと知り合って、まだ一ヶ月も経っていない。出会ってからからは内容の濃い日々であったが、それでも二人の知らない一面もあるのだ。
 ローゼンクロイツがビビに顔を向けた。
「それでゴールデンクルスはどこにいるの?」
「えっ、え〜っと、どうなったのかなあのあと?」
 ビビはルーファスに顔を向けた。
「私は知らないよ、目が見えなくてよくわかんなかったし」
 二人ともゴールデンクルスのその後を知らないようだ。
 ローゼンクロイツは斜め下に顔を向けた。
「ボクが傍にいればそんなことにはならなかったのに……目には目を、歯には歯を(ふっ)」
 そして、ボソッとつぶやいた。
 ビビはその発言を耳にしてしまって寒気を感じたが、聞かなかったことにしてスルーした。
「そんなことより! ルーちゃんを病院に連れて行かなきゃ!」
「病院なんて行きたくないよ」
 ルーファス拒否!
 だが、ローゼンクロイツも同意する。
「そうだね、ルーファスをリューク国立病院に連れて行こう(ふにふに)」
「ヤダよ、あんな病院絶対行きたくないよ!」
 ルーファス拒否!
 でも、簀巻きのルーファスをビビが引きずって動かす。
「ほら、早く行くよっ!」
「ヤダってば、なんで病院なんかに、しかもリューク国立病院なんて絶対行かないよ!」
 なぜリューク国立病院に行かなくていけないのか、そこにはちゃんと理由がある。そこんとこをローゼンクロイツが説明する。
「魔導学院で起きた怪我や病気は提携しているリューク国立病院が看ることになってるんだよ(ふにふに)。学割も利用できるし、あそこなら腕も確かだからね、絶対にルーファスの目はよくなるさ(ふにふに)」
「ヤダってば、リューク国立病院だけは絶対にヤダ、百歩譲ってほかの病院なら行くから、妥協してほかの病院ならいいから!」
 だが、抵抗もむなしくルーファスはズルズルと引きずられた。

 リューク国立病院の診察室。
 ルーファスは簀巻きからグレードアップして、ベッドに縛り付けられていた。そんな状況に追い詰められても、ルーファスは逃げようとジタバタ必死だ。
 なぜなら――。
「嬉しいよルーファス君。君が看て欲しいと言うから、今日の予約を全部キャンセルして予定を空けておいたよ」
 甘く囁くような低い声。小さな声なのでちょっと聞き取りづらい。
 ルーファスの顔を覗き込んでいるのは、蒼白い顔をした黒衣の魔導医ディーだった。
「(だからここの病院はやだったんだ)」
 吐きそうなほど嫌そうな顔をルーファスをしていた。
 リューク国立病院に来たくなかった理由は、このディーが絶対にルーファスを看ることになるから。
 病院自体に来たくなかった理由は?
「(病院に来るとあの夜のことが……)」
 深夜の病院で起きた怪異。そして、その後の顛末である洗い立てのパンツ事件。あのことがキッカケで、病院というキーワードがトラウマになっていたのだ。
 だからって、一晩して視力が多少回復したとはいえ、病院行けよって話である。そのまま失明する可能性だってあったはずだ。なのに、ほっといてしまうテキトーなところが、部屋の散らかりようからもわかるルーファスクオリティだ。
 身動き一つできないルーファスの顔にディーの顔が近付いてきた。
「近いって、近い近い顔が近いよ!」
「ルーファス君の唾が私の顔に掛かっているよ。ところでルーファス君、唾の中にはどの程度の細菌が含まれているか、知っているかね?」
「そんなこといいですから、顔が顔が……っ!?(口が近い!)」
 ルーファスは口をつぐんだ。
 目と目が合う。さらに口と口もすぐ近くだ。キス寸止め状態。
 その光景を見守っていたビビはちょっとイヤそうな顔をしていた。
「(近い、近い、近いよこの二人……ここの副院長ってやっぱりそっち系!?)」
 止めに入るか迷うビビ。
 でもまだ未遂だ!
 ただちょっと見つめ合っちゃって、口と口が触れあいそうなだけだ!
 この展開にルーファスは冷や汗だ〜らだら。
「(長い……長いよ、早く終わらせて顔を放して欲しいんだけど)」
 ディーの瞳は少し赤みがかっている。そして、ルーファスの顔に吹きかかる息は冷たい。
 3分間くらい顔が近付いたままで、やっと看終わったようでディーは顔を離した。
「ふむ。視力の測定をしてみよう」
 ディーはそう言ってベッドを持ち上げた。
 持ち上げた?
 驚くルーファス。
「えっ、ちょっと、なに、なにする気!?」
 決してもやしっ子というわけではないが、マッチョでもないディーがベッドを持ち上げて、なんとベッドを立ててしまった。
 ルーファスの視線は天井から壁へ、視力検査の表に向けられた。
 ――と、その前に立ちはだかっていた空色の影。
 ローゼンクロイツは独りで勝手に視力検査をしてルーファス放置をしていた。
「……右(ふに)。上、上、下、下、左右左右(ふにふに)」
 だれも正解を答えてくれないので、検査にもなっていない。
 ディーはローゼンクロイツを押して退かし、視力検査表の横に立った。
「ルーファス君、以前の視力はいくつだね?」
「え〜っと(去年の健康診断で……)わかりません。とびきり良かったわけじゃないですけど、生活に困らない程度は見えてました」
「君の視力は右が1.0、左が1.2だったと記憶しているが?」
「(知ってるなら聞かなくてもいいのに。というか、なんでそんなこと知ってるの?)はぁ、そうなんですか」
 おそるべしディー。