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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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 話しかけているのはビビだが、ぜんぜんルーファスの耳には届いていなかった。
「(退学とか留年とかになったら……父さんになんて言われるか。今でも首の皮1枚って感じなのに、完全に絶縁になって国から出て行けとか言われたどうしよう)」
「ルーちゃん聞いてるぅ?」
「はぁ……困ったなぁ」
「ねぇ、どうかしたの?」
「どうかしたもなにも……わっ、いつの間にいたの!?」
 ビックリしてルーファスはイスから落ちそうになった。
「だいじょぶルーちゃん?」
「だ、だだ大丈夫だよ! あははー」
「なに慌ててるの?」
「べ、べつに!」
「今日のルーちゃんなんか変だよぉ」
 クリクリしたまん丸な瞳でビビが覗き込んでくる。
 慌てたルーファスは話を逸らそうとした。
「えっと、次の授業はっと……(見えない)」
 教室に張り出されている時間割表が見ない。
「次は錬金術の授業だよっ。移動教室だから早く行かなきゃ遅れるよ?」
「そう、そうだった。うん、早く行こう」
 教科書を持って席から立ったルーファスだったが、その袖をビビがグイっと引っ張った。
「ルーちゃんそれ錬金術の教科書じゃなくて、魔導史の教科書だけどぉ?」
「えっ!?」
 普段からこーゆーミスの多いルーファスだが、今日は視力が落ちたせいでミス連発だ。
 ビビは心配そうな顔をしている。
「やっぱり変だよルーちゃん。なんかいつもよりドジっていうか、マヌケっていうか」
「(普段からそう思われてるのが軽くショックなんだけど)そんなことないよ、いつもどおりだよ(いつもどおりって言い方すると、いつもドジでマヌケってことを肯定することになっちゃうけど)」
「そうだね、いつものルーちゃんだよねっ♪(本当は心配だけど、ルーちゃんがそういうなら)」
「(うわっ、ショック。いつものって、ドジでマヌケってことじゃないか)そうそう、ビビの思い過ごしだよ。ほら、早く移動しなきゃ」
 二人が教室を移動し終わると、ちょうとチャイムが鳴った。
 すでに教室には錬金術教師のパラケルススがいて、すぐに授業がはじめられた。いつもパラケルススは時間に几帳面なので、少しでも教室に入るのが遅れるとアウトなのだ。
 今日の授業は薬品の調合が行われた。
 黒板に書かれたレシピを元に、ひとりひとり薬品を調合する。
 さっそくルーファスは黒板とにらめっこをしていた。
「(この培養液の中にこれを7ロッシ入れて、こっちは8ミロッシ入れるのか)」
 液体の入ったフラスコに、2つの粉を入れてルーファスはよくかき混ぜた。
 だんだんとフラスコが熱を持ってきて、なにやら煙が発生してきた。
「あれ……あちっ、あちちっ!」
 急激に熱くなったフラスコを持っていられず、思わず手を放してしまった。
 ルーファスの手からフラスコが床に落ちる。
 ドッカ〜ン!
 バリーンとは割れずに、轟音を立てて起こってしまった小爆発。
 辺りが煙に包まれた。
 すぐさまパラケルススが近付いてきて、持っていた杖に煙を吸引させた。
「大丈夫かねルーファス?」
「げほげほっ……だ、だいじょうぶです。本当にごめんなさい」
「怪我がないならなによりじゃ」
 パラケルススは柔和な顔をしているが、ルーファスの顔は文字通り真っ青。薬品で顔が青く染まってしまっていた。
 周りからドッと笑いが漏れる。
 いつものことにルーファスは肩を落として溜息を漏らした。
 調合の失敗の理由は読み間違えだった。薬品の量を間違って読んでしまったのだ。
「顔洗ってきます」
 と、言ってルーファスは教室を出て行った。
 その背中を心配そうに見つめていたビビ。
「ルーちゃん」
 ルーファスの後ろが姿は、なんだかいつも以上に肩を落としているように感じられた。

 放課後になり、ルーファスの元へビビがやって来た。
「今日のルーちゃん、なんだかやっぱりいつものルーちゃんじゃなかったよ」
「そんなことないよ」
「あるって。あっ、ローゼン! ねぇねぇ、ローゼンもそう思うよねっ?」
 ビビはふわふわっと歩いていたローゼンクロイツに声をかけた。
「なに?(にゃ)」
「ローゼンも今日のルーちゃん変だと思わない?」
「ルーファスはいつも変だよ(ふにふに)」
 バッサリ斬られた。
 ルーファスはちょっぴりイヤな顔をする。
「君に言われたくないよ」
 たしかに。
 ビビは納得してないないようだ。そんな顔をしている。
「う〜ん、絶対今日のルーちゃんいつもよりもドジでマヌケだと思うんだよぇ」
「ルーファスはいつもドジでマヌケでへっぽこだよ(ふにふに)」
 またもローゼンがバッサリ斬ってきた。
 ひどくルーファスショック!
「……そこまで言わなくても(自覚あるだけに胸がイタイ)」
 まだビビは納得していないようすでルーファスを見ている。なにか理由をつけないと、いつまでもこうしていそうだ。
 ルーファスが視力を失ったあとのとき、ビビも近くにいた。けれど、ローゼンクロイツはいなかった。事件の詳細は他言無用とクロウリーに圧力をかけられている。
 ルーファスは詳細を省いて説明することにした。
「じつは視力が落ちちゃったみたいで、なんかここからローゼンの顔もぼやぁっとしちゃってるんだよね」
 一瞬、ビビは息を止めて驚いた顔をして、一気に大きな声を出す。
「だからちゃんと病院行ってって言ったのに!!」
「寝れば治るかなぁって。実際、きのうよりは見えるようになってるし、そのうち治るんじゃないの?」
「ルーちゃんのばか! なんでちゃんと病院行ってくれないの!」
「大丈夫だって、そんなに心配してくれなくても」
 軽く笑って見せたルーファス。ビビは怒りと心配が混じった不安な表情をしている。
 そして、ローゼンクロイツは恐ろしいまでに真面目表情をしていた。
「なにかあったのルーファス?(ふーっ)」
 口調は空に浮かぶ雲のようだったが、そのエメラルドグリーンの瞳の奥で五芒星が妖しく輝いている。沸々と魔力が発動しているのだ。
 目で見ることはできないが、ローゼンクロイツの変化をルーファスは肌で感じた。
「べ、べつにたいしたことないよ!(なんかわかんないけど、なんだこのローゼンクロイツのプレッシャー)」
「もう一度聞くよルーファス(ふにふに)。なにかあったの?(ふーっ)」
「え〜っと、ちょっとした事故で視力が落ちちゃったみたいで……」
「だからねルーファス(ふにふに)。ボクが聞きたいのは、どうしてそうなったのか聞きたいんだよ(ふーっ)」
 ルーファスはたじろぎ答えない。
 そこにビビが割り込んできた。
「ルーちゃんはきのう目の前で魔法を放たれて――」
「待ったビビ!!」
 慌ててルーファスはビビの口を塞いだ。
 このときビビはひどく辛そうな表情をしていた。
「(ルーちゃん……やっぱりあたしのこと庇って……。ルーちゃんの視力が落ちたのはあたしのせいなんだ、あたしのこと庇ったりするから。なのに、そのことを言わないなんて、あたしのこと庇ってくれてるんだ)」
 あのとき、ゴールデンクルスに飛び掛かったビビを止めようとルーファスがしなければ、ビビが視力を落としていたかもしれない。
 だが、ルーファスはビビを庇っているわけではなかった。