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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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「人間に比べたら傷の治りが早いからだいじょぶだよ、血も止まってるし♪」
 クラウスも駆け寄ってきた。
「よかったルーファス。でも喜んでいる場合じゃないんだ、もうすぐ王都ごと消し飛ぶかもしれないんだ」
「……え?」
 あまりの事の大きさに反応が小さくなってしまった。
 地下が大きく揺れた。立っていられないくらいだ。
 今の揺れでルーファスは事の重大さを身に染みて感じ取った。
「今スゴイ揺れたよ! ど、どうにかならないのクラウス!」
「残念ながら制御不能なんだ。とにかくまずは地上に戻って制御ルームに行こう。そこで防御システムを解除すると共に外部に事態を知らせて、王都にいるすべての者をできるだけ遠く離れた場所に避難させなくてはならない」
 最後まで希望を捨ててはいけない。
「まあぶっちゃけそんな猶予残されてないがな、ふふっ」
 希望をぶち壊すカーシャの一言だった。
 魔晶が煮えたぎるマグマのように赤く輝いている。まるで噴火の時をまっているかのようだ。
 カーシャの言葉くらいではクラウスは希望を捨てない。
「とにかく最後まで諦めずにがんばろう!」
 部屋から逃げ出そうとする3人。
 だがその前にゴールデンクルスが立ちはだかった。
「俺の野望を打ち砕いたあんたらを行かせるわけにはいかない。この手で八つ裂きにしてらなないと気が済まない……と言いたいところだが、死ぬのはごめんだ」
 邪悪な笑みを浮かべたゴールデンクルスにマナが集まる。
 このときビビは無我夢中でゴールデンクルスに飛び掛かっていた。
 ゴールデンクルスが魔法を放とうとする。
 ルーファスも無我夢中だった。
「ビビだめだ!」
 ルーファスがビビの身体を押し飛ばした瞬間、ルーファスの眼前にゴールデンクルスの手があった。
「マギ・フラッシュ!」
 眩い閃光が放たれた。
 ルーファスの後ろに巨大な影ができる。
 影の中にいたクラウスやカーシャですら目が眩んで何も見えなくなった。
 ビビはちょうど床に顔を伏せる形になっていたが、それでも目が開けられないほどだった。
 誰も何も見えない中で男の呻き声が聞こえた。
「うう……ルビーローズ……生きていたのか……殺しはしないんじゃ……くっ」
 ゴールデンクルスの声が途切れ、倒れる音が聞こえた。
 いち早く視界が戻ったビビは見た。
 氷の刃が腹に突き刺さって身動き一つせず倒れているゴールデンクルス。
 そして、床に膝を付き全身の力を失っているルビーローズ。
「即死は狙わなかったわ……」
 そのままルビーローズは気を失った。
 クラウスやカーシャの視界も戻ってきた。
 ルーファスは?
「……眼が……見えない……まっくらだ」
 閃光によって光の残像がまぶたの裏に残っているのではなく、ルーファスの視界は完全な闇だった。
 ビビは息を呑んで涙が溢れそうになった。
「ルーちゃん……ルーちゃん!」
 力一杯ビビはルーファスの身体を抱きしめた。
「アタシのことかばったから! アタシのせいでルーちゃんの眼が!」
「大丈夫だよビビ、きっと一時的なものだと思うし。ただここから脱出するのはちょっと困るけど」
「ルーちゃんのことはアタシが連れて逃げるからだいじょぶだよ!」
 ビビはルーファスに肩を貸した。そして、クラウスも同じようにルーファスに肩を貸す。
「急ごう時間ない」
 廊下を急いで抜け、エレベーターに乗り込もうとした。
 開閉ボタンを押したクラウスが叫ぶ。
「クッ、開かない!」
 奥までに時間が掛かっているわけではない。動いている音すら聞こえない。完全に故障していた。
「逃げ道ならあるぞ、妾が通ってきた道だ」
「そんな道があるなんて僕も知りませんよカーシャ先生!」
 王すら知らない秘密の抜け穴をカーシャは知っていたのだ。
 急いで廊下を引き返す。
 魔晶がある大広間に戻ってきたとき、また激しい揺れが襲った。
 今度の揺れは今まと比べものにならない。
「きゃっ!」
 ビビの足下の床に小さなひびが入った。そのひびは徐々に口を広げ、ビビたちを丸呑みにしようとする。
 眼が見えないルーファスの足が呑まれた!
「うわっ!」
 呑まれた片足からバランスを崩して、そのまま地の底へ引きずり込まれた!
 ルーファスが闇の中に消える。
 ビビが亀裂に飛び込んだ。
「ルーちゃん!」
 ビビの手がルーファスの手を掴んだ!
 しかし、ビビもろとも闇の中に落ちてしまう!
 今度はクラウスが両手を伸ばした!
「ビビちゃん離さないで! 僕も決して離さないから!!」
 クラウスの両手はビビの足首を掴んでいた。
 亀裂の真横で腹ばいになってビビの足首を掴んでいるクラウス。
 ビビは亀裂の中に落ちながら宙づりで逆さまになりながら、しっかりとルーファスの片腕を掴んでいる。
 そして、カーシャは――。
「(ほっといて逃げるべきかどうするべきか……ここでルーファスを殺すのも惜しいな)」
 最悪な考えで迷っていた。
 それでも最終的にはカーシャも手を貸した。
 カーシャはクラウスに手を貸して、ビビとルーファスを同時に引き上げる。
 どうにか2人を引き上げて一息ついたが、周りの床は亀裂だらけだった。
 さらに悪いことが起きてしまった。
 何かが砕けた甲高い音。
 それはカーシャの足下に落ちてきた。
「魔晶の欠片だ。もう限界らしいな」
「カーシャ先生まだ希望はあるはずだ!」
 目の前の現実を見ればクラウスの言葉など虚しい。
 ついにビビが泣き出した。
「ううっ……アタシが……うぐっ……ううう……ぐ……」
 ここを逃げ出せば終わりではない。
 王都ごと消し飛べば、だれも生き残れない。
 しかし、クラウスは希望の光を見た。
 いや、それは現実の光が差し込む光景だった。
 歪む空間。
 カーシャは漏れ出してくる強烈なプレッシャーを感じた。
「ヤツだ」
 魔法陣などを必用とせず、何者かが空間を越えてやって来る。
 まず浅黒くしなやかな女の足が出た。
 だがそれは下僕の足に過ぎない。
 漆黒の翼を持ったボンテージの女――レディー・セルドレーダ。
 そして、その胸に抱きかかえられた幼い童子。
「私の留守中にどこの誰だね、こんなことをしでかしたのは?」
 見た目は幼くとも、大人びた男の声。しかも、魔力が言葉の1つ1つに込められている魅言葉を常に操っている。
 この男こそエセルドレーダの主人にして、クラウス魔導学院の学院長、そして世界でも3本の指に入ると謳われる魔人クロウリーであった。
 クロウリーの視線はカーシャに向けられていた。
「ば、莫迦な、こっちを見るでない。さすがの妾もこんなことまではせんぞ……そこで死にかけてる金髪のにーちゃんが元凶だ!」
 クラウスは一瞬だけビビの顔を見つめ、クロウリーに向き直した。
「はい、そこにいる金髪の男が今回の事件、テロリストの首謀者で魔晶システムを破壊した張本人です」
「ほう」
 と、クロウリーは短く。
 なにか察したかクロウリーは?
 しかし、それ以上の追求をクロウリーはしなかった。
「まあよい。今はこやつを黙らせることが先決だ。エセルドレーダ下ろしてくれ」
「御意」
 丁重にエセルドレーダはクロウリーを下ろした。