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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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「胴体が水泳してるのを見たよ、服を着たまま(ふにふに)。普通、服は脱ぐよね、本当に驚いたよ(ふにふに)」
 驚くポイントがズレとる!
 そりゃ、服を着たまま水泳をしているひとがいたら驚く。なにごとかと思うだろう。でも、今はそこより重要なチャームポイントがあったハズだ。首がないっていう。
 ビビが身を乗り出す。
「どこで見たの?」
「あっち(ふに)」
 背を向けたローゼンクロイツにビビとルーファスは注目した。普通は指を差している方向を注目するだろう。けれど、今は背中がポイントなのだ。
 ルーファスはそれを見ながら尋ねる。
「背中についてるそれどうしたの?」
「ん?(ふにゃ)」
 ローゼンクロイツは肩越しに自分の背中を覗き込んだ。
「よく見えないな(ふにふに)」
 ローゼンクロイツ視線では、なんだか棒に先端のようなものが見える。
 よく見ようとローゼンクロイツは首を伸した。
 そして、自分の背中を追って犬のようにその場でグルグル回りはじめた。
 グルグル、グルグルグル、グルグルグルグル……。
 どんどんと回転スピードが増していく。
 グルルルルルルルルル!
 地面に穴を開けるドリルのように回りはじめた。
 ビビが止めようと近づく。
「ロークン……きゃっ!
 突風で身体が押し戻され、砂煙に目つぶしをされた。
 さらに回転は早くなり、やがてそれはトルネードを起こし、風が吹き荒れ、豪雨を撒き散らし、雷鳴を轟かせた。
 明日の準備をしていた生徒たちが次々と吹っ飛ばされていく。
 クラウス魔導学院に発令されたトルネード警報は、やがて王都全土にまで広がった。
 ああ、このままでは明日の大運動会は中止だ。
 みんなこの日のために汗水垂らしてがんばってきたというのに。天才だけに天災のローゼンクロイツのせいで中止になるとは、だれが予想しただろうか。天災とはそういうものだ。
 嵐の吹き荒れるびしょびしょのグラウンドで、だれかが四つん這いになってうなだれていた。
 うなだれすぎて首がない。
 いや、首がないのは彼がドゥラハンだからだ。
 彼は泣いていた。首はないけど、まるでその姿は悲しさに打ちひしがれているようだった。濡れたグラウンドは彼の流した涙のようだった。
 明日の大運動会が中止になる!
 スポーツ大好きのドゥラハンにとって、どれがどんなに悲しいことか!
 そうだすべての元凶はローゼンクロイツだ。ヤツのせいで明日の大運動会は……ヤツさえ、ヤツさえいなければ……とドゥラハンの剣が思ったか別として、首なし胴体がローゼンクロイツに果敢にも斬りかかった。
 嵐が止んだ。
 背中に手を伸したローゼンクロイツ。
 ガシィィィン!
 振り下ろされた刃が受け止められた。受け止めたのはローゼンクロイツの背中にひっついていた鞘だ。ローゼンクロイツの背中には鞘が張り付いていたのだ。
 そう、その鞘こそドゥラハンの剣の鞘に間違いない!
 片手に持った鞘で刃を受けているローゼンクロイツ。その表情はいつもと変わらず無表情。
 攻撃を仕掛けている首なし胴体は剣を持つ腕から全身を震わせている。
 一見して物理的な戦い見えるが、これは魔力による攻防だ。防御は物理的な強度に魔力がプラスされ、攻撃力もそれに同じ。
 ローゼンクロイツのエメラルドグリーンの瞳に五芒星が浮かびあがる。
 鞘が大きく振られ、払われた剣が首なし胴体の手から離れた。
 回転しながら後方に飛んでいくドゥラハンの剣。
 そして、どこからともなく流れてきた軽快な音楽。なんだか走り出したくなるような音楽だ。
「よ〜い、ドン!」
 と、だれかのかけ声と共にピストルが撃たれ、走者が一斉に走り出した。
 走り出した?
 わけのわからないうちにはじまった徒競走。おそらくドゥラハンの見せる幻影に生徒たちが魅せられたのだ。
 きょとんとするビビとルーファス。
 そこへローゼンクロイツがふあふあとやってきた。
「ドゥラハンは?」
 尋ねたルーファスにローゼンクロイツが答える。
「はい(ふに)」
 と、差し出した鞘。
 これが答え?
 ルーファスは受け取れないのでビビが受け取った。
「なぁにコレ?」
「早く走りはじめないとビリだよ(ふあふあ)」
 走る?
 ビリ?
 徒競走?
 いいえ、バトンリレーです。
 トラックを走る生徒たちに混じって首なし胴体が猛スピードで走っていた。向かうゴールにはドゥラハンの剣が落ちている。その手から離れてもなお、胴体は魔剣に操られているのだ。
「ビビ早く剣を! この鞘で封印しないと被害が!」
 ルーファスが叫ぶ。
 もちろん走らされるのはビビ。
「めんどくさぁ〜い」
「そんなこと言わないで!」
 泣くように叫ぶルーファス。
 そこへローゼンクロイツが口を挟む。
「まずは剣を封印して呪いを弱めることだね(ふにふに)。そうすれば身体が勝手に操られることもないだろうから(ふに)」
「そこで妾の出番だ!」
 ババーンと爆乳を揺らしながら突然あらわれたカーシャ。
「この妾の開発した何でもくっつける接着剤で首と胴をくっつけて万事解決だ、ふふ」
 胸の谷間に手を突っ込んで接着剤が取り出された。
 ルーファスは驚いたようだ。
「カーシャ? うん、助かったよ(このままだったどうしようかと思ってた)」
「という接着剤を今なら格安の5000ラウルで売ってやろう」
 商売か!
 しかも5000ラウルってどこかで聞き覚えが……?
 ビビが尋ねる。
「それでファウスト先生に借金返すぉ?」
「いや、ボーリング大会の打ち上げの飲み代に使おうと思っておるのだ(ご近所さん対抗と言っても一切、手は抜かん。優勝間違いなし、ふふっ)」
 返さないのかよ! 飲み代かよ! しかもご近所付き合いをしてるなんて意外だ!
「5000ラウルは高いよ」
 渋そうな顔でルーファスがぼやく。
 意地悪るそうな笑みを浮かべたカーシャ、接着剤を高い高〜いする。
「ほれほれ、これが欲しいのであろう? 今なら超特価の5000ラウルから、さらに値上がりして8000、いや10000ラウルでどうだ?」
 値上がってるし!
 ピンチのルーファスの足下を見るなんてヒドイ!
 今は足もないけど!
 こんなやりとりで時間を浪費して消費している間に、ドゥラハンは今!?
 前方にいたハズだったのに、いつの間にか後方だ!
 しかも剣を手にしている!
 ブンブンしている!
 バトンリレーなのに、バトンを渡せず走り続けているのだ。
 ブンブンブンブン!
 地鳴りを鳴らすような走りで迫ってくる。
 ビビは瞳を丸くして逃げ腰になった。
「いや、来ないでってば!」
 生首を盾にしてガードする。
 が、盾はまったくの役立たず。声をあげて戸惑うばかり。
「うわっ、こっちにくるよ!」
 首なし胴体は剣を槍のように突き出し突進してくる。それは攻撃というより、バトンを渡す体勢だった。
 そして、逃げるビビも後ろを振り向きながら走っているので、まるでバトンを受け取るような体勢。
 そう、これはまさしくバトンリレー!
 ひとからひとへ、バトンに思いを乗せて運ぶ。
 いつの間にかスタジアムを埋め尽くす観客たち。
 声援が飛び交い、合唱となり、感動が渦巻きはじめた。