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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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 華麗に高くジャンプしたかと思うと、反るほどに振り上げた腕を振り下ろす!
 レシーーーッブ!!
「フゴォォォッ!」
 無残な悲鳴をあげて生首がぶっ飛ぶ。
 鼻血、鼻水が入り乱れる展開!
 生首が飛んでった場所は首なし胴体だ。
 魔剣が構えられる。
 なんとバッターの構えだ!
 カッキーン!
 剣の腹でハエを叩くように生首が打ち返された。
「ヌベッ」
 気を失っている生首から異世界の言語が短く発せられた。
 生首が飛んでった先は壁だ。硬そうな壁だ。魔導学院の対攻撃魔法でもそこそこ踏ん張れる壁だ。
 今度こそ絶体絶命か!?
 と、そこへちょうど通りかかったのは、泥だらけのユニホームを着た男子生徒。
 その男子生徒が生首に気づいて構えた。
 両手を広げ、鬼神が立ちふさがるかのごとく気迫を発するその構えは、そうだ守護神だ、砦を守るゴールキーパーだ!
 彼なら受け止めてくれる。ゴールキーパーの彼なら、ここまでたくみにパスを繋いできたボールですら、絶対に止めてくれるハズだ。
 そう、思い起こせば長かった。
 はじまりはなんだっただろうか……?
 そうだ、彼女が放った――ビビが放ったシュートだった。
 あの時点で思わずボール扱いされちゃって、アレやコレやあったりなかったり、ここまでみんなが繋いだパスは無駄にはしない!
 今こそ実を結ぶトキだ。
 ゴールキーパーの額から珠の汗が流れた。
 あの守護神が、この守護神が、まさかプレッシャーを感じているだとぉっ!?
 鬼気迫る生首。
 血みどろ鼻水パニック。長髪を結うゴムひもが切れ、髪の毛がザンバラバンバンッバン。その姿はまるで、ボールの軌道を炎で描いているようだ。
 ゴールキーパーの下半身にグッと力がこもった。
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォッ!
 ぶっ飛んできた生首が腹で抱きかかえるように受け止められた。
 ゴールーキーパーが苦悶の表情を浮かべている。
 ガッシリと受け止めたハズだ。
 しかし、戦いはまだはじまったばかりだった。
 押されている。
 生首を抱きかかえたまま、ジリジリとゴールキーパーが後ろへ引きずられるように押されている。
 すごいパワーだ。受け止められてもなお、その勢いを殺すことなく、守護神の身体を押しているのだ。
「フレーっ、フレーっ、クラ学!」
 どこからともなくチアリーダーが応援に駆けつけた。
 ちなみに『クラ学』は『クラウス魔導学院』の略である。
 攻防を続けている生首とゴールキーパー戦い。
 ゴールキーパーが眼を剥いた瞬間、ふっと足が浮いた。
 それはまるで堤防が崩れたような瞬間だった。
 瞬き1つしない間にゴールキーパーが後ろへ吹っ飛ばされた。
 ドゴッ!
 激しく背中を壁に打ちつける音。
 負けたのだ。
 いや、勝ったのだ。
 みんなが繋げたボールが見事ゴールを決めた瞬間だった!
 うなだれるキーパーの手元からボールが力なく滑り落ちる。
 ゴン。
 ボールではなく生首だったので、ちょっと生々しい音が廊下に響き渡った。
 …………。
 熱狂から一変して静まり返った放課後の廊下。
 …………。
 そして、みんな正気に戻った。
 おのおのにハッとした表情を浮かべる。
 自分たちはいったいなにをしていたのか?
 今さらバレー部員が生首を見て叫ぶ。
「きゃーーーっ!」
 もっとも生首と触れ合っていたゴールキーパーもギョッとしている。
 さっきまでの異様なテンションはなんだったのか?
 解説しよう!
「このドゥラハンの生い立ちに関係がありそうだ」
 と、話を切り出したのはファウストだった。
「ドゥラハンとは首なし騎士の総称で各地に存在しているのだが、このドゥラハンは本人が残した手記によると、スポーツ万能で将来を有望視されていた若者らしい。彼はどんなプロスポーツ選手にでもなれる才能を持っていた。しかし、戦争が起きてしまい彼も戦地に赴き……そんな彼の怨念が彼をドゥラハンにし、その持ち主の怨念が剣に宿りおまえたちに幻術をかけていたのだろう」
 緊急スクープ!
 ドゥラハンはただのスポーツ好きだった!
 悲しいんだか悲しくないんだか、ドゥラハン誕生秘話を聞いたビビが、なにかを思い付いたようにポンと手を叩いた。
「じゃあ思う存分みんなでスポーツすれば呪いも解けるんじゃない?」
 それはグッドアイディアだねっ!
 と、廊下の片隅では血だらけで瀕死状態の生首。
 どう考えたってグットなわけあるかいっ!
 ノリツッコミを終えたところで、ファウストが生首を拾い上げた。
「回復魔法はまったく使えんのだが……」
 さてさてどうしたものか?
「生きてるのぉ?」
 とビビが生首を覗き込んだ。
 意識を失って痙攣している。かな〜りヤバそうだ。
 そこへ颯爽と現われたユニホーム姿。横から身体をスッと入れてきて、ファウストから生首を奪った。男子バスケ部だ!
 バスケ部員はすぐにドリブルをしようとした。
 ドゴ。
 生々しい打撃音。
 予想通り弾まない。
 ボールじゃないもん、生首だもん!
 落としたボールを拾い上げ、ピボットピボットピボット――では前に進めない。片足を軸にその場をグルグル回るだけだ。
 バスケ部員はパスの構えをした。
 しかし、パスを受ける者はいないようだ。
 ファウストがツカツカと歩いてバスケ部員から生首を奪おうとした。
「この程度の魔力に当てられて惑わされるとは、ウチの生徒の質も落ちたものだ」
 スッと手を伸した。
 すると、ボールもスッと引かれた。
 ファウストは相手を睨み、サッと手を出す。
 するとサッと引かれた。
 素早くササッと手を出すとササッと引かれ、サササッと出すとサササッと引かれた。
 イラッとした表情でファウストが右往左往に腕を動かし奪おうと躍起になる。
 それを針の孔に糸を通すがごとく、そして細やかに縫うかのごとく、ボールは逃げ回る。
 ダメだ、ボールが奪えない。
 間違えた、生首だ。
 しかし、バスケ部員はボールだと思って死守しているのだ。
 敵にボールは渡さない。
 かといって、パスする味方もいない。
 バスケ部員、絶体絶命のピンチ!
 果たしてこの難局をバスケ部員はいかにして乗り切るのか!
「フレー、フレー、クラ学!」
 そして、チアリーダーはまた幻術に取り憑かれていた。