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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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首ちょんぱにっく3


 赤コーナードゥラハン!
 青コーナー挑戦者ルーファス!
 戦いのゴングがカンっと鳴り、ルーファスはそっちを振り向くと、実況のアナウンサーがいた。
「チャンピオン優勢と言われる中、挑戦者はいかに戦うのか。見物ですねぇ」
「挑戦者は今日のために必殺技の特訓を積み重ねてきたらしいからね」
 と、アナウンサーの横には謎の解説者。
 思わずルーファス。
「だれだよっ! 必殺技なんてないしっ!(ツッコミどころ満載過ぎる。本当にここは僕とドゥラハンの剣の精神界?)」
 ルーファスの精神が反映されていないとしたら、ボクサーのシチュエーションはドゥラハンの剣のせいということになる。
「(なんでボクサーなんだろ)」
 悶々と疑問を抱えながら、もうすでにゴングは鳴っている。
 ドゥラハンに抱えられた生首がニヤリと笑った。ルーファスの顔を持ちながら、ルーファスではない表情。すでに首は呪われた剣に囚われてしまっている。
 現実世界で錆びついていた剣は、生々しく血を滴らせていた。
 剣は振り上げられるとともに血のりを散らし、ルーファスに向かって襲い掛かってくる。
 ルーファスはグローブを構え、一瞬だけファイティングポーズを決めた。
「って、すでにボクシングじゃないし!(そもそもボクシングできないし)」
 すぐさま魔法詠唱をはじめる。
「ライトボール!」
 とりあえず悪霊っぽいモノには光あれ!
「うわっ!」
 声をあげたのはルーファスだ。
 魔法を唱えたと同時に目の前に現われたのは、ハゲオヤジ!
「だれだよ!」
 と、ツッこむしかなかった。
 馬のヒヅメが聞こえる。ドゥラハンはすぐそこまで迫っている。
 オヤジになんて構ってられない。さらに詠唱をする。
「フラッシュ!」
 ピカーン!
 ハゲオヤジの頭がまばゆい光りを放った。
 チラッとハゲを視ながらルーファスはシカトを決め込んで、さらに連続して詠唱する。
「ライトボール! ライトボール! ライトボーッズ!」
 ハゲの僧侶が3人あらわれた。
「なんなのこの世界!」
 精神界は混沌としていた。
 ルーファスは眼が合った。
 ニヤリと下品に笑う自分と――。
 ビュュュュッン!
 血塗られた魔剣が風と共にルーファスのないハズの首を斬った。
「ヒィィィィィッ!」

 ガバッ!
 叫びをあげたルーファスが冷や汗を垂らしながベッドから跳ね起きた。
 跳ねたのは生首だ。
 前方に見えるのは自分の後ろ姿。胴体が勝手に部屋を駆け出していく。
 部屋の隅からうめき声が聞こえる。
「……ッ、油断した」
 ファウストだ。なんとファウストが床に尻餅をついて倒れているではないか?
「ルーファスすぐに追え! おまえの胴体は凶暴化しているぞ!」
「えっ、追えって言われましても」
 首だけどうしろと?
 ルーファスは視線を動かしビビを探したが、部屋にいないようだ。
「あのビビは?」
「おまえの胴体が追っているのがビビだ」
「ええっ!? ど、どうしてですか?」
「胴体をくすぐっておちょっくったからだ。奴はかなり怒っているぞ」
「くすぐった……?」
 疑問符が浮かぶ。
 くすぐったかったか?
 感じない。
 くすぐったさだけではなく、今胴体が廊下を走っているであろう感覚も感じなかった。
「あのぉ、ファウスト先生」
「いいから早く追わないか」
「いや、その……胴体の感覚を感じなくなってしまったんですが……」
「まったくか?」
 ファウストは眉をひそめて神妙な面持ちをした。
「はい、まったく」
「危険な状態にあることは間違いない。首と胴体の繋がりが薄くなっているのだ。つまり、早く胴体と首を1つにせねば、別々の存在となるだろう」
「……すごく困ります」
「ならば早く胴体を追え」
 と言われても困る。
 ファウストは手のひらにおでこを乗せて頭を抱えると、そのまま前髪をかき上げて顔をあげた。
「世話の焼ける教え子だ」
 グイッとファウストはルーファスの生首を抱えた。
 そして、そのまま保健室を飛び出した。
 廊下を駆け抜けていると、出くわした生徒がいきなり指を差してきた。
「さっきの!」
 指を差されたのは生首だ。
 すぐにファウストは察した。
「胴体を見たのだな?」
「は、はい」
 生徒はこくりとうなずき、ファウストはさらに尋ねる。
「どこへ向かったのだ?」
「あっちです」
 生徒は階段を指差した。
 そちらへ顔を向けると上のフロアから悲鳴が聞こえた。
「ビビだ!」
 ルーファスが声をあげた。
 すぐさま階段を駆けのぼる。
 いた!
 階段をのぼり切って、右手の廊下に目を向けると、ビビが首なし胴体が振るう魔剣を必死に跳んで跳ねてしゃがんで避けているところだった。
 ビビがこちらに顔を向けた。
「助けて!」
 ファウストは魔法を唱えようとする。
「シャドウソーイング!」
 足止め魔法だ。相手の影を拘束することにより本体も拘束する。
 しかし、まさかの事態が起きた。
 首なし胴体が魔剣を振るった。その刃が向けられたのは己の影。なんと物質である剣が影を切ったのだ。
 そう、影縫いの影貼りを斬り飛ばし、拘束を解いたのだった。
 ファウストが苦々しい顔をした。
「(やはりルーファスだとは思わんほうがいいらしい)」
 首なし胴体はルーファスの能力値を上回っている。もはやブンブンではなく魔剣士なのだ。
 無断のない動き。力強い剛剣の刃がファウストに襲い掛かる。ビビよりも先に始末する相手だと認識されたのだ。
 と、ファウスト対[バーサス]ドゥラハンの本格的な戦いがはじまろうとしている中、抱きかかえられたままのルーファス。
「先生ちょっと!」
 叫んだルーファスの鼻先を刃が掠めた。
 冷や汗たらり。
 再び魔剣が斬りかかってくる。
 生首を抱きかかえたままでは不利だ。
「受け取れ!」
 投げた。
 ファウストがビビに向かって生首を投げた。
「ぎゃああああっ!」
 叫ぶルーファス。
「えっ、ちょ……ムリ!」
 慌てて右往左往ステップを踏むビビ。
「……あ」
 と、小さく蒸らしたビビの頭上を生首が飛んでった。
「うわぁぁっ、だれか受け止めて!」
 叫んだルーファスの目に飛び込んでくる廊下。落ちたら痛そうっていうか、頭蓋骨が陥没しそうだ。
 もうダメだ!
 っと思ったとき、どこからとも無く手が差し伸べられた。
 スッと生首と廊下の間に差し伸べられた手。
 ちょうど通りかかった女子バレー部員だった。
 そうだ、バレー部なら床スレスレのボールだって拾える。
 生首に手が触れ――跳んだ!
 生首がまるでバレーボールのように跳ばされた!
 バレーはボールを床に落としてもイケナイ。そして、キャッチしてもイケナイのだ。つまりいつもの習性で、ボールに見立てた生首をポーンと上へ跳ばしてしまったのだ。
 近くにいた別のバレー部員が空かさず動いた。ルーファスの真下だ、ここなら確実にキャッチできる。
「トス!」
 ポーンと生首が打ち上げられた。
 だよね、ですよね、ボールが来たらトスするよね。だってバレー部員だもの。
 となれば、オチは決まっている。
 第3のバレー部員が颯爽と駆ける。
 ぞしてッ!