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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

INDEX|96ページ/110ページ|

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 ラウルは美しい歌にヴァッファートに心を開かせ、ついに念願の対面を果たしたのだったが、そこにいたのは美しさの欠片もない醜いドラゴンだった。
 ヴァッファートは呪いによって全身の毛が抜け落ち、まるで毛をむしられたチキンのような姿に成り果てていたのだ。それを隠すためにヴァッファートは山を閉ざしたのだった。
 心優しいラウルはヴァッファートに同情し、呪いを解く方法を探して旅に出た。
 そして、数年の後にようやく秘薬を見つけ出し、ヴァッファートにそれを贈ったのだ。
 秘薬よって美しさを取り戻した毛並みは、前よりも美しく輝き、ヴァッファートは心からラウルに感謝した。
 その時にヴァッファートはラウルを偉大な王にすると約束し、多くの財宝と3つの秘宝、そして1つの誓いの証を授けたのだ。
 3つの秘宝は今もアステアの王家に伝わる三種の神器。
 1つは〈白輝[ビャッキ]のマント〉と呼ばれるヴァッファートの羽毛でつくられたマント。とても軽く、空をも飛べる魔力を秘めている。
 2つ目は〈竪琴の杖〉と呼ばれる名前のとおり杖の先端に竪琴のついた杖。琴を奏でることにより、自然を操ることができる。
 3つ目は〈ウラグライトの指環〉であり、今もクラウスは肌身離さず指に嵌めている。これは大変希少価値の高い結晶でつくられており、魔力を大幅に増大させてくれる。
 そして、ヴァッファートは末代まで国を守護することを誓い、なにか困ったことがあったときに、自分に助けを呼べるように角笛を贈った。これこそが〈誓いの角笛〉である。
 すべてはヴァッファートの感謝の印であった。
 ここまで話し終え、ヴァッファートはこう付け加えた。
「故に、わしは守護者ではあるが、王の上に立つ者ではない。角笛は壊れても、感謝と友情をなくなるものではない。吟遊詩人ラウルと同じ心を持つ者であれば、わしは友として接しよう」
 そんな大事な物を壊したルーファス。胃痛で死にそうだった。
「(国民から袋叩きに遭うよぉ)」
 さらにクラウスは自分を羞じていた。
「(ルーファスを助けようとはいえ、レプリカで代用して誤魔化そうと考えた僕は、ラウル国王に羞じることをしてしまった)お話をお聴かせくださりありがとう御座いました。なんとしても角笛をもう一度作り直して、忘れられていた誓いを新たに立てなくてなりません。ラウル・アステアの心を忘れないためにも」
 建国記念日を知らせる角笛の音をなんとしても響かせねばならない。
 時間は刻々と迫っている。
 ヴァッファートは遠く空の向こうに眼を向けた。
「作り直すというのなら、わしが材料となる角の在り処まで案内しよう。いくつもの山を越えた先だが、わしの背に乗れば今日中には採りに行くことが可能だろうて」
 こうして3人はヴァッファートの背に乗って、グラーシュ山脈を越えた場所へ向かうことになった。

 星空を飛ぶ巨大な影。
 空の上で酔ったルーファスがゲロを吐きそうになるが、白銀の羽毛を汚したら汚名を残し国中の人々から何度も殺されると思い、どうにか呑み込んで事なきを得て目的地に着いた。
 ヴァッファートの話によると、〈誓いの角笛〉は妖獣モレチロンの角で作られているらしい。
 そのモレチロンは湿原に棲んでいるらしく、3人は近くの草原で下ろされることになった。モレチロンは臆病な性格をしているらしく、巨体を有するヴァッファートは湿原近くまでは行くことができないのだ。
 モレチロンは牛の仲間らしい。水辺に棲む水牛の一種で、精霊の力を宿すことによって進化し、魔導生物学的には妖獣に分類されている。
 とりあえず3人は角の生えた牛を探した。
 が、どこにもそれらしく動物はいない。
 湿原には多くの動植物が生息している。
 カエルなどの両生類から、それを食う鳥たち、さらにカバの仲間などもいる。
 角が生えている動物は草陰に隠れているシカの仲間くらいだ。
 すでに日も暮れていることから、辺りは暗く見通しが利かない。
 ビビが水面を指差した。
「見て、あそこにあるの眼じゃない?」
 ルーファスは首を傾げた。
「どこ?(暗くて見えないよ)」
「ほら、そこそこ〜。アタシ暗いところでもよく見えるの。だから、ほら、あっちにあるのわからない?」
 よ〜く見ると水中から眼と鼻腔を出して周囲のようすをうかがっている謎の動物。
 ビビはルーファスの背中を押した。
「ルーちゃんゴー!」
「ええっ!」
 湿原の水辺に突き飛ばされたルーファス。
 次の瞬間、水しぶきを上げながらカバが水面から飛び出してきたのだ。
 カバと言えば鈍くて穏和のイメージがあるが、実はかなり獰猛でテリトリーに入ったが最期、ワニや人でも容赦なく攻撃してくるのだ。
 しかも、このカバはカナヅチカバという名前で、その名の通りカナヅチのような四角く硬い頭をしている。
 そんな頭でルーファスに向かって猛突進してきた。
「ぎゃーっ!」
 ルーファスは逃げようとしたが、足がもつれて尻餅をついて転んでしまった。
 カナヅチカバが巨大な口を開いた。180度近く開いた口はルーファスなんて軽く丸呑みしそうで、しかも長く先のとがった槍のような歯が生えている。噛まれたら絶対死ねる。
 地を駆けるクラウス!
「ルーファス!!」
 剣を抜いて立ち向かっても一発では仕留められない。それを判断したクラウスはルーファスの体を抱きかかえた。
 巨大な口が激しく閉じられた。
「うほっ!」
 痛いと言うより、ちょっと情けない声があがった。
 もちろんそんな声をあげるのはルーファス。束ねた長髪がカナヅチカバの口に挟まれ、引っ張られた挙句に首がガクンっとなったのだ。
「いたいー!」
 何本か髪が引き千切れて、どうにか逃げることができた。
 が、後ろからカナヅチカバは猛烈に追いかけてくる。しかも意外に足が早い。
 いつの間にか逃亡にビビも加わり、
「なんでアタシまで逃げてるのぉ〜!!」
 元はと言えばビビがルーファスをど突いたせいだ。
 3人は必死で逃げ周り、ついにはスタート地点のヴァッファートの元まで戻ってきてしまった。
 カナヅチカバを見たヴァッファートが咆吼をあげる。
 大地が揺れ、草木も震え、動物たちも身を強ばらせた。
 目の前で咆吼を浴びたカナヅチカバは、気絶して倒れてしまったほどだ。
 クラウスはヴァッファートに頭を下げた。
「助けて頂きありがとう御座います」
「礼を言われるほどのことでもない。して、角は手に入ったのか?」
「それがモレチロンらしき姿も気配もまったくなく、どうしていいものかと」
「そうか……実はな、角笛をラウルに贈ったのはわしだが、その材料はラウルに採ってきてもらったのだ。モレチロンは用心深く臆病なため、そこでラウルの歌と演奏によっておびき寄せたのだ」
 歌と聞いたクラウスにビビは顔を向けられた。
「え、アタシ?」
 記憶に新しい親子歌合戦事件。
 あの事件は他国の王妃や皇女が絡んでいることから内々にされたが、もちろんクラウスは詳細に事件の調査結果を把握している。
「ビビちゃんの歌ならきっとおびき寄せることができる!」
「力強く言われても……自信ないんだけどぉ」
 でも、ビビの顔はまんざらでもない。ちょっとモジモジしている。