魔導士ルーファス(1)
さっそく再び湿原に向かった3人。
獰猛なカナヅチカバに警戒を払いながら、クラウスとルーファスに守られながらビビが大地に立つ。
大きく息を吸ったビビが歌いはじめた。
優しい歌声が静かな夜に響く。
草陰に隠れていた動物たちが少しずつビビの元へ近付いてきた。その中にはカナヅチカバもいて、ルーファスはビビり、クラウスは身構えたが、襲ってくるようすはまったくない。動物たちは穏やかな雰囲気で、ビビの歌に聴き惚れているようだった。
しかし、モレチロンは姿を現さない。
湿原は広い。もしかしたら、ここにはいないのかもしれない。
あきらめてクラウスがビビに声を掛けようとしたとき、ルーファスが『あっ』と声をあげた。
「水の中から角が!」
まず見えたのは2本の小さな角、さらに下から巨大な2本の角が水面から這い出てきた。
4本の角を持つ黒い牛が水面から上がってきた。
こいつが妖獣モレチロンに違いない!
ビビは眼を丸くしながらも歌い続けた。
手の届くところまでモレチロンがやって来た。そして、そこで腰を下ろして眼を閉じて、まるで眠ったように動かなくなってしまった。
クラウスが静かに長剣を抜く。
鞘から抜かれた切っ先が月光を反射した。
刹那、鋭い切れ味でモレチロンの短い角が切り落とされた。
「あっ!」
ビビは驚いて歌うのをやめてしまった。
すぐにクラウスは落ちた角を拾い上げてビビに顔を向けた。
「どうしたの?」
「だって角を切ったらかわいそうだと思って」
「ビビちゃんヴァッファートの話を聞いてなかった? 短いほうの角は1年に1度生え替わるそうだよ。それに角には神経が走ってないから痛みは感じないはずさ」
「よかった、そうなんだ」
と、安堵したのもつかの間、ルーファスが青い顔をしている。
「か、かば……」
巨大な口を開けるカナヅチカバ。
クラウスが叫ぶ。
「撤退!」
3人は一目散にヴァッファートの元まで逃げた。
作品名:魔導士ルーファス(1) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)