魔導士ルーファス(1)
「誰にも気づかれないように直そう。直せなくても、とにかく誤魔化そう」
王様ならぬ発言。これはルーファスの友人としてのクラウス個人の発言だ。
ビビもそれに賛成した。
「そうそう、バレなきゃいんだよ、バレなきゃ!」
だが、ルーファスはしゃがんだまま頭を抱えて動かない。
「直すって言っても時間がないじゃないか」
残念なことに角笛は木端微塵。接着剤でどうにかなるってレベルじゃない。
しかし、クラウスは揺るぎない表情で、
「大丈夫だ。もしも直らなくても、レプリカで代用すれば人の目くらいは誤魔化せる。問題はヴァッファートを呼ぶことだけど、今から直接ヴァッファートに会いに行って、角笛が鳴らなくても零時に来てくれるように頼もう」
それには問題があった。
ネガティブ思考のルーファスは、悪い点がすぐに気づいてしまう。
「それは無理だよ。ヴァッファートはグラーシュ山脈の奥の奥にいるんだよ、今からじゃ到底会いに行けないよ」
極寒の地グラーシュ山脈。
猛吹雪に覆われるその地は、未開拓の地が多く存在しており、確立されているルートですら、死と隣り合わせというような場所だ。
そんな場所で毎年、クラウス魔導学院の1年生は遠足をしているわけだが……。
本来学生、ましてや山のプロですら易々と足を踏み入れていい場所ではないのだ。
それでもあの場所で取れる特殊な鉱石や、あの場所にしか生息しない珍獣を目当てで山に入る者をも多い。そして、多くの命が犠牲になるのだ。
そんな場所で毎年、クラウス魔導学院の1年生は遠足をしているわけだが……。
しかし、実はへっぽこ魔導士と言われているルーファスが、グラーシュ山脈登頂という偉業を成し遂げていた。
ふと、ここでルーファスはあることを思い出した。
「そうだカーシャに頼めばすぐにヴァッファートに会いに行けるかも」
ほかの者は知らないが、ルーファスはあの場所にカーシャの城があり、山頂やほかの場所に通ずるワープ装置があることを知っていた。
ただここで問題が1つ発生した。
ボソッとルーファスが囁く。
「カーシャどこにいるんだろう」
「ルーちゃんカーシャさんの連絡先知らないの?」
「私もカーシャもケータイ持ってないし。そもそもカーシャの家すら知らないし」
「クラウスは?」
「僕はケータイを持っているし、カーシャ先生もケータイを持っているはずだけど?
思わずルーファスは、
「えっ?」
ぶっちゃけクラウスよりもルーファスのほうが、断然カーシャと付き合いがあるハズなのに。実はルーファス嫌われてるんじゃ?
なんだかルーファスショック!
クラウスはケータイを出しながら話をする。
「教職員の連絡先は必ず届け出てもらうことになってるんだ。だからカーシャ先生の自宅とケータイの番号が僕のケータイにも登録されていて――もしもし、カーシャ先生ですか? クラウス・アステアです」
《なぜ妾のケータイ番号を知っておるのだ!?》
「教職員の連絡先を学院に提出してもらっている筈ですが? あそこはクラウス魔導学院ですから、僕が知っている可能性があるのもご理解いただけるかと思います」
《職権濫用までして妾にかけて来るとは、まさか愛の告白でもする気じゃあるまいな?》
「急ぎの用なのでルーファスと変わります」
あっさりスルーして、クラウスはルーファスに通話を変わった。
「もしもしカーシャ?」
ルーファスは口元に手を当てて、クラウスとビビから遠ざかって部屋の隅まで移動した。
「頼み事があるんだけど?」
《ほう、妾に頼み事とは良い度胸だな。もちろんそれなりの報酬はあるのだろうな?》
「いやっ、それは……あとで考えるとして、とにかくグラーシュ山脈に行ってヴァッファートに会わなきゃいけないんだけど」
《それはおもしろい(さてはルーファスめ、また事件を起こしたな、ふふ)》
心が躍るカーシャさん。
「別におもしろくないんだけど。国宝の〈誓いの角笛〉を壊しちゃって、とにかくヴァッファートに会わなきゃいけないんだ。それでカーシャならヴァッファートのところへ早く行ける方法を知ってるんじゃないかと思って。ワープ装置とかあるよね?」
《ふふふ……(ウケるー。さすがルーファスだな。このままだとギロチン確実だ、ふふ)。妾ならたしかに知っておる》
「お願い力を貸して!」
《だが……クラウスは知らんのか?》
「なにを?」
《ヴァッファートの巣への近道だ。とにかくクラウスに替われ》
ルーファスは二人の元へ戻り、クラウスにケータイを返した。
「カーシャがクラウスに替われって」
ケータイを受け取ったクラウスはすぐに、
「もしもし替わりました」
《おまえ本当に知らんのかヴァッファートの巣への近道を?》
「近道なんてあるのですか?」
《そうか……王家の者でも知らんのか。王都アステアには建国時に作られたヴァッファートの巣に繋がるワープ装置があるのだ》
「本当ですかっ!?」
心底驚いている様子だった。
《元々、王がヴァッファートに会いに行くために作られたものなのだが。きっといつの間にか使われなくなったのだな》
「なぜ現国王である僕よりもどうして詳しいのですか?」
《妾が初代国王にくれてやったからに決まっておるだろう》
「…………(それが万が一本当だとして)カーシャ先生っておいくつですか?」
《レディに歳を聞くでない(自分でも正確な歳は覚えておらんのだが。そもそも1年に1つ歳を取る言う算出方法がおかしいのだ)》
カーシャが何者であるのか?
実はルーファスですらわかっていない謎。
クラウスは通話越しに頭を下げた。
「申し訳ないカーシャ先生。僕としたことが女性に配慮が足りませんでした」
《わかればいいのだ》
「それでワープ装置の場所はどこにあるのですか?」
《ふむ、建国時はまだ城も建っていなかった。小さな集落があったくらいなものだ。そこで目印となる物の近くにワープ装置は作られたのだ。今はその目印はなくなってしまったが、その上に建っておるのがリューイ大聖堂だ》
なんと近道は目と鼻の先にあったのだ。
さらにカーシャは話を続けた。
《ワープ装置は静寂の間にある隠し部屋から行くことができる》
「静寂の間は……今いる場所なのですが?」
ミラクルだ!
すでに名君と呼び声高いクラウスは、きっと運も備わっているのだろう。英雄[ヒーロー]とはここぞというところで、幸運に恵まれるものなのだ。
だが、そんな運を不運に変える存在がここにはいた。
ここでカーシャがなぜかうなった。
《う〜ん、隠し部屋の入り口はその部屋のどこにあったのか……覚えとらん》
絶対ルーファスのせいだ!
クラウスは今聞いたことをみんなに伝える。
「この部屋から繋がる隠し部屋があって、そこにヴァッファートの元へ行けるワープ装置があるらしい。けれど、隠し部屋の入り口を覚えてないらしいんだ」
ここで疑問に思ったルーファスが通話を替わる。
「もしもしカーシャ。あのさ、別の方法ないの?」
《どういう意味だ?》
「ほかのワープ装置。あの城経由で行く方法あるよね?」
作品名:魔導士ルーファス(1) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)