魔導士ルーファス(1)
「新たな要求に使う人質にする予定だ」
「(よかった)」
安堵の溜息をリファリスは吐いた。
今の会話でローザがすぐ近くにいることがわかった。それは好機だったが、それと同時に不安要素にもなる。ここで下手な真似をすれば、ローザの身に危険が及ぶ可能性が高いからだ。
すぐ近くにローザがいるのがわかっていながら、今はまだリファリスもルーファスも身を潜めることしかできない。せめて向う側の様子がわかれば状況も変わるかもしれないのだが。
苛立ちが募るリファリスは勢いだけで今にも飛び出しそうだった。それを制しているのは、リファリスの腕をつかんでいるルーファスの手だ。姉が飛び出したいのをルーファスもわかっている。
しかし、事態は急激に変化した!
「な、なにをする!」
「俺たちを売るのか薔薇仮面!」
「きゃっ!」
焦り入り乱れる男女の声が聞こえてきた。
ライガスを背負った男がボートに向かおうと角から飛び出してきた。
「行かせないよ!」
叫んだリファリスの回し蹴りが男の腹に食い込み、背負ったライガスに潰されながら男は倒れた。
身を潜めていられなくなった。
ルーファスも慌ててリファリスを追って姿を晒した。
やはりそこにいたのは教団員。レストランで見た男女だ。新たに現れた二人に驚きを隠せないようだった。
教団員の女が叫んだ。
「わたしたちを売ったのね薔薇仮面!」
《たまたま付けられていたらしいよ》
薔薇仮面の手から放たれたチェーンが女教団員を雁字搦[ガンジガラ]めにした。
ここにいた教団員の数は十人余り。その半数はすでに気絶しているか、拘束されていた。
薔薇仮面と武器や魔法で抗戦する教団員の中にローザがいた。
周りの敵に構わずリファリスはローザの元へ駆け寄る。だが、敵の放った炎がリファリスを呑み込もうとしていた。
「ウォーター!!」
叫んだルーファスの放った水の塊が炎を呑み込んだ。
びしょ濡れになりながらリファリスはローザの手を取った。
「だいじょぶかいローザ!」
「はい、あのお方がわたしにだけテレパシーで合図を送って助けてくれたの」
ローザが指差したのは薔薇仮面だった――はずだった。
しかし、そこには薔薇仮面の姿はなく、取引に使われた大金も消えていた。
先ほどまで飛び交っていた攻撃魔法のレイラも治まり、辺りはわめき声だけが響き渡っていた。
「くそっ、我々の拘束を解け!」
教団員たちは壊滅させられていた。立っている者は誰一人としていない。気絶しているか、魔法のチェーンで拘束されているかだ。
すぐに王宮の兵士たちや治安官たちが現場に駆けつけてきた。
その中にはルーベルもいた。
「ローザ大丈夫か!」
ルーベルは両手を広げローザを抱きしめた。
それを見た静かにつぶいた。
「……親父」
父と娘が抱き合う姿。リファリスにとっては感慨深いものだった。
ルーベルはローザの体を離し、ルーファスとリファリスに顔を向けた。
「おまえたちがやったのか?」
「わっちがやったのは2、3人だよ」
その言葉を受けたルーベルに顔を見つめられたルーファスは焦った。
「いやっ、わ、私は……(逃げ回るので精一杯だったんだけど)」
教団員のほとんどを片づけたのは薔薇仮面だ。
ローザは微笑んだ。
「お父様、わたしと姉が敵の炎で焼かれそうになったとき、それを救ってくれたのはルーファスです。ルーファスはわたしたちの命の恩人です」
「……そうか」
ルーベルは深く頷きそれ以上言わなかった。
きっとルーベルは勘違いをしているに違いない!
リファリスはルーファスの肩を出して無理矢理歩き出した。
「さーって、運動のあとは酒、酒!(たまにはかわいい弟に花を持たせてやらないとな)」
「え、私はだから……ちょっと(逃げ回ってただけなのに!)」
でも、それをはっきり口に出せないところがルーファスクオリティ。
のちに本当のことを言い出せないまま、感謝状まで贈られることになるルーファスだった。
第8話_アイツの姉貴はセクシー美女 おしまい
作品名:魔導士ルーファス(1) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)