魔導士ルーファス(1)
アイツの姉貴はセクシー美女3
食事が運ばれてきてから無言で食べ続けるリファリス。
「(ったく、なんで親父がいんだよ。食事が不味くなる)」
とか思いながらもガツガツ喰っている。血の滴るレア肉だ。隣のルーファスの肉と比べると3倍以上のボリュームだ。
一方、食が進まないルーファス。顔は依然として真っ青のまま。腹痛も治まらないが立つに立てない。なぜなら立とうとすると、リファリスにガンを飛ばされ『逃げるなよ?』のアイコンタクトを送ってくるからだ。
股を開いて椅子に座り、フォークとナイフでガツガツ音を立てながら食べるリファリスは、この店の雰囲気にそぐわない。真後ろでシカトしているルーベルのこめかみに、ピクピクと青筋が立っている。
そして、やっぱり空気を読まないディーナ。
「パパもシャイなんだから、こっちでみんなで食事したらいいのに」
それを聞いていたリファリスの手が滑ってナイフが飛んだ――ルーベルのテーブルまで。
これには思わずルーベルもお偉いさんも動きを止めた。
SPは状況を見ながらいつでも動けるように構えている。
ルーファスの顔もさらに青くなっている。
当の本人も『やっちまった』という表情をしているが、謝らずに身動き一つしない。自分が悪いのがわかっていても、父親に謝ることが嫌なのだ。
「(どうする……ここは親父に出方を待って様子を見るか)」
だが、ここで動いたのは次女のローザだった。
すぐさまローザは席を立ち、深々とルーベルに頭を下げた。
「申しわけございませんルーベル・アルハザード様」
あえて?父?とは呼ばなかった。
「構わんよお嬢さん」
ルーベルもまた?娘?とは呼ばなかった。
これでルーベルの面子などが保たれる。
が、ここで緊急事態が起きた!
ブッ!
小規模な爆発音がした。
SPがすぐさま動く。
そして、拘束され床に押さえつけられたルーファス。
「あ、ええっと……ちょっとお腹の調子が……(オナラ出ちゃっただけなのに)」
完全にやっちまったルーファス。
ナイフが飛んだだけなら穏便に済まされたものを、捕り物を演じてしまっては周りの客たちの目を完全に惹いてしまった。
紳士淑女たちも人が床に押さえつけられている光景を見たら、そのまま食事を続けるというわけにもいかないだろう。ざわざわと色めき立つ。
そして、ついにルーベルが切れた。
席を立ちルーファスを指差した。
「ルーファスどうしておまえはいつもそうなのだ!」
「ご、ごめんなさい父さん(ヤバイ、父さんの髪の毛が逆立ってるよ。マナフレアまで出てるぅ〜)」
「謝って済むものかっ。いつもいつもわしに恥をかかせて楽しいのか!」
「そんな楽しいだなんて……(思ってるわけないじゃないか)」
「愚図で鈍間の出来損ないの異形め。その髪の色はなんだ、我が赤の一族は代々赤髪が受け継がれておるというのに、貴様と血が繋がっていると考えるだけで気持ちが悪い。どうしておまえのような息子が生まれてきたのか、何度間違いだと思い検査をしたことか、それでも我が息子という事実は変えられず、どんなにわしが一族から白い目で見られてきたかわかるかっ!」
怒濤の勢いでルーファスを貶したルーベルは、血圧が上がり肩で息を切っている。
だが、まだ口を開く気だ。
「それでも待望の男児が生まれてきてわしは喜んだものだ。髪の色などにこだわらないようにしようとも思った。だが、貴様はわしの期待を裏切り、なんと無様に育ったことか。運動もできず、勉強もできず、貴様は我が一族の面を汚すために生まれてきたのかっ!」
「生まれて来てごめんなさい……全部……僕が悪いんだ……」
言葉を受け入れてしまったルーファス。
歯を食いしばったままリファリスが席を立った。
「黙って聞いてりゃいい気になりやがって……ルーファス、あんたはわっちのかわいい弟だよ。だがなっ!」
リファリスの拳が風を切り、ルーベルの頬を抉った。
「この男はクズだ!」
激しい衝撃を受けながらルーベルは床に手をついてしまった。
すぐさまSPがリファリスに攻撃を仕掛けようとしたが、それをルーベルは手で合図を送って制した。
「どこの小娘だか知らんが、暴力でわしを痛めつけ気が済んだか?」
「いいや、まだ殴り足りないね!」
「ふん、国防の観点からもこのような野蛮人は入国させるべきではないのだ」
「ならあんたのような口の汚い男も国外追放だな!」
「うぬぅ〜っ」
言葉に詰まりながらルーベルは唸った。
そして、凄まじく空気を読まないディーナ。
「みんなお料理が冷めちゃいますよぉ」
ふわ〜んとした声で、なんだかルーベルの肩から力が抜けた。ルーベルにとってディーナが安定剤になっているのかもしれない。老人のルーベルと若妻のディーナ。いくつになっても男は女に弱いのか。ちなみにルーベルは66歳、ディーナは36歳である。
さらにローザが後押しする。
「ルーベル様、大事なお客様の前ではないのですか?(また血圧上がったら大変)。お姉ちゃんもお肉冷めたら美味しくないよ?(ほんと手の焼けるお姉ちゃんなんだから)」
母親に顔がそっくりの娘に言われるのもルーベルには効くようだ。
「食事の席を騒がせてしまって、ここにおられる皆さんにもご迷惑をおかけした。そこでわしからのお詫びの印として、今日の食事代はわしに持たせていただきたい。よろしいかな?」
客たちは頷いて見せたり、小さな拍手をした。
が、そんな中でただひとり――。
「なんでも金で解決か」
ボソッとつぶやいたリファリス。
「お姉ちゃん!」
ローザが小声で注意した。
さすがにルーベルは聞き流して、何事もなかったように席についた。
ルーファスも無事解放され、空気はまだギクシャクしているが、再び食事が続けられることになった。
今まで出るに出られなかったウェイターが替わりのナイフを持って現れた。
「新しいナイフをお持ちしました」
ナイフをリファリスのテーブルに置き、ルーベルのテーブルからナイフを回収した。
殺気!
ナイフを手に取ったウェイターが、なんとルーベルを人質に取ったのだ。
「貴様何者だ!」
ナイフを首に突きつけられながらルーベルが叫んだ。
辺りが騒然とする。
SPたちも動けない。
まさかの事態にルーファスの顔面は真っ青。
ウェイターは自ら着ていたジャケットを脱ぎ捨てた。その下に着ていたベストに縫い付けられている謎の物体。すぐさまルーベルは気づいた。
「爆弾か!?(自爆も覚悟の上ということか!)」
「そうだ、下手に手出しをすれば木端微塵だ。我らアルドラシルの使徒は崇高な目的のためなら死など恐れない!」
「アルドラシルだと……(テロリストどもか!)」
国防大臣であるルーベルでなくとも、その名を知っている者がほとんどだろう。
邪教集団と広く認知されているアルドラシル教団。彼らが崇拝する神の理想郷を築くため、過激なテロ活動を行う残虐非道な団体として、アステアのみならず世界中から危険視されている。
アルドラシル教団の主な標的はガイア聖教である。彼らはガイア聖教こそ邪教として、総本山である聖都アークや、それ以外のガイア聖教を信仰する国々に攻撃を仕掛けている。
作品名:魔導士ルーファス(1) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)