魔導士ルーファス(1)
アイツの姉貴はセクシー美女2
ガイア聖教と言えば今や世界中にその根を下ろし、その総本山はサーベ大陸のおよそ中心にある聖都アークである。
アステア王国はもととも聖都アークの開拓地であり、ガイア聖教がもっとも布教している宗教である。
しかし、時代の流れか、それともアステアが先鋭的な国だからか、戒律の軟化が著しく進んでいる会派も多くある。
聖カッサンドラ修道院はもともと女性のための修道院であったが、最近では男性も受け入れており、男女が共同で生活をしているという稀な修道院となっている。
共同生活と言ってももちろん男女の部屋は分かれているし、さらに男性の数もまだまだ少ない。そして、この修道院には希有な存在も住んでいる。
修道院の廊下をルーファスとリファリスが歩いていると、前から空色の影がふあふあと近付いてきた。
気づいたリファリスが軽く手をあげた。
「よぉ、ローゼンクロイツ。相変わらず女の子の格好だな」
声をかけられたローゼンクロイツは無表情のまま、
「……だれ?(ふにゃ)」
ボソッと言った。
だれもがお気づきだろうが、リファリスとローゼンクロイツは顔見知りだ。それどころか、ルーファスと幼なじみのローゼンクロイツは、もちろんリファリスとも幼なじみだ。
「わっちのこと忘れたなんて言わせないよ。いっしょにお風呂だって入ったことあるし、家族以外でわっちのヌード見たことあるのあんただけなんだからね(ガキのころの話だけど)」
「……そうなの?(ふに)」
眼を丸くしてローゼンクロイツは驚いた。でもすぐに無表情に戻る。どこまで本気なのかわからない。
そして、ローゼンクロイツは口を丸く開けた。
「あっ、思い出した(ふにゃ)。近所のお姉さん(ふにふに)」
「近所じゃなくて、ルーファスのお姉さんだよ!」
「ボクの知っているルーファスの姉は別の人だよ(ふあふあ)」
「だーかーらー!(相変わらずだなローゼンクロイツは)」
リファリスが頭を抱えていると、廊下の向こうから修道女がやって来て、驚いた顔をして口を開いた。
「お姉ちゃん!」
小柄な少女が笑顔で駆け寄ってきた。それを指差すローゼンクロイツ。
「あれがルーファスの姉だよ(ふにふに)」
ローゼンクロイツの言っていることは間違えではない。
やって来た修道女にルーファスはあいさつをする。
「ローザ姉さんこんにちは」
「ルーファスこんにちは。お姉ちゃんも久しぶり、いつ帰ってきたの?」
「今日の朝……かな?」
ちなみにもう夕方だ。間の時間になにをしていたか言うまでもない。
ルーファスは三人姉弟だったりしたのだ。
長女のリファリス、次女のローザ、そして長男で3番目の子供のルーファス。
リファリスとローザは姉妹なので顔が似ているが、そっくりというほどでもない。リファリスを『軟』に例えるなら、ローザは『柔』だろう。
しかし、姉妹にルーファスを加えると違和感がある。
リファリスの髪色は赤系の中でもカーマイン。
ローザの髪色は同じ赤系でローズ。
ルーファスの髪色だけが、赤から遠い灰色がかったアイボリーなのだ。
辺りを見渡しながら慌てたようすの修道女がこちらにやってくる。その修道女はルーファスたちを見つけて目を丸くした。その顔つき、ローザにそっくりだ。
「まあ、リファリス久しぶりね!」
見た目の年齢は姉妹といっても通用するが、
「久しぶりママ」
と、リファリスは笑顔で答えた。
そう、新たに現れた修道女はルーファスたちの母親だったのだ。
母親の髪の毛は綺麗な亜麻色。姉妹ともルーファスとも違う色系統だ。
髪の色はマナにも影響されるため、遺伝ですべて決まるわけではないのだが……。
ルーファスたちの母ディーナは、子供たち、そしてローゼンクロイツの姿を見てながら、昔を懐かしむようだった。
「リファリス、ローザ、ルーファス、ローゼンちゃん、私の子供が4人も揃うなんて嬉しいわ。今日は久しぶりにみんなでお食事しましょう。腕によりを掛けて料理しちゃうわよ!」
捨て子だったローゼンクロイツを育てたのもディーナだった。ディーナにとってローゼンクロイツも我が子と同然なのだ。
ローゼンクロイツは本当に申し訳なさそうな顔をしてディーナを見つめた。
「申しわけありませんディーナ夫人(ふにふに)。建国記念祭の準備で立て込んでいて、今日も用事があるのです(ふにふに)。せっかくお食事のお誘いですが、また今度の機会にお誘い願えればと存じます(ふにふに)」
まさかの言葉遣い!
あのローゼンクロイツが、他人に対して敬語でしゃべっている!
むしろそういうしゃべり方もできるのかっ!
と、ツッコミたい。
丁重に深々と頭を下げてローゼンクロイツは立ち去った。おそらく普段のローゼンクロイツしか知らない者が見たら、そりゃもう驚きの光景だったに違いない。
リファリスは細い眼をしてディーナを見ていた。
「ところでママ?」
「なぁにリファリス?」
「わっちのいないうちに、料理できるようになったの?(そんなまさか、料理センスゼロのママがたった1年そこらで料理できるようになるはずが)」
「ええ、できないわよ♪」
かわいく言われた。
すかさずリファリスのツッコミが炸裂。
「さっき腕によりをかけるって!!」
「腕によりをかけてローザに料理をしてもらいましょう♪」
めっちゃ笑顔。めっちゃ他人任せ。めっちゃかわいく言っても騙されません!
バトンタッチされたローザは唇に指を当てて考えた。
「う〜ん、まずは買い物に行って、下ごしらえが……」
リファリスが割って入る。
「やっぱどっか食べに行こう。もうおなか空いちゃって、昨日の夜から飲んでて食べるの忘れちゃったんだよね。ルーファスもそれでいいだろ、な?」
「うん、私はそれでいいよ」
ディーナもそれに同意する。
「じゃあ外食で決定ね。ローザもそれでいいでしょ?」
「はい、お母様」
「パパも誘いましょう。きっと喜んできてくれるわ」
笑顔のディーナに反してルーファスの顔色は悪く、リファリスにいたってはあからさまに嫌な顔をしている。
だが、あえて二人ともなにも言わず母に合わせることにした。
こうしてルーファス一家は外食へ出掛けることになった。
無理矢理正装させられた二人。
着慣れないスーツ姿にモジモジするルーファスと、似合ってはいるが本人が気に食わないドレス姿のリファリス。
スタイル抜群のリファリスはドレス姿で歩くだけで男の目を惹く。横を歩くローザはまだ幼さが残っているが、ドレスを着るとお姫様のようだ。男たちがこの姉妹を放っておくわけがなかったが、男が近寄ってくるたびにガンを飛ばしてリファリスが追い払っていた。
母のディーナはルーファスと腕組みをして歩いている。腕組みをさせられているルーファスは気恥ずかしそうだ。二人で歩いていると、母が童顔のためかカップルに見えなくもない。ルーファスがもう少し上だったら完全にそう見えるところだ。
リファリスの足が止まった。
「やっぱ居酒屋とかにしない?」
作品名:魔導士ルーファス(1) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)