魔導士ルーファス(1)
不良娘はピンクボム3
ふかふかの白い雲の上にルーファスとビビは落ちた。
思わずビビは、
「天国?」
と、つぶやいてしまった。
たしか高い屋根の上から落ちたはずだ。
なのに行き交う人々が同じ目線くらいのところを歩いている。
しかも、すぐに近くには見慣れた顔。
「バンジージャンプはヒモをつけてやるものだよ(ふあふあ)」
ローゼンクロイツだった。
どうやらローゼンクロイツに助けられたらしい。
二人を乗せた雲は霞み消え、尻餅をついて地面に落とされてしまったが、もう地面との距離は30ティート(36センチ)もなかった。
でもちょっと痛い。
「いった〜い!」
ほっぺを膨らませてビビちゃんは可愛らしさで抗議。
が、そんなことなどローゼンクロイツが意に介すはずもなく、いつもどおりに自己中心スルートーク。
「スカイダイビングもパラシュートをつけてやるものだよ(ふあふあ)」
会話があまり噛み合わないのはいつものこと。わざとやっているともウワサもあるが。
ルーファスはビビとローゼンクロイツを交互に見ている。関係性を見いだして解釈しようと一生懸命に違いない。
「ええっと、もしかしてこの子も僕の知り合いだったりする?」
すぐさまビビが二人に説明する。
「ルーちゃん記憶喪失になっちゃったみたいなの。それでこのとぼけた変態がローゼンクロイツ、これでも男の子なんだよ?(でも本当に男の子なのかな、今でも信じられない)」
「ええっ男なの!?(どう見ても女の子だし!)」
ルーファスショック!
ルーファスでなくとも、だいだいの人はショックを受ける内容だ。これまでローゼンクロイツに告白して撃沈した男は数知れず。ちなみに女の子のファンも多いらしい。
友人、それも幼なじみが記憶喪失と聞いても、いつもどおりあまり表情を崩さないローゼンクロイツに、ビビはちょっとばかり不信感を持った。
「ルーちゃんが記憶喪失って聞いて驚いたり心配しないの?」
「記憶を失っても彼の魂は不滅さ(ふにふに)」
「そういう思想の話をしてるんじゃなくて、アタシたちのこと忘れて、思い出もなくなっちゃうんだよ?(そんなの悲しいじゃん)」
「……そうなの!?(ふに!)」
目を丸くして驚いた表情をするローゼンクロイツ。
そして、すぐに口元だけでニヒルに笑ったかと思うと無表情になる。
なんだかビビは納得できなかったが、
「とにかくありがと、アタシとルーちゃんのこと助けてくれて。ローゼンクロイツが偶然ここにいなかったら、今頃アタシたちぺしゃんこだったし」
「……トマト(ふっ)」
ボソッとつぶやいたローゼンクロイツ。
すかさずビビちゃん言い返す。
「グロイこと言わないでよ!」
「この世界に偶然なんてものはないよ(ふっ)。すべては必然さ(ふにふに)」
ってことはルーファスとビビのことを助けに来てくれたのか?
「ボクとルーファスは運命で結ばれてるからね(ふあふあ)。偶然ここに居合わせたんだよ(ふにふに)」
どっちだよ!
さらにローゼンクロイツは続ける。
「偶然と必然は表裏一体なんだ(ふにふに)。つまりどちらも同じものということだね(ふにふに)」
結局なんでローゼンクロイツがここにいたのは不明。
クルッと180度回転して背を向けるローゼンクロイツ。
「じゃ、ボクは教会の役人に呼ばれてるから(ふあふあ)」
それがここにいた理由らしい。
肩越しにヒラヒラ〜っと手を振って、立ち去ろうとしたローゼンクロイツの前に、ギターに乗ったモルガンが現れた。
「屋根から落ちたときはヒヤッとしたけど、だいじょぶだったみたいね」
だが、かるーく横を通り過ぎるローゼンクロイツ。
「ちょっと待ちな!」
モルガンはローゼンクロイツを呼び止めた。
理由は?
「アンタ、そこの男と運命で結ばれてるとか言ってただろ?」
いつの間に聞いていたのだろうか、耳がいい。
振り返るローゼンクロイツ。
「ボクとルーファスは切って切れない運命で結ばれているよ(ふあふあ)」
それを聞いたモルガンは、なぜかルーファスをビシッと指差した。
「アンタ二股だったのかい!!」
なんか話がこじれてる。
しかも、それを認めてしまうルーファス。
「そ、そうだったのか、僕は二股だったのか!!」
洗脳だ。記憶がないことを良いことに、どんどんルーファスが洗脳されていく。
しかも、ローゼンクロイツまで驚いた顔をしている。
「……ル、ルーファス、二股なんてひどい!(ふーっ!)」
この場の空気に流されてビビまでもが、
「やっぱりルーちゃんとローゼンクロイツってそういう関係だったのーっ!?」
この中に誰か冷静なヤツはいないのか?
ただ、学院内でもルーファスとローゼンクロイツの、薔薇色のウワサがかねてからあったりする。友達の友達が二人で手を繋いでいるのを見たとか、二人が公園のベンチでイチャイチャしてるのを見たとか。まあ、そのウワサの出所をたどると、一人の魔女に行き着くことはいうまでもない。
モルガンはルーファスの襟首をつかんで持ち上げニヤリとした。
「よくもアタシの娘を傷もんにしてくれたね!」
殺される。絶対に殺してやるって眼でルーファスを見ている。しかも、怒った表情じゃなくて、薄ら笑いなのがよけいにマジっぽい。
ルーファスとモルガンの間にビビが割って入り、両手を広げて二人を押し離した。
「ママってば! アタシ、ルーちゃんになにもされてないから!」
「そうなのかい? それはそれで度胸ない男だねぇ。そんなチキンにはアタシの娘はやれないね。そっちの娘[コ]とはもう寝たのかい?」
ルーファスは顔を向けられたが記憶喪失だし、なんだか魂が抜けたような表情でそこに突っ立ている。
次に顔を向けられたローゼンクロイツは首を横に振った。
「……最近は(ふぅ)」
なにその思わせぶりなセリフ!
意味深なローゼンクロイツの発言でビビちゃんショック!
「最近はってことは……やっぱりルーちゃんとローゼンクロイツって……」
最後まで口に出せなかった。
だが、疑惑は確信へ。
ビビフィルターを通したルーファスとローゼンクロイツのめくるめく愛。
あ〜んなことや、そ〜んなことをしちゃってる映像が脳裏を過ぎる。
顔を真っ赤にしたビビが駆け出す。
「わぁ〜ん、ルーちゃんのばかぁ〜〜〜っ!」
いよいよ展開が混沌を極めてきたぞ!
そして、ローゼンクロイツが口を開いた。
「小さいころはよくいっしょに寝ていたね(ふあふあ)。お風呂もいっしょに入っていたよ(ふあふあ)」
子供のころの思い出話?
だが、ここにもうビビの姿はない。
しかも、モルガンもビビを追いかけていない。
さらにいえば、ルーファスはモルガンに眼殺[ガンサツ]された時点で気絶していた。
つまりローゼンクロイツの話を誰も聞いていなかったことになる。
なんという運命のイタズラ!
さらにスパイス登場!
予備の箒の乗って現れたカーシャ。
立ったまま気絶しているルーファスを見つけて、カーシャは強烈な平手打ちをお見舞いした。
バシーン!
そしてルーファスはさらに気絶した。
さらに平手打ちの衝撃で倒れ、石畳に後頭部をぶつけた。
ゴン!
作品名:魔導士ルーファス(1) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)