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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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不良娘はピンクボム3


 ふかふかの白い雲の上にルーファスとビビは落ちた。
 思わずビビは、
「天国?」
 と、つぶやいてしまった。
 たしか高い屋根の上から落ちたはずだ。
 なのに行き交う人々が同じ目線くらいのところを歩いている。
 しかも、すぐに近くには見慣れた顔。
「バンジージャンプはヒモをつけてやるものだよ(ふあふあ)」
 ローゼンクロイツだった。
 どうやらローゼンクロイツに助けられたらしい。
 二人を乗せた雲は霞み消え、尻餅をついて地面に落とされてしまったが、もう地面との距離は30ティート(36センチ)もなかった。
 でもちょっと痛い。
「いった〜い!」
 ほっぺを膨らませてビビちゃんは可愛らしさで抗議。
 が、そんなことなどローゼンクロイツが意に介すはずもなく、いつもどおりに自己中心スルートーク。
「スカイダイビングもパラシュートをつけてやるものだよ(ふあふあ)」
 会話があまり噛み合わないのはいつものこと。わざとやっているともウワサもあるが。
 ルーファスはビビとローゼンクロイツを交互に見ている。関係性を見いだして解釈しようと一生懸命に違いない。
「ええっと、もしかしてこの子も僕の知り合いだったりする?」
 すぐさまビビが二人に説明する。
「ルーちゃん記憶喪失になっちゃったみたいなの。それでこのとぼけた変態がローゼンクロイツ、これでも男の子なんだよ?(でも本当に男の子なのかな、今でも信じられない)」
「ええっ男なの!?(どう見ても女の子だし!)」
 ルーファスショック!
 ルーファスでなくとも、だいだいの人はショックを受ける内容だ。これまでローゼンクロイツに告白して撃沈した男は数知れず。ちなみに女の子のファンも多いらしい。
 友人、それも幼なじみが記憶喪失と聞いても、いつもどおりあまり表情を崩さないローゼンクロイツに、ビビはちょっとばかり不信感を持った。
「ルーちゃんが記憶喪失って聞いて驚いたり心配しないの?」
「記憶を失っても彼の魂は不滅さ(ふにふに)」
「そういう思想の話をしてるんじゃなくて、アタシたちのこと忘れて、思い出もなくなっちゃうんだよ?(そんなの悲しいじゃん)」
「……そうなの!?(ふに!)」
 目を丸くして驚いた表情をするローゼンクロイツ。
 そして、すぐに口元だけでニヒルに笑ったかと思うと無表情になる。
 なんだかビビは納得できなかったが、
「とにかくありがと、アタシとルーちゃんのこと助けてくれて。ローゼンクロイツが偶然ここにいなかったら、今頃アタシたちぺしゃんこだったし」
「……トマト(ふっ)」
 ボソッとつぶやいたローゼンクロイツ。
 すかさずビビちゃん言い返す。
「グロイこと言わないでよ!」
「この世界に偶然なんてものはないよ(ふっ)。すべては必然さ(ふにふに)」
 ってことはルーファスとビビのことを助けに来てくれたのか?
「ボクとルーファスは運命で結ばれてるからね(ふあふあ)。偶然ここに居合わせたんだよ(ふにふに)」
 どっちだよ!
 さらにローゼンクロイツは続ける。
「偶然と必然は表裏一体なんだ(ふにふに)。つまりどちらも同じものということだね(ふにふに)」
 結局なんでローゼンクロイツがここにいたのは不明。
 クルッと180度回転して背を向けるローゼンクロイツ。
「じゃ、ボクは教会の役人に呼ばれてるから(ふあふあ)」
 それがここにいた理由らしい。
 肩越しにヒラヒラ〜っと手を振って、立ち去ろうとしたローゼンクロイツの前に、ギターに乗ったモルガンが現れた。
「屋根から落ちたときはヒヤッとしたけど、だいじょぶだったみたいね」
 だが、かるーく横を通り過ぎるローゼンクロイツ。
「ちょっと待ちな!」
 モルガンはローゼンクロイツを呼び止めた。
 理由は?
「アンタ、そこの男と運命で結ばれてるとか言ってただろ?」
 いつの間に聞いていたのだろうか、耳がいい。
 振り返るローゼンクロイツ。
「ボクとルーファスは切って切れない運命で結ばれているよ(ふあふあ)」
 それを聞いたモルガンは、なぜかルーファスをビシッと指差した。
「アンタ二股だったのかい!!」
 なんか話がこじれてる。
 しかも、それを認めてしまうルーファス。
「そ、そうだったのか、僕は二股だったのか!!」
 洗脳だ。記憶がないことを良いことに、どんどんルーファスが洗脳されていく。
 しかも、ローゼンクロイツまで驚いた顔をしている。
「……ル、ルーファス、二股なんてひどい!(ふーっ!)」
 この場の空気に流されてビビまでもが、
「やっぱりルーちゃんとローゼンクロイツってそういう関係だったのーっ!?」
 この中に誰か冷静なヤツはいないのか?
 ただ、学院内でもルーファスとローゼンクロイツの、薔薇色のウワサがかねてからあったりする。友達の友達が二人で手を繋いでいるのを見たとか、二人が公園のベンチでイチャイチャしてるのを見たとか。まあ、そのウワサの出所をたどると、一人の魔女に行き着くことはいうまでもない。
 モルガンはルーファスの襟首をつかんで持ち上げニヤリとした。
「よくもアタシの娘を傷もんにしてくれたね!」
 殺される。絶対に殺してやるって眼でルーファスを見ている。しかも、怒った表情じゃなくて、薄ら笑いなのがよけいにマジっぽい。
 ルーファスとモルガンの間にビビが割って入り、両手を広げて二人を押し離した。
「ママってば! アタシ、ルーちゃんになにもされてないから!」
「そうなのかい? それはそれで度胸ない男だねぇ。そんなチキンにはアタシの娘はやれないね。そっちの娘[コ]とはもう寝たのかい?」
 ルーファスは顔を向けられたが記憶喪失だし、なんだか魂が抜けたような表情でそこに突っ立ている。
 次に顔を向けられたローゼンクロイツは首を横に振った。
「……最近は(ふぅ)」
 なにその思わせぶりなセリフ!
 意味深なローゼンクロイツの発言でビビちゃんショック!
「最近はってことは……やっぱりルーちゃんとローゼンクロイツって……」
 最後まで口に出せなかった。
 だが、疑惑は確信へ。
 ビビフィルターを通したルーファスとローゼンクロイツのめくるめく愛。
 あ〜んなことや、そ〜んなことをしちゃってる映像が脳裏を過ぎる。
 顔を真っ赤にしたビビが駆け出す。
「わぁ〜ん、ルーちゃんのばかぁ〜〜〜っ!」
 いよいよ展開が混沌を極めてきたぞ!
 そして、ローゼンクロイツが口を開いた。
「小さいころはよくいっしょに寝ていたね(ふあふあ)。お風呂もいっしょに入っていたよ(ふあふあ)」
 子供のころの思い出話?
 だが、ここにもうビビの姿はない。
 しかも、モルガンもビビを追いかけていない。
 さらにいえば、ルーファスはモルガンに眼殺[ガンサツ]された時点で気絶していた。
 つまりローゼンクロイツの話を誰も聞いていなかったことになる。
 なんという運命のイタズラ!
 さらにスパイス登場!
 予備の箒の乗って現れたカーシャ。
 立ったまま気絶しているルーファスを見つけて、カーシャは強烈な平手打ちをお見舞いした。
 バシーン!
 そしてルーファスはさらに気絶した。
 さらに平手打ちの衝撃で倒れ、石畳に後頭部をぶつけた。
 ゴン!