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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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桃髪の仔悪魔4


 部屋の中は実験機具などが整理整頓され、一目でどこになにがあるのかが確認できるようになっていた。パラケルスス先生の人柄が人目でわかるようになっていた。
 ホムンクルスは部屋の中にいくつもあるガラス管の中にいた。
 ガラス管の中は液体のような物で満たされ、下から小さな気泡が上へ上がっている。そして、時折大きな泡がホムンクルスの口から吐き出される。
 これを見たルーファスは困り果てた。
「そうだった、この装置ごと運ばないといけないんだった……」
 1つでも大変な物を二つもどうやって運ぶ? しかもばれないように……?
 困った表情をしているルーファスの影から、ニョキっと出て来たビビが、ルーファスの顔を覗き込み自分を指差した。
「アタシがいるじゃない?」
「どーゆーこと?」
「ルーちゃんの魂さえ少し食べさせてくれれば、カーシャの部屋まで装置ごと瞬間移動させてあげるよ」
「…………(困った)」
「でも、ルーちゃんの寿命が3ヶ月ほど減るけどねv」
 満面の笑みで明るく言われても困る。
「3ヶ月も減るの? 1日とかに負けられないの?」
「無理だよそんなのぉ」
 支払う魂と願い事の質の大きさは比例しているので、負けろというのは無理な話だ。
 半人前の魔導士であるルーファスにこの装置をカーシャの部屋に運ぶ術はない。ローゼンクロイツももうここにはいない。
 ビビはルーファスの服の袖をぐいぐい引っ張りながら、ルーファスの瞳を仔猫のような瞳で見つめている。自称ちょ〜可愛いと言っているほどのことはある ――激マブ。
 ルーファスはしぶしぶビビの申し出を受けることにした。激マブに負けたわけではない、ルーファスには本当に成す術がなかったのだ。
「よろしくお願いします(3ヶ月か……)」
「オーケー♪」
 ビビは別空間に保管してあった大鎌を取り出し、その切っ先を天高く構えた。
「痛くないよね?」
「さあ、アタシ切られたことないし?」
「えっ、ヤダよ痛いのは!?」
「ウソだよ。痛くないから心配しないで……」
 合図なしでいきなりビビはルーファスに大鎌を振りおろした!!
 ルーファスは殺されると思い目をぎゅっとつぶったが――死ななかった。恐る恐る目を開けると、そこには何かを飲み込むような仕草をしているビビがいた。
「ごくん。あ〜、おいしいぃ〜(やっぱり魚なんかより、人間の魂だよね〜)」
 ごくんと何かを呑み込んだ様子のビビはお腹を摩りながら満足そうな顔をした。ビビは大鎌によってルーファスの魂の一部だけを切り取り補食したのだ。
「え? 今のでおしまい?(呆気なかったな)」
「うん」
 ルーファスは実感が沸かなかった。本当に自分の寿命が3ヶ月減ったのだろうか?
 魂を喰らい魔力を得たビビの足元の下から目に見えないオーラが発せられ、ゴスロリ服が揺ら揺らとゆらめく。
 魔力の解放。ルーファスは正直恐怖さえ覚えた。
「(な、なんてマナなんだ……こ、これで3ヶ月?)」
「いくよぉ〜!」
 全てを呑み込んだ。ビビから発せられた影が、闇がこの部屋にあるものを全てを呑み込んだ。
 グォォォッ!! 耳元で鳴り響く風の流れるような轟音。
 気づくとそこはすでに薄暗いカーシャの研究室だった。魔力を得たビビは瞬時にホムンクルスと装置、そして、自分たちまでも一瞬にしてカーシャの研究室に運んだ。
 灯ったロウソクの中からカーシャが浮き出るように現れた。
「よくやった。すぐにビビをホムンクルスに移す儀式を執り行うぞ」
 ルーファスとカーシャは直ぐさまビビをホムンクルスに移す儀式の準備をした。
 カーシャの研究室は薄暗くてよく分からないが実際は異様なまでに広い、それはこの部屋でいろいろな儀式や実験をするためだ。
「ルーファス、本棚から魂移しの儀の描かれた魔導書を取ってくれ」
「オッケー」
 部屋の中を忙しなく動き回るルーファスをあごで使うカーシャは、こちらはこちらで魔方陣を描くので手一杯だ。何もすることがないビビはルーファスの影の中で邪魔にならないように静かにしている。
 そして、その広い部屋一杯に儀式の準備をして、ようやく準備は整った。
 魔方陣の真ん中にルーファスとビビが立つ。カーシャはロウソクを付けながら二人の周りを円を描くように歩き呪文を唱える。が、しかし、カーシャが思わぬビックリ発言を突然した。
「違う儀式の呪文だ(準備の段階からなにか変だとは思っていたんだ)」
 呟いた。聞こえるか聞こえないほどの声で呟いた。だが、ルーファスとビビの耳にはしっかりと届いていた。
「なんだって!?」
「うっそ〜!?」
 この儀式に使う呪文の書かれた魔導書は、儀式を始める前にカーシャが本棚の中からルーファスに頼んで取ってもらっただった。
 ――儀式は見事失敗した。そして、辺に爆風が吹き荒れ、業火がルーファスたちの周りを包み込んだ。
「もしかして私のせいなの?(うそでしょ!?)」
 もしかしてではなく、ルーファスのせいである。最後まで気づかなかったカーシャにも責任はあるような気もするが、弱い立場に罪が擦り付けられる。
「ルーちゃんどうにかしてよ!?」
「どうにかって、カーシャどうにか……」
 慌てふためくルーファスはカーシャに助けを求めようと彼女のいた筈の方向を振り向いた筈だった。そう筈だった。
「マジでぇ〜!!」
 ルーファス叫ぶ。
 ルーファスは唖然とした。カーシャの姿はそこには無かった。いたのはうさぎしゃんのぬいぐるみと書き置きだった。書き置きにはこう書かれていた。
 ――すまん、暑いのは苦手だ。
 ルーファス的大ショック!
 カーシャは一目散に逃げたのだ。騒ぎに巻き込まれるのはゴメンということなのか?
「ルーちゃん、あの人どこ行ったの? もしかして逃げたの!?(もう、サイテー!)」
「たぶん、逃げたのかなぁ〜、よくあることだから……あはは(笑えないよ、毎回毎回いざってとき逃げて!!)」
 火に手は部屋中に広がって行く。それに比例してルーファスとビビは部屋の隅へと追いやられて行く。しかも、ついてないことに部屋の入り口からだいぶ離れてしまっている。
 ルーファスの額から冷たい汗が流れ出る。
 ビビは火に向かって大鎌をぶんぶんと振って、火を追い払おうとするが、それは無意味としか言い様がない。
 いつになく真剣な表情なルーファスの手から吹雪が出た。
「これでどうだ!!(……お願いだから消えて)」
 ルーファスの作り出した吹雪は猛吹雪だった。しかし、眼前に広がる業火にあっさりと呑み込まれてしまった。
「ルーちゃんダメじゃん(なんだ、ルーちゃん普通の魔法使えるんじゃん)」
「まだまだ、これでどうだ!」
 ルーファスの身体にマナが集められる。しっかりと腰を据えて詩を詠んだあとに呪文を唱えた。
「ブリザード!!」
 この呪文は今世界で使われている簡略化されたレイラなどの原型になったライラと呼ばれる呪文だ。
 レイラなどの呪文は唱えなくても簡単に出すことができる。だがライラはいちいち詩を詠み呪文を唱えなくはならない。しかし、その威力はレイラなどは比べ物にならない強力なものだ。ライラは別名『神の詩』と呼ばれている高等呪文だ。