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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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 そんなルーファスにカーシャは、きっぱりさっぱりあっさり答えた。
「駄目だ。これは本来ルーファスの追試の一貫なので手伝うことはできない(しかも、ファウストのだからな)」
 ファウストとカーシャの仲の悪さは学園内でも有名な話で、カーシャがルーファスの追試に手を貸したくない理由の9割がそこにある。
 だが、カーシャは咳払いをひとつしたあと話を続けた。
「コホン、だがな、場合によっては手伝ってあげないこともない(ふふ……ふふふ)」
 心の中で不信に笑うカーシャ。善からぬことをことを考えているのは明々白々、お天道様[テントサマ]も知っている。
 ごくんとルーファスが唾を飲む音が聴こえた。この時カーシャの瞳がキラリィーン! と光ったような気がする。
「場合ってどんな場合?(嫌な予感はするけど)」
 何度も言っているような気がするが、ルーファスの嫌な予感は大抵当たる。
「ふふふ、聞いて驚け! パラケルスス先生のホムンクルスを2体盗んで来い!!」
「はあ〜っ!!(無理)」
 ホムンクルスというのは簡単にいうと人間の形をしている入れ物のことで、それをカーシャは盗んで来いと普通に言ってのけたのだ。
「盗んで来いと言ったら盗んで来い。そのホムンクルスを実験で使いたいがパラケルススが貸してくれないのだ(あのケチじじいが!)」
 とカーシャは愚痴をこぼす。がルーファスは大反対だ。
「駄目、駄目、絶対駄目!!(あんな良い先生の物なんて盗めないよ)」
 パラケルスス先生と言えば、優しくいつも笑顔を絶やさない先生で、ルーファスも普段から大変お世話になっている。
「ホムンクルさえ手に入ればビビをルーファスに影ごとそのホムンクルスに移すことができる。そうすれば、ビビは身体を手に入れ今よりは自由に行動ができるようになると思うが?(ふふ、妾の研究も進んで一石二鳥)」
 深く悩み苦悩するルーファスだったが、ホムンクルス強奪の話はカーシャとビビの間で勝手に進められ、ビビは絶対にホムンクルスを盗んで来るとカーシャに約束していた。
「カーシャ、アタシ絶対ホムンクルス盗んでくるからね!」
「うむ、頼もしい娘だ」
 ルーファスしばし沈黙。そして、
「なんで、勝手に話進んでるの?」
 二人の女性が同時にルーファスのことを睨んだ。
「いいじゃん別にぃ〜」
「ルーファスお前には選択の余地はない。選択権があるのはこのビビだ」
「…………(なんか、不公平だ)」
 しかし、結局有無を言わせぬままビビはルーファスを引っ張って強引にホムンクルスを盗みに行ってしまった。

 今日は休校日で教職員の大半はいつもどおり学院に来ているが、生徒は勉強や研究熱心な学生しか来ていないので、学院内にいる人数は普段の10分の1にも満たない。そのためルーファスは難なくパラケルスス先生の研究室の前まで来れた。
 ビビは今ルーファスの影に戻っている。この方が行動しやすいからだ。
 ドアの前で腕組みをするルーファス。
「カギどうやって開けようか?」
 カーシャちゃん情報によるとパラケルスス先生は今日は学校に来ていないらしい。だが、研究室にはカギがかかっている。
 取り合えず、ドアに手をかけて引いてみる、押してみる、ノックしてみる。
「開けてくださ〜い」
「ルーちゃんばかでしょ?」
「試しにやってみただけだよ! ……でもどうやって開けようか?」
「魔法でドッカ〜ンってわけにはいかないの?」
「このドアは特殊合金でできていて、私の程度の魔導士の魔法は全部無効にされる」
「役立たずぅ〜」
 突然ルーファスの後ろで誰かが呟いた。
「ボクも思うよ。ルーファス役立たず(ふにふに)」
 バッとルーファスが振り返った。その目線の先にいたのは空色のドレスを着た変人――クリスチャン・ローゼンクロイツだった。
「なんで、ここにいるのぉ〜!?(あわわ〜!?)」
 ルーファス取り乱す。今から悪いことしようとしていたので、余計に取り乱す。
「すごいよルーファス、今からボクが君に言おうとしたことを当てるんなんて!?(ふあ〜)」
 それは違うと思う。
「そうじゃなくって……」
「……ウソ。冗談に決まってるでしょ(ふっ)。出席日数が足らなくて呼び出されたって言ったろ? 記憶力ないね君(ふぅ)」
 ワザとだったらしい。つまりこいつの性格はそれなりに悪いということだ。
「そのくらい覚えてるよ!(絶対バカにされてる)」
「……でも、ルーファス。なんで君がここにいるんだい? しかもそこのドア開けようとしてたみたいだけど(ふーっ!)」
「ドキっ!(見られてた!?)」
「……なんてね。どうしてかはカーシャ先生に聞いてるよ。ボクも今カーシャ先生の所に行って来て、マスタードラゴンの鱗を取って来いって言われたから(ふにふに)」
 クリスチャン・ローゼンクロイツは人をからかうのが好きらしい。
「そんなに私のことからかって楽しい?」
「……それはどうかな?(ふっ)」
「…………(遊ばれてる)」
「そうだ、そこのドア開けてあげようか?(ふあ〜)」
「ホントに!?」
「もちろん、ボクとルーファスの仲じゃないか……?恩を売って?あげるよ(ふにふに)」
 ローゼンクロイツの口もが少し歪みすぐに普段の無表情に戻った。
 『恩を売ってあげる』という言葉が多少引っかかったが、ドアを開けてもらえるならとルーファスはローゼンクロイツに頭を下げた。
「お願い!」
 ローゼンクロイツはルーファスを押し退けドアの前に立った。このドアはそんじゃそこらの魔法では開かない。
 意識を集中しながら立つローゼンクロイツの背中をルーファスが息を呑みながら見守る。
 ローゼンクロイツが動いた。強力魔法が繰り出されるのか!!
 ゴンッ! ローゼンクロイツの蹴りがドアにヒットして特殊合金のドアは大きな音を立てながら外れ倒れた。
「ほら、開いたよ(ふにふに)」
『ほら』じゃないだろ! と突っ込みを入れたくなるが、その前にローゼンクロイツはさっさと行こうとしている。
「……じゃ(ふにぃ〜)」
 ローゼンクロイツは片手を上げると音も立てずに歩き去ってしまった。
 呆然と立ち尽くすルーファスにビビが声をかける。
「ああいうのってアリなの?」
「さあ? アリなんじゃない?」