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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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不良娘はピンクボム1


 今日こそ成功させなばならない!!
 ……なにがって、追試である。
 しかも、正確には再追試だったりする。
 1度目の召喚実技を失敗して、追試試験でビビを呼び出し、再追試の練習では異世界のタコ魔神を呼び出してしまった。
 召喚といえばルーファス。もちろん悪い意味で。
 そんなへっぽこの上塗りをしないために、今日という今日は失敗が許されない。
 いつも以上に気合いの入っているルーファス。その気合いが空回りしないことを祈るばかりだ。
「よし、ファウスト先生よろしくお願いします!」
 必勝ハチマキをおでこに巻き、ルーファスは脇に魔導書、手には水性ペンキの入ったバケツを持って準備万端。
 だが、ファウストの表情は険しい。いつもよりも眉間にシワを寄せている。
「ルーファス、本当にはじめていいのか?」
「はい、完璧です!」
 気合いの入った返事をしたルーファスの身体から、ジャラジャラと音が鳴り響いた。
 ジャラジャラの代名詞と言えば、魔導学院ではファウストだ。その理由は、いつも持ち歩いている魔導具がジャラジャラとうるさいからである。けれど、今日のルーファスはそれ以上だった。
 友人知人のルーファス私設応援団のみなさまからの贈り物。
 腰にぶら下げた魔導具の数々。魔除けの鈴と魔寄せの鈴(いっしょに装備したら意味がない)、お守り各種(交通安全、家内安全、恋愛成就)などなど。
 首からは千羽鶴や束のニンニクなどを提げている(ほとんど意味ない)。
 背中にもいろいろな魔導具を背負っており、サンバ衣装の羽根みたいなのが目立っている(しかも単色ではなく毒々しい色とりどり)。
 はっきり言って、ほとんど邪魔な装備でしかない。
 その役立たずの魔導具のプレゼントした張本人が、部屋の隅でルーファスを応援していた。
「ルーちゃんがんばれー!」
 マラカスとタンバリンを装備したビビだった。
 ファウストがビビを睨み付ける。
「うるさい!」
 さらにファウストはもう一人にも目を向けた。
「ところでカーシャ先生、なぜあなたがここにいるのですか?(なにを企んでいるんだ?)」
「ヒマだからに決まっておろう」
 役立たずの魔導具の大半はカーシャがプレゼントした物だった。そんな物を渡すくらいだから、きっと失敗するのを楽しみに見物しに来たに違いない。へっぽこ魔導士ルーファスを観るのがカーシャの人生の楽しみの1つだ。
 ここでカーシャを追い出そうとしても、ゴタゴタするくらいのことはファウストでもわかっている。いくら犬猿の仲であろうと、ファウストのほうがまだ良識を持ち合わせている。
 が、この魔女は本当にどーしょーもない。
「ところでファウスト、ルーファスがなかなかこの試験をパスしないのは、貴様の教え方が悪いせいではないか?」
 とかカーシャの口が抜かしやがった。
 ピキっとファウストのこめかみに青筋が奔った。
「静かにしていただけませんか、カーシャ先生?」
「冗談でルーファスの気を和らげてやろうとしただけだ。こんなことでイチイチ腹を立てるとは、まだまだ青いなファウスト、ふふっ」
「私が、いつ、腹を立てたというのですか、カーシャ先生?」
「今だ」
 冷笑を浮かべるカーシャ。それはカーシャが勝ったことを意味していた。
 すでにファウストはカーシャのペースに乗せられ、その時点で負けていたのだが、さらに敗北を決定したのは……?
 ファウストは自分の足下を見て愕然とした。挑発され、いつの間にか足が一歩前へ出てしまっていた。その足がなんと、魔法陣を踏んづけてしまっていたのだ。
 ガ〜ン!
 ルーファスショック!
 せっかく描いた魔法陣が水の泡。
 さらにファウストもショックを受けていた。
「なんたることだ……この私が……(許しませんよ、カーシャ先生)」
 まだ乾いていないペンキが靴にぐっしょり。水性ですぐ洗い落とせるとはいえ、踏んでしまったこと事態がショッキングだった。
 さらに最悪なことに、ルーファスは呪文を唱え始めていたのだ。ルーファスはファウストとカーシャの言い争いなど、耳に入らないくらいテンパっており、自分だけでどんどん先に進めてしまっていたのだ。
 つまり召喚術は失敗したのだ。
 召喚術の内容には空間移送も含まれており、空間移送は魔導の中でもかなり高等な部類に入っている。ゆえに失敗のリスクも大きい。
 召喚術の失敗パターンは大きく2つに分けられる。なにも起こらないパターンとなにか起こるパターン。
 凶運の持ち主であるルーファスのことだ、どっちのパターンか言うまでもない。
 魔法陣が真っ赤に輝き、局地的な地震が起きた。
 揺れでコテたルーファスはペンキまみれ!
 ビビのマラカスとタンバリンは大合唱!
 そしてカーシャはとっても楽しそう!
 こんな状況の中で、ファウスト一人が迅速な行動を取る。カーシャの挑発には負けても、魔導学院の講師である。その職務を全うし、その資質を兼ね備えている。
「アクアウォッシュ!」
 呪文を唱えたファウスト。
 大量の水によって魔法陣を洗い流す。ついでにルーファスも流された。
 魔法陣を消すことによって、召喚の出口となる〈ゲート〉を閉ざす。だが、すでに手遅れだった。
 高等な魔力を持った存在は、道具や準備なしに空間転送をやってのける。あくまで魔法陣は補助であり、切っ掛けでしかない。魔法陣を座標の指針として、出口までのルートをすでに確保してある場合、あとは自力で〈ゲート〉を開けることも不可能ではないのだ。
 魔法陣があった真上の空間が歪みながら渦巻いている。
 ファウストの周りにマナフレアが発生する。
「強力なレイラをあそこにぶつけてマナを逆転させ、こちらに来ようとしている存在にお帰り頂く。いいですねカーシャ先生?」
「そんなめんどくさいこと妾はらんぞ」
「……なっ!」
 見事にファウスト玉砕。
 カーシャに協力を仰ごうとした時点で判断ミスである。
 思わずカーシャのせいで集中力が乱れたファウストの一瞬のスキを突き、空間の歪みは大きくなり稲妻が部屋中を駆け巡った。
 まだこちら側に召喚されていないというのに、マナの乱れの激しさは、その力の片鱗を窺わせる。今、こちらに来ようとしている存在は、並の魔力を持った存在ではない。
 魔導耐久の高い召喚室の壁にヒビが奔った。天井からは石片が落ち、ここまま行けば、もしくは存在がこちらに出てきたと同時に、この部屋が倒壊する可能性が出てきた。
 もはや一刻の猶予も許されず、危険や犠牲を顧みている場合ではない。
 ファウストはマナフレアを集めつつ、床でびしょ濡れになって倒れているルーファスに目を向けた。
「ルーファス! なんでもいい、レイラをあそこに放て!」
「えっ、僕がですか!?」
 ルーファスが?私?ではなく?僕?というのは、素が出てしまっている状態だ。こんな状態のルーファスでは、いつも以上にまったく頼りにならない。
 孤立無援状態のファウスト。別にファウストが悪いわけじゃない。たまたま居合わせたメンバーが悪かった。
 まだファウストの魔力は高まり切れていないが、時間がもうなかった。
「クッ……マギ・ダークスフィア!」
 巨大な暗黒の玉がファウストの両手から投げられた。