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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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未知との遭遇4


 料理対決がはじまる寸前、ルーファスの言葉でエルザは我に返った。
「……危ない女狐の謀略に乗せられるところだった」
 もう少しで任務も忘れて意味不明な展開になるところだった。
 ルーファスの言葉ならちゃんと聞くディーも正気を取り戻していた。
「ルーファス君の言うとおりだ。料理対決など関係なくこの怪物を処理せねばらん」
 2人がまともな思考を取り戻したというのに、桃色と空色はまだバカなことをやろうとしていた。
 ビビは大鎌で触手をスライスしようと奮闘し、ローゼンクロイツは日傘に魔導を宿した光の剣で華麗な包丁(?)捌きを魅せる。
 果たしてどんな料理ができあがるのか!
 それを見守っているのは、胸の谷間から緑茶のペットボトルを取り出して飲んでいるカーシャ。あんたの胸は四次元ポケットかっ!
 ローゼンクロイツによって捌かれていく触手。だが、まるで単細胞生物のなみの再生力で、次から次へと新たな触手に生え変わる。これじゃあ、食べても食べてもなくならない!
 そして、ついに料理が完成したらしい。
 近くの民家から運び出したテーブルとイス、そこに座るのはルーファス。強引に審査員にされてしまった。
 まず、運ばれてきたのはローゼンクロイツの料理。
 ルーファスの前でフタを開けられた皿に乗っていたのは……お刺身だ!
 切って皿に乗せただけ。いや、しかしシンプルなだけに、奥の深い料理なのだ。
 ここでローゼンクロイツの口から衝撃のひと言が!
「よく考えてみたら、こんな場所で料理できるわけないよね(ふにふに)」
 ――で、お刺身になったというわけだ。
 キッチンもなにもない場所で、料理対決をするなど最初から無謀だったのだ。
 ルーファスはナイフとフォークを握ったまま、皿の上の物体エックスと睨めっこをしまった。
 この物体は生で食べていいものなのだろうか?
 見た目はナマコをスライスしたみたいというか、真っ黒なゴムを輪切りにしたみたいというか、口の中に入れてはイケナイ雰囲気が漂っている。
 が、ルーファスの真後ろではカーシャが無言のプレッシャーをかけている。
 ルーファスは物体エックスをフォークで突き刺し、目を瞑って口の中に放り込んだ。
 もぐもぐ。
 一瞬にしてルーファスの顔を真っ青に変わった。
 頬を丸くして、今にも××しそうなルーファスが物陰に駆け出した。
 ――しばらくして、ゲッソリ頬の痩せたルーファスが帰って来た。雪山で遭難して食料も底を付き、数週間ぶりに発見されたかのような衰弱ぶりだ。
「まるで生ゴミを食べてるみたいだった……(あんなの食べたら廃人になるよ、実際なりかけたし)」
 無表情の顔のままローゼンクロイツは首をかしげた。
「そうかな?(ふあふあ)。美味しいと思うんだけどなぁ(ふにふに)」
 ローゼンクロイツは自分で捌いた刺身を指で摘んで、口の中にあむっと放り込んだ。
 もぐもぐ、もぐもぐ。
「美味しいよ(ふあふあ)」
 表情一つ変えないローゼンクロイツ。
 ビビはローゼンクロイツの言葉を信じて、お刺身をつまみ食いした。
「う゛っ!」
 ビビは顔を真っ青にして物陰に消えた。
 やっぱりローゼンクロイツは首をかしげている。
「う〜ん、味が薄いのかな?(ふにふに)」
 そう言ってハンドバッグから取り出したのは、なんと七味唐辛子。常備持ち歩いてるのだろうか?
 フタを開け、中のフタも開け、一気にドサッと刺身に山盛り。七味唐辛子が1瓶丸ごとお刺身に振りかけられ……じゃなくて盛られた。
 ローゼンクロイツにお皿ごと差し出されて、ルーファスは両手を胸の前に突き出し首を横に振った。
「いらないっていうか、食べ物じゃないから!(……ローゼンクロイツが味覚音痴だったの忘れてた)」
 実はローゼンクロイツ、大の辛党で味音痴なのだ。ついでにしょっちゅう鼻炎らしい。
 もはや七味唐辛子の塊を化したお刺身を食べながら、まだ首を傾げてローゼンクロイツはフェードアウトしていった。微かに『美味しいのになぁ』と呟く声が聴こえてくる。
 さて、気を取り直して次はビビの料理だ。
 再びテーブルに座らせれたルーファスの前に運ばれてくる料理。お皿にはフタがされてまだ中は見えない。
 が、ガタガタっとフタが動いた。
 思わず顔を引きつらせるルーファス。とっても嫌な予感がする。
 ビビはニコニコ顔でフタを持ち上げた。
 オープン・ザ・地獄への片道切符!
 フタを開けた瞬間、生きたまま触手がルーファスの顔に飛び掛った。
「ぎゃあ!(く、苦しい……)」
 触手に付いた吸盤がルーファスの舌にへばりついた。しかも、触手はルーファスの咽喉の奥に入ろうとしている。このままでは窒息死は免れない!
 ルーファスが暴れまわるのを見て、ビビは凄まじい勘違いをした。
「ルーちゃんそんなに喜んで食べてくれて嬉しいっ♪」
「うがっ(違っ)、うががだばばば!(早く助けて……)」
「やっぱりアタシ料理の才能あるのかなぁ」
 暴れ狂うルーファスの姿をビビのフィルターを通すと、歓喜の舞を踊っているように見えるらしい。
 カーシャがビビの頭をパコーンと叩いた。
「アホか、ルーファスが死に掛けておるだろう」
 すぐにカーシャはルーファスの口からはみ出す触手を掴み引っ張った。だが、触手はなかなか剥がれない。
「ビビ、手伝え!(舌まで引っこ抜きそうだな)」
「うん!(ルーちゃん死に掛けてたんだ……きゃは)」
 今度はビビも手伝い、綱引きの要領で引っ張った。そしたら今度は、力が強すぎてルーファスが踏ん張りきれず、地面の上をズルズル身体ごと移動するだけだった。
「あがぐだずげで!(早く助けて!)」
 泣きそうな顔を必死に訴えるルーファス。だが、ハッキリ言ってなにを言ってるのわからない。
 ルーファスの口から伸びる触手を引っ張る光景は、なにも知らない人が見たら舌が伸びちゃった人みたいだ。そして、この光景はもう一つなにかの光景に似ていた。
 引っ張っても引っ張っても取れないので、諦めてカーシャとビビは手を放してしまった。次の瞬間、触手がゴムのように収縮してルーファスの顔にバチン!!
 これぞ伝説の芸――ゴムパッチンだ!
 顔を抑えて床に転がり回るルーファス。さそがし痛かったことだろう。
 真っ赤に顔を腫らしてルーファスが立ち上がった。
「痛いじゃないか!!」
 と、叫んだ口から触手が消えていた。地面を見ると取れた触手が痙攣している。
 満足そうにカーシャが頷いた。
「うむ、計算どおりだ」
 絶対にウソだ!
 たとえ偶然だとしても、これで一件落着だ。
 めでたし、めでたし……じゃな〜い!
 そうだ、料理対決なんてバカなことしていて、エロダコ本体のことを忘れていた。
 辺りにエロダコの姿はなかった。
 ルーファスは近くで騎士の手当てをしていた病院スタッフに尋ねた。
「あの、あのタコはどこに行きました?」
「シモーヌ川に向かって再び進みはじめましたよ」
 料理対決なんかしてる間に、エロダコは再び町をぶっ壊しながら爆進していたのだ。
 すでにカーシャはエロダコを追おうと走り出していた。
「ルーファス早く行くぞ!」
「早く行くぞって……(カーシャが料理対決なんかけしかけたんじゃんか)」