魔導士ルーファス(1)
考え事しているローゼンクロイツは避けるばかりで攻撃しようとしなかった。攻撃はメニューが決まってからだ。
ローゼンクロイツはエロダコの気を惹いている間に、この場には黒い医師が率いる白い医師団が来ていた。
ディーがルーファスに駆け寄る。
「大丈夫かねルーファス君?」
その声を聞いてゾッとしたルーファスが飛び起きた。
「はい、大丈夫です!」
今まで気絶していた人とは思えないハツラツぶりだ。
ディーはルーファスを舐め回すように見ている。
「かすり傷を負っているようだね。すぐに私が舐めて――」
「お断りします!(死んでも嫌だ)」
キッパリハッキリ言い切った。
本当に残念そうな顔をするディー。
「君が言うなら仕方あるまい(……しかし)」
そのままディーの視線はエロダコに向けられ、彼は話を続けた。
「ルーファス君を傷つけるなど、絶対に私が許さん(切り裂いて殺してやる!)」
サングラスの奥でディーの眼が紅く光った。
ディーの手にはいつの間にかメスが握られていた。しかも二刀流だ。
静かに地面を駆けてディーがエロダコに襲い掛かった。
音もなく静かに、輝線だけを走らせて、触手が次々とメスによって切り刻まれていく。
剣では歯が立たなかったというのに、なんというメス切れ味だろうか。その巧みの業、切り込む角度、そしてタイミング。心技一体のハーモニーが、触手切断を可能したのだ。
細切れにされていく触手の中でビビが解放され、カーシャやエルザも笑い地獄から解放された。
横から乱入してきたディーを見て、ローゼンクロイツがワザとらしい嫌な顔をした。
「このタコ、ボクの夕食だよ(ふに〜)」
「喰うのは好きにしろ。ただし、こいつは私が殺す」
「料理は捌くところからやらなきゃいけないんだ(ふにふに)」
「この街で魚を捌かせたら私の右に出る者はおらんよ。私の華麗なメス捌きを魅せてやろう!」
……まさか、この展開は?
魔導士ルーファス料理対決がはじまってしまうのかッ!
ついに幕を開けた魔導士ルーファス料理対決。
そして、カーシャまでもがこの戦いに乱入してきた。
「食を制する者は世界を制す!」
カーシャの口から放たれた意味不明なひと言。
立ち尽くしながらも、呆れた眼を向ける仔悪魔ビビ。ばっかじゃないの、いつものやつがはじまりましたね。カーシャの思いつきに振り回されるほど、アタシは子供じゃない。
だが、薄笑いを浮かべて動じないカーシャ。
おまえたちはいつものように、黙って妾の言うことに従っていればいい。しょせんお前たちは遊び道具でしかないのだから。ビビたちを見つめるカーシャの眼は、そう語っているかのようだ。
だがこのあと、意外な人物の口から誰もが予想しえなかった言葉が!
呆れ顔のビビを嘲笑うかのように、次々と名乗りをあげる挑戦者たち。
魔導医ディーは呟く。
「……ククッ、望むところだ料理対決」
私を舐めるなよ、魚を捌かせたら王国一の腕前だ。悪魔の手を持つディーのメス捌きが今日も冴えるのか!
挑発的なカーシャの眼がローゼンクロイツに向けられる。
「魚介類マニアとして、この勝負、負けられないのではないか?」
「いいよ、この勝負受けて立つよ(ふあふあ)」
いいでしょう、ここはあんたの言葉に乗せられましょう。でもね、その代わりボクがやるのは真剣勝負。死人が出ても知りませんよ。そう言いたげなローゼンクロイツの不敵な笑み。
次にカーシャが目線を向けたのはエルザだ。
「いいのか? 王宮のエリート魔導騎士として、この状況を放って置く気か?」
「わかった。そういうことなら私もやろう」
しぶしぶ重い腰を上げる高級官僚エルザ。勘違いするな、私は王宮に仕える身として放っておけないだけ。見え透いた挑発に乗るほど馬鹿じゃない。
再びカーシャの視線がビビを見据える。
「もう一度聞こう、どうするビビ?」
「やるってば、やればいいんでしょ!」
みんながやるならアタシだって黙っていられない。けどね、本気になったアタシをあんたたちは止められるのかい? 乗り気じゃなかった仔悪魔ビビまでもが、闘志を剥き出しにして食って掛かる。
そしてこのあと、黙して語らなかったあの人物から信じられない言葉が!
「あ、あのさぁ……なんで料理対決なの?」
この状況を呆然と見ていたルーファスの的を得た正論!
大波乱を迎えた魔導士ルーファス料理対決、いったいどうなってしまうのかッ!
作品名:魔導士ルーファス(1) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)