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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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桃髪の仔悪魔3


 影から出てきたビビはどこにでもいる女の子と変わらない。そして、今はそこらにいそうな恋人だった。
「ねえ、ルーちゃんあれ食べたい」
 ビビの指差した先にはくだもののたくさん置かれた屋台がある。
 ここバザールには数多くの食料品が取り揃えられていて、魚などは生簀[イケス]に入れられ新鮮なまま売られている。
 ルーファスはビビの伸びた指の先を目で追って、そこにあるものを見た。
 そこにはくだもの屋さんがあるが、ビビの指はもっと的確に示されていて、それを見たルーファスの表情は曇り空のようになってしまった。
「……ちょっと高いかな(いち、にい、さん、よんって)」
 指のさされたくだものは手のひらに納まるくらいのピンク色をした丸い柑橘系の食べもので、名前をピンクボムというが、正式名称は別にあり『ラアマレ・ア・カピス』といい、意味は古代語で『神々のおやつ』という。
 ビビはピンクボムを見てはルーファスの顔を見るという行動を何度も繰り返している。
「ラアマレ・ア・カピス食べたいなぁ〜(口に入れた時の脳みそがスパークしそうな感じがたまらないんだよねぇ)」
「でも、ピンクボムって高いんだけど」
 ピンクボムの前にこじんまりちょこんと置いてある値札には、こじんまりしてない値段が書いてある。1000ラウル。
「1000ラウルくらいいいじゃん」
「1000ラウルもあったら、1ラウルチョコが1000個も買えちゃうよ(うめぇぼうだと500個だよ)」
「じゃあ、1ラウルチョコ1000個でもいいよ(アタシチョコ好きだし)」
「はいはい、別の見に行くよぉ〜(チョコに1000ラウルも出せないよ)」
 ルーファスはビビの腕をガシッと掴むと引きずりながら別の場所へ移動した――。
 このあとバザール内を見回して結構な量の買い物をしたのち、二人はまた乗合馬車に乗って家路についた。
 帰りは何事もなく、一安心で家についたルーファスは安堵のため息をもらした。
「ふぅ〜、やっぱり家が一番落ち着くなぁ〜」
「(年寄りくさいセリフ)」
 注意しておくがルーファスは数日前に17歳になったばかりだ。
「台所に行くついでに東方のおみやげでもらった緑茶でも飲もうかな」
「(緑茶ってしぶい紅茶のハトコみたいなのでしょ、やっぱり年寄りぃ〜)」
 ちょっと軽蔑の眼差しで見るビビのことになど全く気づかず、ルーファスは買い物荷物を持って台所に行ってしまった。ビビは当然ながらそのあとをめんどくさそうについて行く。
 台所に着くとルーファスは買ってきた食べ物などをしまったりし始めた。その間ビビは食卓の椅子に腰掛けながら足をぶらぶらさせてひまそうに待っている。すると、そんなビビの目の前のテーブルにバンッと大きな魚が置かれた。
「この魚がどうかしたの?」
 目を丸くしているビビの前に置かれた魚は、ルーファスが値切りに値切って買った大きめの生きた新鮮な魚だ。
 魚屋の若主人曰く、その二人の買い物客が、彼女に尻を敷かれているカップルのようであったとが語っている。
 丸々生きた大きな魚をビビの前に出したのはルーファス的には理由がちゃんとある。
「この魚の魂食べたら少しはお腹の足しになるでしょ?(我ながらいい考えだ)」
「まあ、魚の魂だって食べれないことないけど(普通はやらないよ)」
 のちにルーファスは人間の生贄の変わりに今回と同じく魚、それもマグロの刺身を使用したことにより大変なことを起こすことになるのだが、それはまだまだ先のお話。
 仕方なくビビは魚の魂を喰らうことにした。
 ビビがゆっくりと目を瞑ると、アウトサイドとこの世界では呼ばれている、今二人がいる空間とは次元の異なった空間に保存してあった大きな鎌を取り出し構えた。その光景はマジシャンがどこからともなく物体を取り出すような光景に似ていた。
 鎌を構えたビビの目がカッと見開かれ大鎌が魚に振り下ろされた。鎌は魚を通り抜け、テーブルを通り抜け、何一つ傷を付けていない。鎌は物体を通過してしまったのだ。
 少しして魚から白い煙のような物が立ち上り、それはビビの口の中にすーっと吸い込まれていった。それと同時にビビのお腹がぐーっと鳴いた。
「お腹空いた」
 魚程度の魂ではビビのお腹を満たすことはできないということなのだろう。
「でも少しは足しになったでしょ?」
「少しはね。でもまだまだ足りないよ」
「あとは普通の食べ物で我慢してもらうしかないね」
「えぇ〜っ!」
「しょうがないでしょ?」
「ダメ!(でも、このままじゃ……)」
 ダメとは言ったものの、このままではビビは衰弱していってしまうに違い無い、早く手を打たなくては……。

 食事を終え、ルーファスはビビを連れてある場所に向かった。
 馬車に揺られて数十分、噴水のある円形の広場を抜けたその先にその建物はある――クラウス魔導学院、この学院はこのアステア王国一の規模を誇る魔法学校である。
 ここでルーファスは魔導学院の教師であるカーシャのもとを訪れることにした。
 直射日光を嫌うカーシャは学院の地下に自室を設け、ロウソクだけの薄暗い明かりの中で魔術の研究をしていた。
 彼女は融通の利く合理的で利己主義な美人教師として学園内で名が通っており、何か困ったこと、主に成績などで普通ならどうしようもないような問題を抱えた生徒たちが彼女のもとによく訪れる。
 ルーファスとビビはその薄暗い部屋にいた。
「あのカーシャ、頼みごとがあって来たんだけど」
 ルーファスはカーシャのことを呼び捨てで呼んでいる。その理由はこの二人がただの生徒と教師に関係ではないということ、ただし、恋人同士とかいった関係でもない。二人はある意味腐れ縁といった関係だった。
 薄暗い影の中にロウソクの光がぽわぁ〜と灯り、人の顔が現れた。その顔は白く美しかった。
「「わっ!!」」
 ルーファス&ビビは同時に驚いた。ルーファス的には突然のカーシャの登場に驚き、ビビ的には幽霊かと思って驚いた。
 冷たい風がすぅーっと部屋の中に吹いた。しかし、ロウソクは全く揺れていない。風が吹いたのはルーファスとビビの背中だけ。
「頼みごととはなんだ?(知らん女が一緒か……ま、まさかへっぽこ魔導士ルーファスに彼女できる!? なんてことはないな……ふふ)」
「脅かさないでよ! 毎回そーゆー現れ方してぇー」
「それよりも用件を言え、妾も暇じゃない(給料が懸かっているからな……切実だ)」
「え〜と、こちらにいるのがビビ」
 ルーファスはおすすめメニューを紹介する店員さんみたいに手のひらを返してビビに手を向けた。
「えっと、アタシの名前はシェリル・B・B・アズラエル、愛性はビビ、よろしくね♪」
 可愛らしくあいさつをしたビビのことをじーっと見つめたカーシャはぼそりと呟いた。
「悪魔だな」
「わっかるぅ〜、アタシはこれでも魔界ではちょ〜可愛い仔悪魔でちょっとは名前が知られているんだからね」
「わかるもなにもファウストが職員室で話していたのを聞いた(ルーファスの人生は、やはり呪われている。……論文にまとめるとおもしろいかもな……へっぽこ、ふふ)」
 いきなりルーファスがカーシャに頭を下げた。
「お願い、どうにかして!」