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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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 クリスナイフ、魔鏡の類、メダル、骸骨、神木、特別な布、生贄などなど、挙げれば切がない。
 魔法陣を描くための道具としては血を使ったりするが、クレヨンやペンキで代用するのが主流である。今日使うペンキは蛍光塗料入りのピンクだ。ホームセンターのバーゲンで特価だったらしい。
 魔法陣を描く色も重要だが、まあぶっちゃけ成功するときはするし、失敗するときはするので、ルーファスは何色で描いても同じだろう。
 召喚する相手の中には、決まった時間にしか応じない者もいるが、今日はフリータイムの相手を召喚することにした。
 他にすることは、召喚に前に身体を清めたり、集中力を高めるなにかをしたりするが、ぶっちゃけルーファスはめんどくさかったので省いた。
 その代わり、『お清めは体の中から♪』が謳い文句の、清涼飲料(聖水風味)を1瓶開けてガブ飲みした。ちなみにテレビ通販で1ケース12本入りを購入したらしい。
 ルーファスはお香に火をつけた。前回の追試ではこのお香で躓いた。使ったお香が身体に合わなかったらしく、くしゃみをしてしまったのだ。今日はちゃんと選んだから万全だ。
 魔導書を開いて呪文を唱えはじめる。そして、右手に持つ棒のようなものを翳した。
 一字一句間違わず、詠むのが下手か上手いかではなく、気合が重要!
 人生気合でなんとかなるものだ。
 最後の1行を読む前に、ルーファスは大きく息を吸い込んだ。
「出でよ、契約の名のもとに!(完璧だ!)」
 これほど自分自身でも『決まった!』というような、そんな清々しい召喚ははじめてだった。
 なのに……様子が可笑しい。
 スモークに写るシルエットが怪しい。
 体の割りに頭がデカイシルエット……ま、まさかアフロヘアーのトイレのベンジョンソンさん!?
 ――ではなかった。
 防御用の魔法陣を超えてルーファスに襲い掛かる触手!
 ヌメヌメ、ツルツル、グチョグチョだ!
「ぎゃぁぁぁっ!」
 叫び声をあげるルーファス。
 ルーファスは持っていたクリスナイフで触手を振り払おうとしたのだが……。
「持ってたのクリスナイフじゃないし、フライ返しだし!」
 必死に触手をかわしたルーファスが次に見た物は?
「よく見たら聖布だと思ったの僕のパジャマだし!」
 おまけに……。
「お香が蚊取り線香に替わってるし!!」
 怪奇現象だ。
 ルーファスは見てしまった。
 1階に続く階段の影から、こちらを見るビビの姿を。ホラーだ。
 召喚用の魔導具をビビが全部コッソリ取り替えていたのだ。
「なんてことをしてくれたんだビビ!」
「だって遊んでくれないんだもん」
 なんて短絡的な犯行。無邪気でお茶目じゃ済まされないぞ!
 タコみたいな触手が部屋中をウネウネする。
 必死なルーファスは筋肉痛も忘却して逃げる。ビビを抱きかかえて1階まで逃げた。
 すぐ真後ろからは触手の先端が迫っている。足首をつかまれルーファスがコケたっ!!
 抱かれていたビビが宙を飛ぶ。
 転んだルーファスは積んでいた魔導書にダイブ!
 本の山の中から引きずり出されるルーファス。もちろんルーファスを釣り上げたのはルアーじゃなくて、謎の触手。
 ビビは異空間から大鎌を召喚した。
「ルーちゃん!」
 ルーファスを助けようとビビが大鎌を大きく振り上げた。
 だが……大鎌は見事に天井に刺さった!!
「ぬ、抜けないよぉ」
 ビビは大鎌を抜こうと力を入れるが、まったく抜ける様子がない。
 その間もルーファスは床を引きずられている。必死に床でクロールをして抵抗するルーファス。
 ビビの目にマグカップが目に入った。
 次の瞬間、ビビはマグカップを全力投球していた。
 豪速でぶっ飛ぶマグカップは見事命中……ルーファスに。
「ぐわっ!」
 鼻血ブー!
 奇跡が起きた。
 鼻血を浴びた触手がルーファスを解放して、逃げるように引き下がって行ったのだ。
 やっぱり誰でも鼻血なんて浴びたくない!
 万国共通なのだろう。
 取っ手の取れたマグカップを見てルーファスが叫ぶ。
「僕の大事なマグカップが!!(母さんが魔導幼稚園に入園したときに買ってくれたものなのに!)」
 10年以上前から愛用していた、年期の入ったマグカップだった。
 ビビは大鎌を抜くのを諦めてルーファスの腕を引っ張った。
「早く!」
「ぼくの……マグカップが……」
「マグカップくらいアタシがプレゼントしてあげるから、早く逃げよ!」
「……マグカップ」
「ルーちゃんのばかっ、早く逃げるよ」
 強引にビビはルーファスを家の外まで引っ張り出した。
 家の外はものスッゴイ平和だった。小鳥の鳴き声すら聴こえてくる。
 近隣の住人たちは今そこに迫る危機を知る由もなかった。
 玄関をブチ破って触手が外の出ようとしている。
 ビビはルーファスの袖に抱きついた。
「ルーちゃん……」
「いったいなにが……(僕はなにを召喚してしまったんだ?)」
 ついに怪物はその全容を現そうとしていた。
 な、ななななんと!
 現れたのは……。
「タコだね」
 ビビが呟いた。
 それに対してルーファスは、
「いや、イカでしょ?」
 と反論した。
 見た目も色もタコに近い。けれど、脚の数が数え切れない。そして、長い触手に騙されるところだったが、背丈はルーファスと同じくらいしかない。
 しかし、侮ることなかれ!
 脚の長さは伸縮自在、吸盤つきで高性能?
 謎の怪物の出現に、近隣の住人たちも気付きはじめたが、みんな家の中に閉じこもって見なかったことにした。カーテンまで閉めてしまっているが、ちゃっかりカーテンの隙間から外の様子を窺っている。
 謎の怪物が触手をクネクネさせている。
『我々ハ、うちゅうじんダ』
「我々って1匹だけじゃん!」
 ナイスなビビのツッコミ。
 いや、そんなところにツッコミを入れる前に、もっといろいろあるような気が……。
 ルーファスは真剣な顔をして、額から冷や汗を流した。
「いったいあの怪物……の名前は?」
 怪物がどこから来てどのような存在なのか、そんなことを差し置いて、ルーファスにとっては名前のほうが重要だった。
 そして、ルーファスは命名する。
「よし、奴の名前はイカタコだ!」
「え〜っ、タッコーンがいいよぉ(ルーちゃんセンスな〜い)」
「ならイカンタコがいいよ(真っ赤な感じが、怒ってる感じでイカンみたいな)」
「じゃあ、イカタッコン星人でいいじゃん?」
「よし、それで決まりだ。奴は今日からイカタッコン星人だ!」
 勝手に命名された。しかもビミューなネーミング。
 そんなどーでもいいような、どーでもよくないような、意外に重要な話をしている最中に、魔の触手はすぐ足元まで迫っていた。
「きゃっ!」
 短く叫んだビビの身体が浮いた。その足首に巻きつく触手。ビビはそのまま逆さ釣りにされてしまった。
「頭に血がのぼるよぉ〜」
 逆さ釣りにされたことによって、顔がむくんでしまう。これが長時間続くととっても危険だ!
「大丈夫ビビ!」
 真剣な顔をするルーファスの鼻から……赤い液体が……鼻血だ!
 ついさっき流した鼻血が、なんらかの原因でぶり返したのだ。
 なんらかの原因とは……?