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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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 カーシャは多くの歴史を見てきた。時代は流れ、世界の中心は変わっても、争いのない時代はなかった。いつの世も血を血で洗い流す戦いが繰り広げられている。
 4本目の空き瓶をカーシャは投げつけた。それに当たって倒れるヴィーング。親玉を倒してもまだヴィーングは沸いて出る。
 ヴィーングは船にいるだけではなかった。近くのアジトから、続々とヴィーングが船に乗り込んでくる。
 フェリシアだけに任せていたら日が暮れる。再びカーシャが戦闘態勢に入ろうと動いたとき、頭上から矢が降ってきた。
 すぐにカーシャは崖を見上げた。
 降り注ぐ矢の雨。それはカーシャたちを狙ったものではなかった。
 ヴィーングたちが次々と矢に倒れていく。
「新手?」
 呟くカーシャ。
 崖の上から大きな声が聞こえる。
「その船は俺たちカーラック武装船団が貰う!」
 新手のヴィーングたちだった。
 どこに隠れていたのか、新手のヴィーングたちが次々と現れ、そこら中で戦いがはじまってしまった。
 カーシャはヴィーングをホウキで殴り飛ばしながら、フェリシアのもとに駆け寄った。
「なんかめんどくさいことになったわね」
「敵の数が増えただけだ」
 フェリシアは淡々と言った。
 情勢はカーラック武装船団が優勢。制圧は時間の問題だろう。
 カーラック武装船団のヴィーングは船の上にまで攻め込んできていた。
 立派な角の生えた兜かかぶったヴィーングがカーシャたちの前に立った。その目はカーシャよりもフェリシアを見ている。
「まさかこんなところでランバードの皇女に会えるとは!」
「俺がランバードの皇女だってよくわかったな」
「お前を誘拐する計画があったんだが、どうやら失敗したらしくってな。ここで会えたのは幸運だったぜ」
「まさか……あいつらの仲間か?
 フェリシアは自分を誘拐したヴィーングたちのことを思い出していた。
 話を聞いていたカーシャは笑っていた。
「……連帯責任じゃボケども」
 その言葉を理解できたのはマーブルだけだった。ちなみにマーブルはカーシャのフードに隠れている。
「まだ根に持っていたのかにゃ」
 はじまりはワインの空き瓶だった。それがいつの間にかこんな展開になっていたのだ。
 蒼いマナフレアがカーシャの周りを飛び交う。
 危険を感じたマーブルが叫ぶ。
「フェリシアちゃん伏せるにゃ!」
 なんで伏せなきゃいけないかは肌が感じていた。危険な空気が辺りに立ちこめている。
 カーシャは円を描くようにホウキを振り回した。
 極寒の北風が吹き荒れた。
 凍える空気、止まる刻、死せる心臓の鼓動。
 ヴィーングたちが一瞬にして凍りづけにされ、ヒビが入って砕け散った。
 カーシャはホウキにまたがり、フェリシアの腕を掴んで強引にホウキに乗せた。
「作戦変更よ。もうこんな船なんかいらないわ」
 フェリシアを乗せてカーシャのホウキが上空高く舞い上がった。
 崖の上から放たれる矢の雨。
 カーシャは冷たい吐息を吐いた。
 飛んできた矢が凍り付いて砕け散る。吐息で船を沈めたというのは、あながちウソではないかもしれない。
 さらに吐息は崖に上にいた弓使いを凍りづけにした。
 巨大な船の上ではヴィーングたちが争いを続けている。
 その戦いにカーシャは終止符を打とうとしていた。
「神々の母にして我が母ウラクァよ、その冷徹なる心に吹雪く極寒の風……」
 それは古代魔導ライラの詠唱だった。
 ?アイーダ海の白い悪魔?のライラ――その威力の壮絶さは見なくとも予想できた。
 しかし、そのことよりもフェリシアの心に抱かれたのは……。
「(我が母……まさか?アイーダ海の白い悪魔?は女神の……)」
 神々の母にして、氷の女神ウラクァ。
 長い詩を読み終えたカーシャが高らかに唱える。
「ウーラティカアイス!」
 巨大な氷の塊が隕石のように次々と降り注ぐ。
 氷塊は船を壊すだけでなく、海面に落ちて上がった飛沫をも凍らせ、辺りを一瞬にして銀世界へと変貌させた。
 破壊された巨大船は沈むことなく、凍った海に閉じこめられた。
 涼しい顔しているカーシャ。これで実力を出し切ったとは思えない。
 フェリシアは?悪魔?の意味を知った。
「(国を滅ぼすどころじゃない。この力があれば世界だって滅ぼすことができる。これじゃまるで破壊神だ)」
 地上から生が消えた。まるでそこは死の大地と呼ばれるウーラティア大陸のようだ。
 カーシャは崖の上に降り立った。
 降ろされたフェリシアは強ばった表情で地面にあぐらをかいた。
 そんなフェリシアにワインを勧めるカーシャ。5本目を隠し持っていたのだ。いったいどこに?
「戦いのあとにはワインに限るわよね。アンタも飲むでしょ?」
「未成年にアルコールを勧めちゃダメだにゃ」
 すかさずマーブルのツッコミ。
「別にいいじゃない、誰も見てないし」
 ここにいるのは3人と1匹、それと凍りづけにされている弓使いたちだけのハズだった。
 その気配に気づいたときには、カーシャの首に短剣が突きつけられていた。
「動くな?アイーダ海の白い悪魔?」
 静かで淡々とした声。
 辺りは黒装束の部隊によっていつの間にか囲まれていた。
 フェリシアが声をあげた。
「ランバードの忍者部隊かっ!」
 黒装束の男がフェリシアの前に膝をついた。
「ご無事でなによりですフェリシア皇女。皇女を誘拐したあの女は我が部隊の手中です」
 それを首に短剣を突きつけられたカーシャのことをだった。
「違う、彼女は俺を……」
 誤解を解こうとフェリシアがしゃべろうとするが、途中でカーシャが口を挟んで最後まで言わせなかった。
「まっ、世の中こんなもんよね」
 疾風のような素早さでカーシャは自分の真後ろにした男の脇腹に肘を入れ、首から短剣が離された隙をついて崖から飛び降りた。
 フェリシアが声をあげる。
「あっ!」
 次の瞬間、ホウキに跨ったカーシャが崖の下から現れた。
「さよなら皇女様、今日は楽しかったわ」
 軽やかに手を振ってカーシャは広い海の向こうに消えた。
 こうして?アイーダ海の白い悪魔?の悪行のひとつに、ランバード皇女誘拐が付け加えられたのだった。
 歴史は真実を語るものではない。
 ちなみにマーブルは崖の上に残され、忍者部隊に囲まれながら人形フリでやり過ごしたのだった。

 おわり