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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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外伝_アイーダ海の白い悪魔3


 巨大船の前に回り込み、相手側もカーシャたちの姿に気づいて甲板に出てきた。
 ヴィーングたちを前にしてカーシャは言葉を風に乗せた。その言葉はまるで拡声器を使ったように響く。
「今からその船はアタイのもんよ、さっさと武器を捨てて降伏なさい!」
 いきなりの宣戦布告だった。
 ヴィーングたちがざわめきたち、声がいくつも上がった。
「?アイーダ海の白い魔女?だ!」
 その声を合図にヴィーングたちは戦闘体制を整えた。
 積まれていた全ての魔弾砲の照準がカーシャたちに向けられる。到底避けきれる数ではなかった。
 だが、その程度のことで臆していては?悪魔?などと呼ばれるハズもない。
「魔弾砲ごときでアタイに敵うと思ってるの?」
 その吐息だけで船を沈めるとまで云われる?アイーダ海の白い悪魔?。
 生きた伝説をフェリシアは目の当たりにすることになった。
 魔弾砲から高エネルギーは発射され、一直線にカーシャたちに向かってきた。
 突き出されたカーシャの手のひらに蒼いマナフレアが集まる。
 巨大なエネルギーがカーシャたちを呑み込もうとしていた。
 猛烈な風が吹き、銀髪がなびき、氷の結晶が大気に舞う。
 魔弾砲を吸収するカーシャの手のひら、次の瞬間!
「アイシングミスト!」
 ダイアモンドダスト状の氷の結晶が、烈風に乗って巨大な船を呑み込んだ。
 吸収した魔弾砲のエネルギーを増幅させて撃ち放ったのだ。
 アイシングミストは甲板にいたヴィーングたちを全員凍りづけにしてしまった。
 その威力を目の当たりにしてフェリシアは息を呑んだ。
「(この力があればたった独りで国を滅ぼすことも……)?アイーダ海の白い悪魔?……貴女はいったい何者なんだ?」
 その問いにカーシャは不気味に微笑むだけで答えなかった。
 代わりに答えたのはマーブルだった。
「何千年も生きてる婆さんだにゃ」
 その言葉を聞いてカーシャの目がキラーン!
「あぁン、なんつった? アタイがババアだって? くたばりやがれ欠陥魔導生物がっ!」
 カーシャはマーブルの首根っこを掴んで、そのまま全力で投球!
 この日、マーブルは夜空のお星様になったのでした。
 さよならマーブル!
 マーブルがぶっ飛び、換わりに魔弾砲がぶっ飛んできた。
 ついに全勢力仕掛けてきたヴィーング。
 すべての魔弾砲がいっせいにカーシャに向けて撃たれた。
 カーシャはホウキを走らせた。
 魔弾の雨を躱しつつ、カーシャはそのマナエネルギーを吸収していた。
 魔導を放つために必要なマナを供給する方法は、自らのエネルギーを使うか、自然などの他からエネルギーを借りるか、カーシャは強大な魔弾砲のエネルギーを我がものにしていた。
 カーシャは船の先端に降り立った。この場所に立っていれば魔弾砲を使うこともできない。
「この船は壊さないであげる。だってアタイのもんだから」
 ホウキを構えるカーシャ。
 船底から次々から出てきたヴィーングたちが武器を構える。
 カーシャたちの背中には海が広がっている。目の前には大勢のヴィーングども。まるで追い詰められたようだ。
 しかし、カーシャの顔に恐れも焦りもない。
 巨大な船を沈めることなどカーシャにとって造作もないことだった。けれど、目的は船の制圧。
 カーシャは肉弾戦を仕掛けた。
 大剣や大斧で向かってくる敵にカーシャはホウキ一本で受けて立つ。
 重く鋭い刃が振り下ろされる。それを受け止めたのは見た目にはただの木の棒だった。
 剣を受け止められたヴィーングは驚きを隠せない。たがか細い木の棒で剣を受け止められるハズがない。
 カーシャは笑う。
「ただのホウキじゃないのよ。この世でもっとも硬度が高く、魔導にも優れたウーラティアに生える樹齢1万年以上の大木から作ったものなの」
 カーシャが力を込めると、剣が折れて刃が宙に飛んだ。
 ホウキを武器にして次々とヴィーングたちを倒していくカーシャ。その戦闘力は魔導だけでなく、肉弾戦にも優れていたのだ。
 気絶させられて海に投げ込まれるヴィーングたち。
 ヴィーングの束を相手にするカーシャの目に映るフェリシアの姿。ヴィーングたちがフェリシアに襲いかかろうとしていた。
「逃げろフェリシア!」
 カーシャの心配は無用だった。
 少女とは思えない俊敏な動きでフェリシアは敵の攻撃を躱し、殴り倒した男から剣を奪って構えた。
 剣を持ったフェリシアは実に生き生きしていた。
 華麗な剣の舞で次々と大の男を倒していく。
 カーシャはそのフェリシアの姿を見ながら思い出していた。
「(ランバードは剣術が優れていたんだったわ)」
 聖戦で七英雄のひとりとして戦ったフェリシアの先祖は、聖剣を振るい大魔王と戦った。それ以来、ランバードは剣術を主戦力に置いて技術を磨き、魔導隊にも劣らない騎士団を保有する剣術の国として知られるようになった。
 いつの間にかフェリシアは独りでヴィーングの相手をしていた。
 もう手を貸すこともないと、カーシャは船の縁に寄りかかってワインを瓶のまま飲んでいた。
「女にしておくにはもったいない剣の腕。さすがは七英雄の末裔ってとこね」
 一気に飲み干した空き瓶をカーシャは勢いよく投げた。
 飛んでいった瓶はフェリシアの背後に迫っていた男の頭部にヒットして、そのまま男は気を失って倒れてしまった。
 礼を言うようにフェリシアはカーシャに向かって微笑んだ。
 微笑まれたカーシャは『そんなんじゃないわよ』って感じでそっぽを向いた。
 カーシャのアイシングミストで倒した敵と、船に降りてから倒した敵、もうほとんどのヴィーングがたった二人によって倒されていた。
 そして、ついにヴィーングの親玉が姿を見せた。
 フェリシアの3倍はありそうな巨大な影。超巨大な斧を持って襲いかかってきた。
 そんな光景を他人事のように観戦するカーシャ。2本目のワインを開けていた。
 カーシャは横にいたずぶ濡れの人形に訊いた。
「アタイはフェリシアが勝つ方に金貨十枚賭けるけど、アンタいくら賭ける?」
「賭なんかしてないで助けてあげるにゃー」
 そこに立っていたのは海の底から生還したマーブルだった。海水吸って塩味になっている。
 カーシャは3本目のワインを開けた。
「大丈夫よ、あの子強いもの」
 フェリシアの実力は山積みにされたヴィーングを見ればわかる。
 超巨大な斧の攻撃を剣で受けることは難しいだろう。優れた剣術を持っていても、少女のフェリシアには筋力の限界がある。フェリシアの武器は軽やかな瞬発力。
 床板を蹴り上げフェリシアは剣を振り上げた。
 斧の刃がフェリシアの胸をかすめた。
 だが、フェリシアのほうが早い。
 刃が振り下ろされ、巨大な胸板が血を噴いた。
 攻撃の手を休めずにフェリシアは切っ先を敵の心臓に突き刺した。
 巨大な身体が音を立てて倒れた。
 フェリシアの持つ剣は肉から引き抜かれ、鮮血を滴らせていた。
 カーシャの蒼眼は立ちつくしているフェリシアだけを映していた。
「……少女が血みどろの戦いをするなんてイヤな時代だわ」
 それが?アイーダ海の白い悪魔?の発した言葉なのか?