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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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 フェリシアがヒモを引き上げてあげようとしたのだが、その手は途中で止まってひゅるひゅるぅっと指の間をヒモが抜けてしまった。
「うっ!」
 ヒモがガクンと伸びきった瞬間にマーブルはダメージを受けた。
 そんなマーブルは放置でフェリシアは海上に浮かぶ小型のガレー船を見ていた。
「どこの船だろう?」
 その声に反応してカーシャもその船を見た。
「ヴィーングたちね。あいつらの服をもらう?(臭そうだけど)」
「臭そうだからイヤだ」
 キッパリ断った。
 するとカーシャが手にマナを溜めはじめた。
「なにをする気?」
 フェリシアが訊くとカーシャはニヤリと笑った。
「こうするのよ」
 ホウキのスピードが急速に上がり、振り落とされないようにフェリシアはカーシャの腰に腕を絡めた。
 そして、ガレー船とホウキとの距離が10メティート(約12メートル)を切ったとき、カーシャの手から氷の塊が放たれた。
 高速で飛ぶ凍氷の塊はその大きさを拡大していき、船の目と鼻の先に到達したときには、その大きさを3メティート(3・6メートル)ほどになっていた。
 氷の塊の直撃を受けた船は折れるようにVの字に曲がり、大きな水しぶきを上げながら海に沈んだ。
「よっしゃー!」
 満足そうにガッツポーズをするカーシャ。
 真後ろにいるフェリシアは目を剥いていた。
「呪文も唱えないであんな魔導を使えるなんて……(悪魔の所業だ)」
 魔導の基礎となったのがライラと呼ばれる別名?神の詩?である。その名の通り、詩を詠むことによって力を発動するタイプの魔導であり、詠めば詠むほど強くなると言う特性を持つ。
 しかし、呪文の詠唱に時間がかかるなどの理由から、簡略化されたレイラとアイラが主流となり、ライラは古代魔導としてその使い手の数が減少している。
 レイラの発動には呪文を唱えることが必要であり、つまり呪文の名前を言霊に乗せることにより発動する。
 そして、レイラの時代から存在し、今でも一般的に使われている魔導の中には、言葉を一言も発せずに使えるものが存在する。ランプに火を付けるなどの作業などに向いているが、威力はとても小さなもので戦いには不向きとされている。
 ゲームのノリで船を沈めたカーシャは、とっくに船のことを忘れてホウキを走らせた。
 ちなみにマーブルは自力でヒモを登って、フェリシアの背中を掴んでちょこんとホウキに座っている。
 ホウキはどこに行くでもなく走り、沿岸の崖を大きく曲がった。
 カーシャが嬉しそうに微笑む。
「巨大な船はっけーん♪」
 崖を陰にして隠れていた巨大な船。戦争に使われるような巨大なガレー船で、おそらく乗員は200名以上。
 フェリシアが尋ねる。
「なぜあんな場所に隠れているんだ?」
 隠れる理由がある。隠れる必要がある。隠れるということは、敵対するモノがいるということだ。
 カーシャの瞳がなにかを発見した。
「魔弾砲を積んでるわね。これで商船じゃないってことははっきりしたわね」
 戦争において主戦力となる魔導士。古くから魔導士を駒にした戦いは、遠距離戦が主流で、その戦力を魔導の使えぬ者も使うことができないか、その研究の中で開発されたのが魔弾砲である。
 魔弾砲には天然のマナ結晶が埋め込まれ、充填したマナエネルギーを放出する。人間が意識的に操っているのではないため、エネルギーの充填は自然に任せなければならない。そのため、いざというときに撃てないというデメリットも抱えている。
 さらにカーシャは巨大船の観察を続けた。
「どうやらヴィーングのようね」
「よく見えるな」
 フェリシアは目を細めるが、乗組員は米粒のようにしか見えない。
 相手に気づかれないようにかなり遠くの空から監視している。向こうからこちらは空を飛ぶ鳥程度にしか見えないはずだ。
 巨大な船、魔弾砲、ヴィーング。その点が線で結ばれた先にあるもの。
「あの船でどこに攻める気かしら?」
 大きな戦乱を予感してカーシャの血が騒ぐ。
 ヴィーングと敵対するのはランバード。
 フェリシアは少女とは思えない大人びた重い表情をした。
「ランバード領に攻める気なら、どうにか食い止めなきゃいけない」
「食い止めるってアンタになにができるの?」
「この事態を父上に知らせるのが先決だ」
「どうやって?」
「どうやってって……」
「アタイはイヤよ。アンタを送り届ける気はまったくないから。さっきだってなんか勘違いされたんだから」
 こんな場所で独りにされてもフェリシアには何もできない。頼みの綱はカーシャだけだった。
「頼む、送り届けてくれるだけでいいんだ。もしも戦いがはじまってしまったら、また多くの人が傷つくことになるんだ」
「別に他人がどうなろうとアタイには関係ないわ」
「……わかった」
 フェリシアはうつむき、言葉を続けた。
「あの船に降ろしてくれるだけでいい、俺ひとりで戦う」
「あはは、イイ根性してるわね(そーゆーの好きよ)。でも、武器も持たないでどうやって戦う気?」
「武器は奴らから奪えばいい」
 澄んだ瞳でフェリシアはカーシャを見つめていた。心の強さが瞳の奥に見える。
 マーブルが口を挟む。
「助けてあげればいいにゃー。カーシャだって本当は戦いたくて仕方ないにゃ?」
 カーシャはニヤリと笑った。
「誰が戦わないって言った? 送り届けるのはイヤだと言っただけよ。ヴィーング狩りはアタイのライフワークだもの」
 その言葉を聞いてフェリシアは目を輝かせた。
「ありがとう、心から礼を言う」
「別に誰かのために戦うわけじゃないわ。ただの趣味よ、趣味」
 しかし、2人だけで巨大な船と立ち向かえるのか?
「おいらもがんばるにゃー!」
 2人と1匹だった。