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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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 この叫びじゃ避けれなかった。
 見事にルーファスの魔導衣を抜けたツララ。けれど幸運なことに、ツララはわきの下の布が余った部分を抜けて行った。
「殺す気かー!!」
 普段弱気のルーファスがマジでキレた。
「安心しろ、脚を狙ってる(寝起きでどこに飛ぶか知らんがな)」
 安心できないし!
「脚でも当たったら痛いだろバカじゃないの!」
「妾を前にしてバカとなんだ!(親父にはバカって言われたことないのに! 妾に親父はいないがな……ふふ)」
「バカだからバカって言っただけじゃないかバカ!」
「バカバカと、貴様は知らぬようだか妾はこの辺り一帯では恐れられていた氷の魔女王なのだぞ!」
「そんなの知らないよバーカ!」
「おのれ小僧!(あ〜んなことやこ〜んなことをして、コテンパンにしてくれる)」
 急激にカーシャの周りにマナが集まりはじめた。それは目にも見えるマナフレアと呼ばれるエネルギーだった。
 通常のマナはこの世の全てに宿っていると言われるが、目で見ることはできず感じることしかできない。けれど、マナの力が多く集まることよって、目に見えるまえの大きさになったものをマナフレアというのだ。
 カーシャの周りに集まっていたのは蒼いマナフレアだった。
 マナフレアの色によって、だいたいのマナ属性が判別できる。蒼いマナはおそらく水か氷系のマナだ。たぶん自称氷の魔女王と言っていたので、氷のマナだと思われる。
 グラーシュ山脈は極寒の雪山。氷属性の魔導を使うにはもってこいだ。
 集まるマナに合わせてカーシャが詩を唱える。
「ライララライラ、神々の母にして氷の女王ウラクァよ……」
「うはっ、ライラ!?」
 ライラとは古代魔導の総称だ。
 今ある魔導はライラから派生し簡略したものだ。それはレイラ・アイラ・マイラと分かれ、呪文の名を唱えれば簡単に使える。もっと簡略化されたものは、なにも唱えなくても使えるものもある。
 が、派生した魔導はライラに比べて質が落ちる。つまり威力が落ちる。
 ライラこそ真の魔導。別名を〈神の詩〉と呼ばれている。
 しかも!
 ライラは詩を詠めば読むほど、完全な詩を詠めばそれだけ威力が増す。
 例えば『ライララライラ、(呪文の名前)!』よりも、『ライララライラ、なんたらかんたら(呪文の名前)!』のほうが強い。
 でも、そんな完全な詩を詠める者は、この世界に一握りしか残っていない。
 そんな1人がルーファスの目の前にした。
「……魂をも凍れる息吹……」
 まだカーシャは詩を謳っていた。
 魔導マニアがいたらこの瞬間に大喜びだ。
 でも、ルーファスは魔導マニアじゃなかった。
 滅多に見れない魔導なんかよりも、命のほうが断然大事だ。
 逃げろルーファス!
 逃げたルーファス!
 が、遅かった。
「ホワイトブレス!」
 ホワイトブレスは簡略化されたレイラにもあるが、そんなもの比べもにならない威力だった。
 ハリケーンのように猛烈な吹雪がカーシャの両手から放たれる。
 が、ここでカーシャがボソッと。
「……しまった(力が出ないせいで操りきれん)」
 自ら放った魔導の圧力に押され、カーシャはバランスを崩した。
 そして、手まで滑った。
 グォォォォゴゴォォゴオッゴゴゴゴゴォッ!!
 吹雪は天井を吹き飛ばし、上のフロアを突き抜けて空の彼方に消えた。
 この日、どっかの観測台では、地上から天に昇る☆彡が観測されたらしい。
 天井から崩れ落ちた細かい破片を浴びながら、ルーファスは腰が抜けて地面に這いつくばったままだった。
 服を着たまま水に飛び込んだみたいに汗がぐっしょり。
 天井から吹き込む本物の吹雪が汗を掻いた身体を凍らす。
 シャレにならない巨大な穴が天井には開いていた。開いていたというか、10メートル以上吹っ飛んでる。けっこう大きな部屋だが、その部屋の天井のほとんどをふっ飛ばしていた。
 カーシャが完全な力だったら、もしかして城ごと吹っ飛ばせるかもしれない。
 そんなカーシャはまだまだヤル気満々だった。
「次は外さんから安心しろ」
 ここでなんか言い返してやりたかったが、もうルーファスは顎まで外れてチビりそうだった。
 起こしてはいけない魔女を起こしてしまった。
 まあ、後悔先に立たずだけどね!
 カーシャの周りに再びマナフレアが集まる。天井が抜けたことによって、さっきよりもマナが集まっているような気がする。
「ライララライラ……」
 再び謳われる〈神の詩〉。
 ルーファスは逃げたかったが、逃げようにも腰まで抜けていた。
 てゆーか、なんかもう逃げても逃げ切れる自信がない。
 てゆーか、捕まえる趣旨を忘れてませんかカーシャさーん!!
「ホワイトブレス!」
 先ほどよりも強大な、地上にあるもの全てを凍らすような吹雪。
 ここでカーシャがボソッと。
「やっぱりムリだ」
 ならやるなよ!
 アフォかッ!
 抑えきれない圧力に耐えかね、根負けしたカーシャは床に向けてホワイトブレスを放った。
 グァォォォォガガッゴゴゴゴォォォォォォン!!
 巨大な邪龍が吼えるような雄叫び。
 床は衝撃で大爆発して、城全体が大地震に見舞われたように揺れた。
 砕けた壁や床が散乱して空から降り注ぐ、そして煙が辺りから視界を奪った。
 揺れている最中、ルーファスはまったく動けなかった。目すら開けれなかった。
 揺れはどうにか治まったようだが、震えでルーファスの身体はまだブルブル揺れていた。
「……ワタシ生キテマスカ?」
 カタコトで自問。
 城が大きく揺れた。揺れは治まったハズなのに、これはヤバイ兆しかもしれない。
 ルーファスは立ち上がろうとしたが、足は床についていなかった。足の先からずーっと先まで床が消失していた。
 また城が大きく揺れた。その反動でルーファスは開いた床に落ちてしまった。
 最初のフロアを落ち、次のフロアも落ちて、地下室のフロアから、ないはずのそのまた下に落ちそうになった。
 ここでルーファスはガシッと壁を掴んだ。
 どうにか踏ん張って地下室のフロアに這い上がった。そこから下を覗くと、巨大な穴がずーっと下まで、黒い口を開いているではないか。
 ホワイトブレスに当たっても死んでたし、ここから落ちてても死んでたし、どーにか生き延びたようだ。
 辺りを見回したがカーシャの姿はなかった。
 きっと自分の放った魔導に巻き込まれて……。
 そのとき、何者かがルーファスの足首を掴んだ。
「ふふふっ……捕まえたぞ」
 ルーファスの足を掴んでいたのは、床で半分以上溶けてしまっているカーシャだった。
具現化していた服はなくなり、下半身はもうすでになくなっている。ルーファスの手を掴んでいる手も、すでにドロドロだった。
 痛ましい姿を見てルーファスは心痛んだ。
 でも、もしかして逃げるチャンス?
 相手が弱っている今なら余裕に逃げられるかもしれない。
 ルーファスの足首を掴んでいた手が完全に溶けた。
 そんなカーシャを目の前にして、ルーファスが後ろを向いて逃げられるはずがなかった。
「ごめん……僕のせいで……」
 ルーファスはカーシャの上半身を抱きかかえ、自らカーシャの唇に唇を重ねた。