魔導士ルーファス(1)
凍える記憶4
煙の中で焦るルーファス。
「なんか不味いことしちゃったぁ?!」
慌てて伸ばした手が、なにかに触れた。
ふにふにするゼリーのような感触。
白い煙の中でルーファスは目を凝らした。
その手が触れていたのは女性の胸――じゃなくて、もっとズボッとめり込んでいた。胸を触っていることにはかわりないが、まるでゼリーに手を突っ込んだように、手が埋没しているのだ。
「ぎゃー!(な、なんで手が!?)」
すぐに手を抜こうとしたが抜けない。それどころかルーファスの手に流れ込んで来る強烈なマナ。
女性のマナがルーファスの手を通して流れ込んでくる。
突然、女性が蒼い眼をカッと見開いた。
そして、驚いた顔をしてルーファスの襟首に掴みかかった。
「貴様、なにをしておるのだ!!」
貴方様の胸に手を突っ込んでます。
「あ、あの、その手が抜けないんですけど……?」
「妾の寝込みを襲うとは許せんぞ!」
「ご、ごめんなさい。悪気があったわけじゃないんだけど、そのなんていうか」
不可抗力!!
「とにかく妾の胸から手を……手を……」
急に女性の顔から生気が失われはじめた。ルーファスに体内マナを吸われ、急激に衰弱しているのだ。
慌ててルーファスは手を抜こうと頑張った。
「ごめんなさい今抜きますから!」
力を込めるとズボッと手が抜けて、ルーファスは反動で尻餅をついた。
しかし、女性の衰弱は収まらない。
柩から這い降りた女性の下半身は、ドロドロに溶けはじめていた。
「妾のマナ……返して……もらうぞ!」
ルーファスに襲い掛かる――全裸の女性!
鼻血ブー!
ルーファスの鼻血が女性にかかり、ドロドロの身体に混ざり合ってしまった。
「妾の身体に……不純物が……(ダメだ……余計に力が出ん)」
女性はそのまま倒れこむようにルーファスと重なった。
そして、ブチュ〜っとキッス!
ルーファスと女性の唇が重なった。
急激にルーファスの身体から体内マナが吸われていく。女性は口移してマナを取り戻そうとしているのだ。
しかし、女性は途中で口を離した。
「ダメだ……接吻だけでは完全ではない」
それでも多少は取り戻したようで、ドロドロだった身体は固形化していた。しかし、鋭く力の宿っていた瞳は、蒼から黒に色あせていた。
キスをされたルーファスは放心状態。
免疫ゼロ!
放心しているルーファスの頬を女性が引っぱたいた。
「おい、目を覚まさんか!」
「うっ!(クリティカル)。覚ましましたから、もう手とか構えないでください」
女性の手は2発目を構えていた。
「うむ、目を覚ましたならよかろう。さて、妾の裸を見た代金を払ってもらおうか、接吻はサービスだ」
「はぁ?」
「ウソだ(ふふ……久しぶりに人をからかった)」
「あのぉ、とにかく服を着てもらえませんか?」
「ダメだ」
「はぁ!?」
ルーファスの目はいろんなところを行ったり来たり。目のやり場に困る。なのに相手は服を着ることを拒否。
なぜ?
「貴様が妾から奪ったマナを取り戻すため、今からセックスをする」
「はぁ?」
「聞こえんかったか? 今から妾は貴様とセックs(ry」
「あーあーあーあー!! 聞こえましたからそれ以上は言わなくていいですから!」
「なら話は早い。ヤルぞ」
「ちょ、待った!」
明らかにルーファスは腰が引けていた。
全裸の女性は巨乳を揺らしてルーファスに近づいてくる。
「なにを待てと言うのだ? 元はと言えば、貴様が妾の眠りを覚ましたのが悪いのだぞ?」
「あの、私たち知り合ったばかりですしー(そ、そんなボディで迫られても困るし)」
「妾の名前はカーシャだ。以上自己紹介終わり。これでいいな?」
「よくないし!」
声を張って抵抗。
「ならば仕方ない。妾の名前はカーシャ、この城の主だ。過去の大戦で敗北し、この柩で静養していた。おそらく100年……いや、1000年か、よくわからんが、貴様が妾の眠りを覚ますまで、妾は気持ちよく眠りに落ちていたのだ……わかる安眠を妨害された妾の気持ちが?」
「わかります、人に起こされると寝覚めが悪いですよねー」
「ならば、ヤルぞ?」
「だ、だからそれは……」
「まさか……童貞か!(童貞……ふふっ)」
「そ、そーゆーことじゃなくて、知り合ったばかりの女性とそういう関係を持つのは、従順なガイア聖教の信者としては……ダメかなぁって」
「うるさい、とにかく妾のマナを返してもらうぞ」
「ちょちょちょ、やっぱりダメですってば!」
ルーファス逃亡。
なんかこうなったら逃げるしかない。
「こら待て!(妾じゃ不満か! これでも肉体は人間でいうと20代そこらだぞ!)」
「待てません!」
必死に逃げるルーファス。なんか肉食獣に言われる草食動物。
カーシャは体内マナを服に変化させて身に纏った。マナを有形にする魔導はかなりの高等魔導だ。
逃げるルーファスは王の間改め女王の間までやって来て、赤絨毯の上をダッシュした。その先に待ち受けている巨大な扉。
押して開こうとしたが開かない。引いて開こうとしたが、やっぱり開かない。
「開けよ!」
ガン!
ルーファスは扉を蹴っ飛ばした。
「イッツァーッ!」
かなりの激痛がルーファスの足に走った。
骨折していた右足だ。
ここでルーファスは気付いた。
骨折していたハズの足が治ってる?
もしかしてカーシャのマナを吸ったときに治ったのか?
だとすると、本当に相手のマナをもらったことになるけど、返すに返せない。
今は逃げるしかない。
すぐそこまでカーシャが迫っていた。
「待たんか泥棒!」
「待てませんってば、エアプレッシャー!」
ルーファスの手から放たれた風の塊が扉を吹き飛ばした。
吹き飛ばしたルーファスは唖然。
いつもよりも術の威力が高い。
壊したドアから逃げようとしたルーファスは悪寒を感じた。そのまま瞬時の判断で床に這いつくばった。
潰れたカエルのように地面に伏したルーファスの上を、巨大なツララが飛んでいった。
「チッ……外したか(寝ている間に腕が鈍ったか)」
カーシャの放った攻撃魔導だった。
捕まえるというか、コロス気満々?
「私のこと殺す気ですか!!」
ビシッと立ち上がったルーファスにカーシャはアッサリと。
「そうだ。貴様が逃げるなら、殺して肉と血を喰らうだけだ」
「マジですかー!」
「ウソだ。ツララが刺さればとりあえず動けなくなるだろうと、なんとなく飛ばしてみた(死んだら死んだでそのときだな……ふふ)」
殺すのメインじゃなくて、ツララを刺して相手の動きを鈍らすのがメイン。
やることが大雑把すぎ!
カーシャはハッとした。
「貴様人間か! ならばあんなツララ刺さったら即死だな」
今さら気付くなよ!
「即死じゃすまないから!(絶対身体が吹っ飛ぶし)」
「ならば小さいのなら平気だな」
カーシャの手から放たれる標準サイズのツララ。
って、そーゆー問題じゃないから!
刺さり所が悪かったらやっぱり即死だし!
連続して放たれるツララを避ける。
まずは――。
「ワッ!」
の形をしてルーファスはツララをかわした。
「ワッ、イッ!」
次は『Y』の形でかわした。
「ギャ!」
作品名:魔導士ルーファス(1) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)