魔導士ルーファス(1)
眠い足取りでルーファスは壁に寄りかかった。その瞬間、回転扉がグルリン!
たまたま寄りかかった壁が回転扉になっていたのだ。
岩壁にカモフラージュされた扉の先は……真っ暗だった。
何も見えないくらい暗い。ただ、外に比べればだいぶ温かかった。
簡略魔導でルーファスは光の玉を出した。
一気に辺りが明るくなり、そこが通路だということがわかった。
人工的に作られた長方形の通路。壁は石造りで、規則正しく石が並べられている。
いったいこの先はどこに繋がっているのか?
ルーファスは先を進んだ。
しばらく進むと行き止まりに突き当たった。左右を見回すと、すぐにレバーを見つけ、ルーファスはレバーを引いた。
すると行き止まりだった壁が横に動き、眩い光が飛び込んできた。
天井で輝く煌びやかなシャンデリア。前方の床には赤絨毯の道がルーファスは出迎えた。
とてもだだっ広い部屋だ。
いったいここはどこなのか?
ルーファスはその部屋に足を踏み入れ、自分が出てきた場所が、玉座を動いた裏であったことを知る。
玉座の後ろにあった隠し通路。そこからルーファスは出てきたのだ。
王の間といったところだろうか?
となると、ここは城の中ということになる。
「いったい誰の城なんだろう?」
城の中はとても静かだった。
まるで誰もいないように静まり返っている。もしかしたら廃墟かもしれない。とも考えられるが、天井のシャンデリアは輝いている。少なくとも城にはエネルギーが供給されていることになる。
「すみません、誰かいませんかー!」
虚しく声が木霊しただけだった。
寂しい気分になりながらルーファスは城の散策をはじめた。
外での死に直結する寒さ問題は、どうにか城の中に入り解決されたが、次の問題は食料だった。
まだそんなにお腹はすいていないが、先のことを考えると今のうちに探したほうがいい。
それから暖を取る道具も探したほうがいいだろう。
外よりは寒くないといっても、暖房の効いてない冬場の廊下なみの寒さはある。これが夜になったら、かなりの寒さが予想される。一番寒い夜明け前は、凍死できるかもしれない。
毛布ならどこかにありそうだし、最悪布くらいならたくさんあるだろう。
そんなことよりも今は!
「誰かいませんかー!!」
かなり人恋しい。
温泉ツアーだと騙され、極寒の雪山でなにもしてないのにバツゲーム。他のクラスの生徒と争わないといけないし、雪崩には巻き込まれるし、仲間とはぐれて遭難するし、オオカミには襲われるし、右足骨折するし!
「食料あるといいなぁ」
ないと餓死するし!!
救助を呼ぶ黄色い卵も落としたので、いつになったら助けが来るのかわからない。そもそも、助けに来てくれるのか?
とにかく頂上に行けってルールは聞いたが、タイムアップなんかは聞いてない。終了時間を言い忘れただけなのか、それもそんなの最初からないのか。後者だったら死ねる。
ルーファスは知らないが、怪我人は出しても死者はまだ出ていない実習らしい。てゆか、死者が出た時点で翌年から中止だろう。
そーいえば、クラウス魔導学院に入学する際、大量の契約書やらなんやらにサインしたような気がする。その中に学院内や実習中に起きた怪我に関して、一切の責任賠償に応じないというものがあったような気がする。ただし、学院内や実習で怪我などをした場合、治療費を全額学院が出すとか、そんなのあったようなないような?
つまり、それが意味することは、クラウス魔導学院には怪我が付き物ということだ。
死なない程度の怪我ならなんでもあり?
「(そういえば……センパイがこんな噂話してくれたなぁ……行方不明者は死者にカウントされないって……あはは、笑えない)」
マジ笑えない。
このままルーファスが死と知れず死んでも、死亡者にはカウントされずに翌年もこの野外自習が行なわれることになる。
「なんてことあるわけないじゃんねー、噂だよねウワサ」
なんとしても生きて帰らなくちゃいけない。こんな場所でただの行方不明者にされてたまるもんか。
「すみません誰かいませんか!!」
ルーファスの声に気合入っていた。
でも、やっぱり返事はない。
王の間から奥へ進み、階段を上ると頑丈そうな扉がすぐに現れた。
扉には可愛らしい文字で『寝室だから入っちゃダメ♪』と書かれていた。王妃か王女の寝室だろうか?
どっちにしても、なんだかイタイ。
入るなと言われると、人間気になるもので、やっぱりルーファスも気になる。
入って中に誰もいなければ、女性の寝室に忍び込んだことがバレないし、中に人がいたらいたで万々歳だ。女王の寝込みを襲うとかそーゆーことでなくて、人がいたということにだ。
まあ、まだ夜でもないので寝てる可能性は低いが。
ドアノブに手をかけ、ちょっとノブを押したり引いたり捻ってみる。
「やっぱりね(鍵かかってるよね)」
でもダメ押しでガチャガチャっとノブを回すと――。
「あっ……(開いた)」
カギがぶっ壊れて扉が開いた。しかも、ノブも外れて壊れてしまった。
しまった賠償請求される!!
焦ったルーファスはノブを無理やり差し込み、それ以上ドアには触れないことにした。次に触った人が壊した人作戦だ。
たぶん誰にも見られていないので、きっとこの作戦はせいこうするハズだ。
「あーっ!!」
突然、ルーファスは声をあげた。
部屋の中心に置かれた台座に、ガラスでできた柩が置かれていた。
寝室になぜに柩?
「(そういえばヴァンパイアは柩で寝るんだっけ?)」
しかも、ヴァンパイアは昼間寝るという。
そーっとガラスのフタを覗き込むと、やっぱり誰か寝てるし!
雪のように白い肌、神々しく輝く金の髪、唇は妖しいまでに艶っぽい。
しかも全裸だ!
ルーファス鼻血ブー!
この手の免疫がなかったりした。
14歳にもなってたかが女性の裸にノックダウンされるなんて……。
床に膝をつけながらルーファスは迷っていた。
せっかく見つけた人間型生物。
声をかけるべきか否か。
「(ヴァンパイアだったら嫌だけど、違ったら助けてくれるかもしれない)」
ルーファスは意を決した。
目を手で隠して、指の隙間から柩を見る。そして、柩を軽くノックした。
「すみません起きてくださーい!」
返事はなかった。
もっと強くノックした。
「あの、起きてもらえませんか!」
それでも起きてもらえなかった。柩だけに、本当に死んでいるのかもしれない。だとしても、唇が生きているように艶っぽい。
もうこなったら!
ルーファスは柩のフタに手を掛けた。
「……開かない……開いてよ!」
無理やり柩のフタが外され、辺りは一瞬して白い煙に包まれてしまった。
いったいこの煙は?
作品名:魔導士ルーファス(1) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)