魔導士ルーファス(1)
誰かが叫んだ。
「甲板に穴があいたぞ!」
言われなくてもわかってる。もうそこら中水浸しだ。
船が徐々に傾き、船首が空に向かってこんにちは。
海賊船が沈むのは時間の問題だった。
ついでに最悪なことに、電気を帯びたローゼンクロイツのしっぽが、水浸しになった甲板を叩く。
塩分を含んだ水はとても電気を通し易い!
ビリビリっと甲板に立っていた海賊が一気にノックダウン。痙攣している姿が診るに無残だ。みんなチリチリパーマになってしまった。
そんなとき、ルーファスはアインと一緒にさっさと帆によじ登っていた。ローゼンクロイツとの付き合い方を心得ている。
が、もうすでに帆の先端も海に沈もうとしていた。
ここでルーファス衝撃の告白。
「私泳げないんだけど?」
「マジですかルーファスさん!(運動神経悪いですもんね)」
そしてマジですかついでに、ローゼンクロイツが四つ足で帆を駆けて来ていた。
「にゃーっ!」
猫みたいな鳴き声をあげてローゼンクロイツがルーファスに飛び掛る。
押し倒されたルーファスは海に投げ出され、伸ばした手がアインの服を掴んで道連れに。
3人仲良く海の中にドッボーン!
荒波がすべてを呑み込んでしまった。
「へっくしょん!」
ルーファスは自分のクシャミで目を覚ました。
「……ここは?」
視線を動かすとすぐそこでアインが焚き火をくべていた。
「あ、起きましたかルーファスさん」
「うん、なんとか永眠せずに助かったみたい。君が助けてくれたの?」
「はい、死に物狂いでお2人を運びました(本当は途中で1人捨てようかと思ったんだけど)」
もちろん捨てられるのはルーファス。そんなことも知らずにルーファスは御礼をいう。
「ありがとう、君は命の恩人だね」
「いえいえ、人道的に頑張っただけですから」
人道的にルーファスを捨てなかった。
辺りは砂浜のようで、少し先には森らしき緑が見えた。
しかし、ローゼンクロイツが見当たらない。
「ローゼンクロイツは?」
「ボクならここだよ(ふあふあ)」
ビクッとして振り向くと、ローゼンクロイツはルーファスの真後ろに立っていた。
「脅かせないでよ」
「脅かしてないよ(ふあふあ)。ちょうどコッチの方向から歩いてきただけさ(ふあふあ)」
「何してたの?」
「見ればわかるだろ?(ふー)」
ルーファスは目を凝らしてローゼンクロイツを見た。空色ドレスの裾がひらひら揺れている。いつもと変わらない見た目だ。
「どこが違うの?(つむじの位置が1センチ移動してたり、そんなのだったらもわからないよ?)」
そんなアホなことはない。
「服が乾いているだろ?(ふぅ)」
「あ、ホントだ……ハックション!」
大きなクシャミをしたルーファス服はびしょびしょだ。焚き火に当たっているアインの服もびしょびしょ。海水なのでベトベトもプラスだ。不快感満点!
「どうやって乾かしたの?」
と、ルーファスが尋ねると、
「……企業秘密(ふっ)」
軽く鼻であざ笑われた。
「はくしゅん!」
今度はアインのクシャミだ。
「まさか着替えとかありませんよねぇ?」
アインは鼻をすすりながら2人に尋ねた。
するとローゼンクロイツは砂浜に打ち上げられた貝殻を指さした。
「貝殻水着に着替えるといいよ(ふあふあ)」
「そんな恥ずかしい格好できません!(でもローゼンクロイツ様は言うなら……)」
「……ウソ(ふっ)」
無表情な顔についた口が一瞬だけ歪み、すぐに無表情に戻る。
そのローゼンクロイツスマイルにアインショック!
でも、なぜか顔がニヤけてしまう。
ぶっちゃけ、アインはローゼンクロイツになにされても『萌え』で片付くのだ。
ルーファスはびしょ濡れの服を脱ぎはじめた。そこへローゼンクロイツがすかさずツッコミ。
「貝殻水着に着替えるの?(ふあふあ)」
「違うよ! 私の魔法で服を乾かそうと思っただけだよ」
とりあえず分厚い上着の魔導衣を脱ぎ、砂浜の上にポイと投げた。
そして、得意の風魔導エアプレッシャーを放った。
圧縮された空気が魔導衣にぶつかり、舞い上がった砂と一緒に魔導衣もぶっ飛んだ。
そして、そのまま魔導衣は強風に煽られ飛んでいく。しかも砂まみれの魔導衣。
「ま、待ってよ!」
魔導衣を追いかけるルーファス。その姿がかなり滑稽だ。
そんな姿を見ながらアインがボソッと。
「あの人本当にクラウス魔導学院の生徒なんですか?」
「入学に運を全部使ったんだよ(ふあふあ)」
ローゼンクロイツの言うとおりのような気がする。
「そうなんですか……(あたしのほうが魔導の才能あるかも)」
ちなみにアインは努力と根性と、ローゼンクロイツへの?愛?で入学した。
ちなみにローゼンクロイツはなんとなく入学できた。
「じゃ、そろそろ行くよ(ふあふあ)」
ルーファスが走って行った方向とは真逆にローゼンクロイツは歩き出した。アインも構わず歩き出した。もちろんカマってもらえてないのはルーファスだ。
「ま、待ってよぉ〜!」
ルーファスは海に落ちた魔導衣を拾い上げ、森に入っていった2人を追った。
ちなみに、言うまでもないが、魔導衣はさっきよりもびしょびしょだ。
マジ頭弱いルーファス。
通称へっぽこ魔導師の二言なし!
作品名:魔導士ルーファス(1) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)