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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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空色ドレスにご用心3


 目は意味を成さなかった。
 真っ暗な闇の中を、ただひたすら階段を下りる。
 ルーファスは不安そうに呟く。
「ローゼンクロイツいるよね?」
 返事は返ってこなかった。
「アインはいるよね?」
「いますよー」
「よかった(僕独りだったらどうしようかと思った)」
「ローゼンクロイツ様もちゃんといますよ、匂いでわかります(アフロディテのローゼン・サーガという香水を使ってるのチェック済みです!)」
 アフロディテとは大手香水メーカーの名前だ。
 階段は100段、200段と続き、先の見えない闇に不安は募った。
「アインいるよね?」
 またルーファスが尋ねた。
「いますよー」
「ローゼンクロイツは?」
 返事はなく代わりにアインが答える。
「ちゃんといますよ、匂いでわかります!」
 匂いでわかるわかると言われているが、別に香水の匂いがきついわけじゃない。アインが変態なのだ。
 階段はさらに続き、500段を数え、ついに700段を数えたとき、世界が光と闇に分かれた。
 左右に置かれた蝋燭台の上で炎がゆらめいている。その中心にあるのは真鍮の扉。そして、その前には門番が2人いた。
 2人の少女は同時に口を開いた。
「「私たちはナイとメア。夢幻の扉を守る者」」
 明るい顔をした少女と、陰気な顔をした少女。表情こそ違えど、二人は瓜二つの双子だった。
 ローゼンクロイツは両手をぐーにして、ナイとメアに差し出した。開かれた拳から金貨が1枚ずつ、2人の少女の小さな掌に落ちた。それは古い時代の金貨だった。
 門番は左右に分かれた。
 真鍮の扉が開かれる。
「「足元にご注意ください」」
 扉の向こうに広がる空色の光。
 ローゼンクロイツはどこかに隠し持っていた日傘を開き、後ろの2人に命令する。
「どこでもいいからボクの身体に捕まって(ふにふに)」
 言われたとおり、ルーファスとアインはローゼンクロイツの二の腕に捕まった。
「(二の腕萌え〜)」
 何気にアインはローゼンクロイツの二の腕をふにふに。本当は後ろから足を絡めて抱き付きたかったが、そこは強い精神力で抑えて抑えて抑えきった。
「行くよ(ふあふあ)」
 ぴょんとローゼンクロイツは扉の中に飛び込んだ。つられて2人も青い世界へ飛び込む。
 どこまでも続く青い空と巨大な入道雲。
 今日もとってもいい天気♪
 真下を見たルーファスが叫ぶ。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
「うるさいよルーファス(ふー)」
「だ、だって……」
 ガタガタ震えるルーファスの視線の下には、キラキラと輝く海が広がっていた。
 日傘をパラシュート代わりにして、ふわりふわりと綿毛が舞うように、ゆっくりと3人は落ちていった。
 海の上にはただひとつ、降りられそうな場所があった。大きな船の甲板だ。
 ふわりとふわりと風に運ばれながら、見事3人は甲板に無事着地した。
 が、ルーファスの目に飛び込んできた帆に描かれたマーク。
 蛇と髑髏のマークはどー見ても正義の味方には見えない。
 甲板に下りてきた3人組のせいで、船内は少し慌しくなり、物騒な武器を装備したガラの悪い男どもが湧いてきた。
 中でも目を引いたのは、大きなハットを被り眼帯をした男。絵に描いたような海賊の親分だ。
 とりあえずルーファスは笑っとけ。
「あはは、ちょっとお邪魔しますよー(笑えない笑えない)」
 物騒な輩を前に、アインはささっとローゼンクロイツを背に隠した。
「ローゼンクロイツ様には一歩も指を触れさせま……せん?(消えた?)」
 ローゼンクロイツの姿が消えた。
 ――いた。
「この船は只今よりルーファス海賊団が占拠するよ(ふあふあ)」
 ローゼンクロイツは親分の首に短剣を突きつけていた。
 海賊船ジャック!
 しかも、ルーファスの名前勝手に使ってるし!
 敵の親分を人質に取るなんて、なんて卑怯な方法だ。それを無表情でやってのけたローゼンクロイツ。
「萌えぇ〜」
 そんなローゼンクロイツにアインは萌えていた。
 が、自体はそんな甘くはなく、キツネみたいな顔をした海賊がローゼンクロイツに銃を抜いた。
「そんな野郎死んだってかまわねえよ、そいつが死んだら俺がこの船の船長だ」
 こんなときに内情のゴダゴダが発生した。船長の座を狙っていたナンバー2が叛逆を起こしたのだ。
 しかし、アインは瞬時に動いていた。
 ナンバー2の首元にナイフを突きつけ、なんと人質に捕ってしまったのだ。
「これでこっちの勝ちですね!」
 が、自体はそんなに甘くなく、クマみたいな顔をした海賊がアインに銃を抜いた。
「そんな奴が死んじまっても、おらがこの船の船長だべ」
 船長の座を狙っていたナンバー3だった。
 これには船長も怒りを爆発させた。
「どいつもこいつも、この船の船長は俺様だ!!」
 何気にさっとローゼンクロイツは船長を解放すると、船長は謎の侵入者3人のことなど忘れ、叛逆を起こしたナンバー2と3に襲い掛かった。
 船上の争いはもう止められなかった。
 撃ち合い斬り合いの血で血を洗う無残な戦いがはじまった。
 その惨禍の中で、ローゼンクロイツはルーファスの腕を引く。
「ルーファスこっち(ふあふあ)」
 ローゼンクロイツはルーファスを樽の陰に誘導した。
 2人はさっさと身を隠したが、アインはチャンスを逃していた。
「あっ、いっ、うっ、えっ、おーっ!」
 蛮刀をかわし、流れ弾をかわし、強烈なパンチをかわす。トリプルAクラスの運動神経の良さだ。魔導士よりも格闘家に向いていそうだ。
 樽の陰から物音が聞こえ、海賊のひとりがそれに気付いた。
「そこにいるのは誰だ!」
「は、は……はっくしょん!」
 血相を変えたルーファスが樽の陰から飛び出した。
 次に樽の後ろからネコミミがひょこっと見えた。
 そして、ワケがわからないうちに、海賊は何かに横殴りされて、樽と一緒に海へ飛ばされていた。
 まさか、巨大海蛇の襲来か!!
 と、海賊たちが間違える物体エックスが、縦横無尽に船上で暴れ回っていた。
 アインは萌えた。
「しっぽふにふに萌え〜!」
 トランス状態のローゼンクロイツが発動した『しっぽふにふに』が暴れていたのだ。
 強大な敵を前に海賊たちは結束を取り戻した。
 覇権争いなんかよりも、ローゼンクロイツを倒さねばならない!
 威勢のいい海賊どもがローゼンクロイツに襲い掛か……ったにも関わらず、ひとり、またひとりと空を飛ぶ海賊。
 まるでハエでも叩くように、ローゼンクロイツのしっぽが海賊を飛ばす。
 ルーファスも必死だった。さっさと隠れて状況を見守る。
「こんな逃げ場のない船上でトランスするなんて……(でも、ねこしゃん大行進じゃなくてよかった。あんなのやられたら確実に船が沈むもんね」
 世の中、思ったり口にしたことが現実になることが多い。
 ねこしゃん大行進発動!
 ローゼンクロイツの身体から、ねこしゃんのぬいぐるみが放出。しかも、これ爆弾。
 勝手気ままに走り回るねこしゃんは、物理的衝撃などが与えられるたびに、可愛らしく鳴いて爆発を起こす。
 しかも、爆発が爆発を呼び、大爆発になるというオマケつき。
 船上の大混乱はさらに大大混乱になり、硝煙が辺りに立ちこめ、船は揺れに揺れて甲板が噴水を上げた。