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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

INDEX|36ページ/110ページ|

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「ここはキミの夢で、ボクは別の場所で眠っているんだ(ふぅ)。ボクはボク自身を忘れそうになって、ボクをよく知る人物が感知する特殊な電波を出し、夢の中でボクを召喚してもらうことによって、記憶とアニマを取り戻したわけさ(ふにふに)」
「はぁ?(意味がわからない)」
「わかりやすく言うと、ここはキミの夢だけれど、ボクはボク自身の意志を持って活動しているということだよ(ふあふあ)」
「はぁ?」
「……バカ(ふー)」
 いかにも作った呆れ顔でローゼンクロイツはため息をついた。
 挨拶もなしてローゼンクロイツは踵を返して歩きはじめた。もうルーファスなんかにカマってられないといった感じだ。
 スタスタ歩くローゼンクロイツの肩をルーファスが掴んだ。
「待ってよローゼンクロイツ」
 振り返ったローゼンクロイツは、いつも以上に無表情で言う。
「私的な用事があるから、じゃ(ふにふに)」
 片手をあげてさようなら。
 再びローゼンクロイツは歩き出した。
 ルーファスは少し不満そうに頬を膨らませ、それでもローゼンクロイツの後を追った。
 今しがたまで魔導学院だったはずなのに、気付けばそこは国立図書館の中だった。
 本棚に手を伸ばすローゼンクロイツ。
 しかし、その手は本棚ではなく、自分の頭に乗せられた。
「……頭痛が痛い(ふにふに)」
 言葉の誤用だ。正確には『頭が痛い』もしくは『頭痛がする』だろう。
 頭を押さえたローゼンクロイツは動かなくなってしまった。心配するルーファスがすぐに駆け寄った。
「だいじょぶローゼンクロイツ?」
「……ムリ(ふにゃー)」
 普段、無表情のローゼンクロイツが、マジで痛そうな顔をしている。
 ローゼンクロイツはそのまま床にペコっと座り、本棚を指差してルーファスに頼みごとする。
「本を探して欲しいんだ(ふにゃー)」
「どんな本?」
「……忘れた(ふあふあ)」
「はぁ? それじゃ探せないよ(なに探すかわかってても、この図書館迷うんだから)」
 困ってしまったルーファス。
 王都にある国立図書館は世界でも有数の規模を誇る大図書館だ。この図書館に務めている司書ですら、自分が担当する区画以外の本棚になにがあるか知らない。この図書館の本を全て把握しているのはただひとり、いや1匹。館長の老ネズミだけである。
 ルーファスは何者かの視線を感じた。しかも、かなり強い視線だ。なのに姿が見えない?
「この視線って……まさか……アインさん!」
 ルーファスは本棚の影に向かって声をあげた。
「はい!」
 という声が帰ってきたのは、ルーファスが向くあさっての方向。そこからアインがひょこっと顔を出した。
 さすがローゼンクロイツのストーカー。夢の中まで追ってくる執拗さだ。だが、ここはルーファスの夢だ。
 ローエンクロイツは瞬時悟った。
「しまった、ボクの電波が彼女まで呼んでしまったらしい(ふにふに)」
 それの意味するところは、ルーファスの夢の中にあって、ルーファスから独立した固体を意味する。
 簡単にいうと、ローゼンクロイツと一緒で、人の夢に他人が土足で上がりこんだ状態だ。
 ローゼンクロイツを強く想うアインは、ローゼンクロイツの発したSOS電波をキャッチして、ルーファスの夢の中にまで追っかけてきたのだ。
 アインは背中の後ろから、一冊の本を胸の前に出した。
「これをお探しじゃありませんか?」
 ガイア出版の薬草大全集。
 それを見たローゼンクロイツの眼が、カッと見開かれて五芒星が浮かんだ。
「……それだ(ふにふに)。やっと全てを思い出したよ(ふにふに)」
 テーブルに座ったローゼンクロイツは、受け取った薬草全集のページを開いた。
「現実世界のボクは物忘れが激しくて、そのまま放置すればボクは全ての記憶を忘却して廃人になるんだ(ふにふに)。けれど、夢の世界でのボクは深層心理に近く、忘却してしまった記憶も思い出すことができる(ふにふに)」
「でも、現実の君はどうすんだよ?」
 ルーファスが尋ねると、ローゼンクロイツはページを指さした。
「だから今からそれを治すために、〈夢の国〉[ドリームランド]に向かうんだよ(ふあふあ)」
 ローゼンクロイツの指先はレインボーマタタビの挿絵を指していた。
 申しわけなさそうにアインがボソッと。
「あの、絶滅と書いてありますが?(いや〜ん、あたしったらローゼンクロイツ様に物申しちゃった)」
「〈夢の国〉は現実世界から失われたモノがある場所(ふあふあ)」
 パタンと本を閉じて、ローゼンクロイツは席から立ち上がり、辺りをゆっくりと見回しはじめた。
 ローゼンクロイツの頭で、ぴょんのアホ毛が立った。電波を受信したのだ。
「あっちだよ(ふあふあ)」
 さっさと歩くローゼンクロイツに2人は無言でついて行った。
 ピタリと止まったローゼンクロイツ。微動だにしない、機械的な止まり方だ。
 そこには扉があった。
 ローゼンクロイツは知っていたが、残る2人はそれを知らない。この扉は現実世界の図書館にはないのだ。
 懐から銀の鍵を出したローゼンクロイツは、それを差し込み扉を開いた。
 下へ続く階段が長く伸びている。先は暗く見通すことが出来ない。いったいどこに続いているのだろうか?
 無言でローゼンクロイツは階段を下りること70段。
 大きく広がった世界に、ただひとつの神殿が存在していた。
 古代文明が栄えていた頃に良く見た、石の柱が立ち並ぶ石造りの白い神殿だ。
 神殿の中はそこら中に蝋燭が立っていた。
 無限とも思える蝋燭の山の中には、火の灯っているものとそうでないものがある。
 神殿の中をキョロキョロ見渡すルーファス。
「どこここ?(ものすごく熱いよ)」
 アインは空色ドレスの背中ばっかり追いかけている。
「(ローゼンクロイツ様、颯爽と歩く後姿も萌え〜)」
 見られているローゼンクロイツは無言で歩みを続ける。
 長く続いた廊下の先には、十数メートルの高さを誇る扉が聳え立っていた。
 その前にひっそりと立つ神官。
「この神殿になんの用かね?」
 永遠に若い神官はローゼンクロイツに尋ねた。
「〈夢の国〉に行きたい(ふあふあ)」
 〈夢見る神殿〉の神官は、どこまでも澄んだ瞳でローゼンクロイツを見つめた。
 ローゼンクロイツの瞳はエメラルドグリーンに輝いていた。
「宜しいでしょう、この扉を開けられるのならば、先に進むことを許可しましょう」
 巨大な扉に鍵穴は見当たらない。力で開くとも到底思えない。
 ローゼンクロイツは扉にそっと触れた。
 片手で触れただけなのに、重く重い扉は動きはじめた。
 扉はローゼンクロイツを受け入れたのだ。
 力ではない。扉は人を見た。その者が秘めたるモノを視たのだ。
 巨大な口を開けた夜よりも深い闇。
 臆することなくローゼンクロイツは足を踏み入れた。
 続いてアインも追っかけする。
 残されたルーファスも意を決した。
「待ってよ、ひとりにしないでよ」
 深い闇は3人を跡形もなく呑み込んだ。