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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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「お子さんはどこにいるのですか?」
「長男のトーマは食糧貯蔵庫の中に、次男のケルビンは見張り塔に、長女のアリッサは礼拝堂……」
 急にクライストン夫人の身体から力が抜け、意識を失って倒れてしまった。
 心労が祟ってしまったのだろう。
 子供たちの詳しい位置まで聞き出すことができなかった。だいだいの位置は聞き出せたので、あとは人力を尽くすしかない。
 一刻も早く子供たちを救出しなくては、アンデッドたちの餌食になってしまう。
 エルザはここにいる全員に命じる。
「オルガスとエリーナは食糧貯蔵庫を探して長男を救出、バンガードは見張り塔で次男を、私とクラウス様で長女の救出にあたる、いいな?」
 皆は深く頷いた。

 怖く心細い思いをしている子供達を一刻も早く助け出したい。そんな気持ちが2人の冒険者達の足を速めていた。
 探し出す子供の数は3人。
 そのためにクラウスたちは3チームに分かれる作戦を実行した。
 魔法医エリーナと軽騎士オルガスは暗い廊下を進み、地下貯蔵庫を探して城内を探索していた。
 太陽神アウロの守護があるこの時期の雨は恵みの雨とされるが、今日のこの雨は歓迎できるものではなかった。
 城内は湿気で満たされ、じめじめした空気をアンデッドたちがとても好みそうだ。
 幸いなことにまだアンデッドたちには遭遇していない。
「なかなか見つからないな。子供じゃなくてアンデッドのことな」
 アンデッド狩りを楽しみにしているオルガスをエリーナがたしなめる。
「目的はアンデッド討伐ではありません。子供たちを救出することが最優先です」
「まだ生きてるといいけどな(アンデッドは生者の肉を好むらしいからな)」
「なんてことを!」
「しっ、大きな声を出すとアンデッドたちが起きてくるぞ。オレには好都合だけどな」
 貯蔵庫といえば、涼しくて日の当たらない場所にあるだろう。二人は城の北側を中心に貯蔵庫を探し続けた。
 やがてかまどなどのある厨房にたどり着いた。
 薄暗いこの場所でエリーナはランタンに火を点けた。
「少し肌寒いですね」
「おい、こっちに螺旋階段があるぞ」
「下ってみましょう」
 二人は厨房奥の螺旋階段を下ることにした。
 手を付いた階段の石壁には苔がむし、冷たい風に乗って腐臭が鼻を衝く。嫌な予感がする。
 貯蔵庫で泣き声や微かな物音に気を払うが、どこにいるかわからない。
 近くになにかの気配がするが、それが子供のものかアンデッドのものか判断がつかない。
 オルガスは鞘からフルーレを抜いて、大きな声をあげた。
「誰かいるのか!」
 反応は石蓋の閉められた棺のような箱から返ってきた。中から苦しそうな呻き声が聴こえてきたのだ。
 すぐにオルガスが重い蓋を開けると、なんと中からアンデッドが飛び出したのだ。
 驚きながらも注意をしていたオルガスは迅速に対処し、フルーレでアンデッドの目玉を突いて、相手が怯んだ隙に石蓋を再び閉めてしまった。
「危なかったな(……しぶとい奴だぜ)」
 石蓋に挟まれて切断されたアンデッドの手が床で微かに動いている。
 それを蹴り飛ばして冷や汗を拭いたオルガスが振り返った。
「残りの箱も開けてみるか?」
「お願いします」
 他の箱にオルガスが手をかけようとしたとき、二人はなにか嫌な気配を感じて緊張した。螺旋階段を上がったすぐそこになにかが迫っている。
 螺旋階段を下りてくるアンデッドの影を見取ったエリーナが手に魔導を集中させる。
「アンデッドはわたしが引き受けます。あなたは子供の捜索を続けてください」
 貯蔵庫にアンデッドを近づけないために、エリーナは自ら囮になることを決意して、螺旋階段に向かって走る。
 エリーナの手を淡い光を放った。
「キュアライト」
 回復系魔法アイラに属する回復呪文キュアライト。その効果は仲間の傷を癒し、精神的な落ち着きも与える魔導だ。
 普通は回復のために使用する魔導だが、アンデッドに対しては違う。アンデッドには回復呪文が攻撃呪文へと効果を変えるのだ。
 キュアライトの光を浴びたアンデッドたちが塵と化して崩れ落ちる。
 螺旋階段の先からは次々とアンデッドが降りてくる。
 エリーナは螺旋階段を駆け上がっていった。
 仲間の作ってくれた隙に、オルガスは残る箱を開けて調べた。
 そして、なんと長男のトーマを発見したのだ。
 8歳の少年は石の箱の中で身を縮ませ振るえていた。
「おまえを助けに来た。もう心配ない、すぐに母親のもとに連れて行ってやる」
 怯えてすすり泣くトーマの視線は泳いでしまっている。恐怖からの放心状態でこうなってしまったのだろう。こんな子供を3人も連れてアンデッドの魔の手から逃げることは難しかっただろう。
 オルガスはクライストン夫人の取った方法に批判的であったが、その考えを少し改めることにした。
 ようやくアンデッドたちを追い払ったエリーザがこの場に戻ってきた。
「よかった、発見できたのですね」
 エリーナは魔導衣の上から羽織っていた薄手のマントをトーマに羽織らせ、隠し持っていた飴玉をトーマの手に握らせた。
「よく頑張りましたね。私からのご褒美です」
 飴玉をもらったトーマに小さな笑みが差した。暗い闇に閉じ込められていた少年に光が戻ったのだ。
 オルガスがトーマを背負い貯蔵庫を出ようとしたとき、腐臭が風に乗って漂い螺旋階段からアンデッドたちが姿を見せたのだ。
 追い払ったと思ったが、またすぐに集まって来てしまったのだ。
 アンデッドに目をやったオルガスはエリーナに悪態をついた。
「おまえが連れてきたんだろ」
「そんなヒドイ!」
「オレはこの子を背負ってるから、あいつらはおまえに任せたぞ」
「言われなくてもわかっています」
 逃げ場がない。危機的な状況だ。
 しかし、強行突破はできる。
 手に魔導を溜めるエリーナを確認し、オルガスは背負っているトーマに向かって言う。
「しっかり掴まってろ、走るぞ」
 トーマが頷く前にエリーナの魔導が発動し、オルガスは俊足を生かして駆けていた。
 眩い光が当たりに散乱し、塵に還り浄化していくアンデッドたちを乗り越え、二人とひとりの少年は螺旋階段を全力で上った。

 降りしきる雨の中、重騎士バンガードは見張り塔に向かっていた。
 城の敷地内に建てられた見張り塔は居館に隣接した位置に建てられていた。
 塔の入り口は金属製の扉で硬く閉ざされ、上を見合せば窓があるが、下からはここしか入り口がない。
 ドアを強く叩くが、中からの反応はなかった。
 アンデッドに用心しているに違いない。
「助けに来た」
 野太い無愛想な声だ。これでは中にいる次男のケルビンも怖がって出て来られないだろう。
 バンガードは扉のすぐ向こうから気配を感じていた。
 いつ向かいが来てもよいように、扉のすぐ傍にケルビンがいるのだろう。しかし、用心しているのか、反応を押し殺したように静かだ。
 もう一度バンガードは扉を叩いた。
「クライストン夫人に頼まれて助けに来た」
 夫人の名前を出したためか、今度は中から反応が返ってきた。
「で、出たくない……」
 短い言葉の中に震えと怯えが入り混じっている。やはりアンデットに怯えているのかもしれない。