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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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外伝_悪霊の棲む古城


 国王クラウスはアステア国境近くの辺境で15歳の誕生日を迎えた。
 この辺りで紛争が起きたのは十数年前。奴隷として扱われていた種族たちが叛乱を起こしたのだ。
 戦いでは多く死者を出し、奴隷達が自由を獲得して戦いは終戦を迎えた。しかし、争いの代償は、綺麗な野原を焼け野原に変え、隣国との貿易が盛んで栄えていた街は廃墟と化して、賑やかさから一変して死の町と化してしまった。
 人の住まなくなった町や周辺の土地には怪物たちが跋扈するようになり、アステア王国からも忘れられた土地となっていた。
 クラウスはこの土地を再建するために視察に来たのだ。
「……静かだな(聴こえるのは雨の音のみか)」
 人のいない町を高台から見下ろしたクラウスは呟いた。
 雨が町の情景をよりいっそう寂しいものにしていた。
 屋根や壁は剥げ落ち、所々砲撃か魔導で穿たれた壁や地面の穴。あのような建物では雨風すら凌げまい。
「多額の復興費用と大勢の人手が要りそうだな」
 漏らすように言うクラウスの傍らで、白銀の軽鎧を着たブロンドの女が立っていた。クラウスがもっとも信頼を置くエルザだ。
「元老院にまた反対されるのは目に見えております」
「この場所に金をかけるくらいなら、ガイア聖教に寄付をしろと言い出すだろうな。だが、この場所は必ず貿易経済の拠点となる。長い目で見れば良い投資になることは間違い(彼らは自分が生きている間の保身しか考えないんだ)」
「復興までに十年以上、貿易が軌道に乗るまでにはそれ以上の年月が掛かるやもしれません」
「僕が玉座に座っている間にはなんとかなるさ」
 若い王に仕えるエルザはクラウスよりも4歳年上だ。
 エルザは名門クラウス魔導学院を首席で卒業し、高級官僚に必要な試験もストレートでパスして、王宮に務めるようになった。それからも出世の道を進み、クラウス王国が外国に派遣した部隊に所属していたエルザは、そこで大きな功績を残したことによって魔剣一個中隊の中隊長に任命された。
 戦争がないときは、エルザはクラウスの護衛役を務め、どこに行くにも共に行動をする。そのためエルザには悪い噂が付きまとう。クラウスの女だからスピード出世するのだと。
 嫉まれることも多いが、エルザはそんなことなど気にもかけていない。それに彼女にはそれ相応の実力があるのだ。
 今回の視察はエルザを加えて少ない人数で来た。他の者達を近くの町の宿で待機させ、この場所にはエルザと二人できた。
 危険の多い場所だが、エルザの実力を知るものなら、安心して君主を任せられる。
 クラウスは見下ろしていた町から目を離し、来た道を戻り緩やかな崖を下りはじめた。
「風邪を引く前に宿に戻ろう」
 王についてすぐ後ろ歩くエルザがふと足を止めて辺りを見回す。
「人の声が聴こえます」
「ん?」
 クラウスも耳を澄ませ辺りに目を配った。
 女の叫び声がする。
 崖の下にある町からだ。
 すぐにクラウスとエルザは崖の下に目を向けた。
 襤褸を纏った三体のアンデッドが女性を襲おうとしている。
 エルザよりも先に行動に出たのはクラウスだった。
 クラウスは剣の柄に手をかけながら、急な斜面を滑り降りた。
 そのあとを慌ててエルザが追う。
「クラウス様!(クソッ!)」
 声をあげたときにはクラウスは崖を降りて剣を抜いていた。
 王家に伝わる名も無き長剣。
 抜くと同時にアンデッドの胴を真っ二つに断ち、襲い掛かってきた二体目の脳天から股まで剣を振り下ろし、三体目は押し飛ばすように突き刺した。
 アンデッドは通常、斬られたくらいでは倒せず、身体を真っ二つにさせれても動くことができる。
 しかし、クラウスの剣で斬られたアンデッドは傷口から光を発し、塵となって消滅してしまったのだ。
 アステア王国に伝わるこの剣は聖の属性を持っており、アンデッドなどの怪物を浄化させる力を持っているのだ。
 クラウスに一歩遅れて崖を降りてきたエルザが、気を失って倒れている女性を抱きかかえた。女性は痩せこけた中年女性だった。
「どういたしますか?(クラウス様ならば放っておくはずないが)」
「訊くまでもないだろう。宿に連れて行こう」
「承知したしました(やはり、クラウス様だ)」
 背中に女性を背負ったエルザとクラウスは足早に宿に向かって足を運んだ。

 宿に戻り女性の看病をすると、女性は空ろげな瞳を開けて意識を取り戻した。
「……ここは?」
 はっとしたように女性は瞳に光を戻して辺りを見回した。
 大きな一室に6人の男女がいた。
 クラウスと連れの者達だ。
 ベッドに寝かされていた女性の近くには、魔導衣を着たおしとやかそうな女性が立っていた。
「お加減はいかがですか?」
 尋ねられた女性はこの状況を把握するのに時間を要した。頭の中が整理できず、なにが現実かも判断がつかない。とても恐ろしいことが起きた。それだけが頭の中で駆け巡っていた。
 怯える女性の手を取って、魔導衣を着た女性――魔法医エリーナは優しく微笑んだ。
「わたしたちは旅の冒険者です。あなたがアンデッドに襲われているところを、そこにいるお二方が助けたのですよ」
 二人とはもちろんクラウスとエルザのことだ。
 自分を助けてくれた二人を見つめ、女性はアンデッドに襲われたことを思い出して叫んだ。
「夫と子供達を助けてください!」
 取り乱す女性を落ち着かせ、聞き出した話はこうだった。
 クライストン一家は隣国の紛争を免れるためにアステア王国に移住する最中だったらしい。すでに先にアステア領内に入っていた靴職人の夫を追って、クライストン夫人は3人の子供を連れて旅の途中、あの廃墟の町に迷い込んでしまったらしい。
 雨が降りしきる中、凶暴で知能もあるキラーウルフの群に囲まれ、逃げ込んだのが町の高台にある小さな居城だった。そこに逃げ込んだのが間違いだった。
 古城は廃墟と化しており、そこはアンデッドたちの棲み処と化していたのだ。
 アンデッドに襲われたクライストン夫人は子供を連れて逃げることを断念し、仕方なく子供たちを各々の場所に隠して自分は助けを求めに行き途中だったのだという。
 話を聞き終えて最初に口を開いたのは軽騎士のオルガスだった。
「ひどい話だな、子供を見殺しにするなんて」
 そう取られても仕方ない話だった。子供をアンデッドの巣窟に残してくるなど、とてもではないが得策とは言えない。
 オルガスの言葉を聞いたクライストン夫人は泣き崩れてしまった。
 庇うようにエリーナが夫人の肩を抱き、オルガスを睨みつけた。
「子供を生まないあなたになにがわかるのですか?」
 愛する我が子を置いて行くことが、どれほど辛いだろうか?
 両親、そして兄弟と離れ離れになってしまった子供もまた、どれほど辛い思いをしているのだろうか?
 クライストン夫人の決断は身を切る思いだったに違いない。
 決して好き好んで子供を置いてきたわけではないのだ。
 椅子に腰掛けていたクラウスが立ち上がった。
「今すぐに子供たちを救出に向かう」
 嫌な顔をする者は誰ひとりとしていない。事情を聞いたときから、誰もが子供を救出しに行くことを決意していたのだ。
 夫人の肩を抱いているエリーナが尋ねる。