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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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 いつものパターンなら、ノリノリで挑んでくるファウストに裏切られ、カーシャは思いも寄らないショックを受けていた。
「ファウスト、この卑怯者めが! 男なら正々堂々と戦え!」
「卑怯はカーシャの十八番でしょう。貴女にそんなことを言われる筋合いはありませんよ」
「自分の卑怯など知るか、今はお前の話をしておるのだ!」
「少し黙っていてくれませんか、集中できないのだよ!」
 少し語尾をあげてキレ気味のファウスト。魔導のこととなると、視野が狭くなると魔導学院でも有名だ。
 今回の事件もそんな感じだ。
 魔導学院の地下書庫に安置されていた古文書を発見。それを持ち出して授業をほったらかし、勝手にクラスの生徒を数人引き連れてこの場所に来た。もちろん途中で脱落した生徒は放置だ。今もきっと湿地帯では救出劇が繰り広げられている。
 超古代兵器があるらしいとファウストは睨んでいるが、それをどうこうして戦争をしようとか、誰かを脅そうとか、そんな考えは持っていない。
 あくまでそーゆーものを実際に見て、なんとなく使ってみたいだけ。
 本人を前にして誰も言わないが、ファウストは魔導学院でこう言われている――魔導具オタク。
 まだファウストは扉の封印に神経を削いでいる。
 カーシャはなんとか逃げ出そうと踏ん張って頑張っていた。その視線に入る2人組み。しかも、その2人ったら床に座ってトランプをしていた。
「ビビならともかく、クラウスまでなにをやっておるのだ! 遊んでないでファウストをどうにかせんか!(クラウスまで……あれも仔悪魔の魔性か?)」
 クラウスは済まなそうに頭を下げた。でも手にはトランプを握ったまま。
「すまない。ビビがどうしてもババ抜きをしたいっていうから……(レディの誘いは断れないからな)」
「カーシャもやる?」
 ニッコリ笑顔でババ抜きのお誘い。
「お前らアホか……2人でババ抜きをしてなにが楽しいのだ。ではなくて、手が使えないからお前らにどうにかしろといっておるのだ。トランプができるくらいの余裕があるなら、妾がファウストをとめておるわ!!」
 そんなこんなをしているうちに、いざファウスト扉を開かん!
 重く閉ざされていた扉が歯軋りのような音を立て、ゆっくりとその口を開きはじめた。
 ファウスト拍子抜け。
 カーシャ唖然。
 残りはトランプに夢中。
 なんと、扉の先にはまた扉があった。2重扉だったのだ。
 再びファウストは黙々と扉の封印解除をはじめた。
 カーシャも再びスライムから抜け出そうと頑張った。けど飽きた。
「さすがにもう疲れたし飽きたな。おいファウスト、この塔にはどんな兵器が隠されておるのだ?」
 ファウストの眼がキラリーンと輝いた。
「よくぞ訊いてくれたカーシャ。まだ私もはっきりとわからんのだが、空に輝きを放つ砲台があると比喩されている。つまりだな、私が考えるにそれは魔導砲の一種ではないかと思うのだが、カーシャはどうかね?」
 水を得た魚のように熱弁を振るうファウスト。魔導具の類が大好きなのだ。説明を求められたら答えずにいられない。
「ふむ、魔導砲とな? しかし、それにしては砲台など屋上にはなかったぞ?(あったのは黒い水溜りだけだ)」
「塔の頂上にあるエネルギー蓄積装置を見たかね? あれは月の光をエネルギーとして蓄積し、あの場所から放出する砲台の口なのだよ」
「天に撃っても標的には当たらんと思うが?」
「それは作動してみなくてはなんとも言えませんねぇ。搭自体が傾くのやもしれません」
「……なるほど」
 搭が傾くなんて、んなアホな!
 なんてこともなく、カーシャの常識では納得してしまった。
 そんなこんなをしているうちに2番目の扉も開いてしまった。
 こんなことをしてる場合じゃないとカーシャ焦る。
「お前ら、さっさとファウストを追わんか!」
 と、カーシャが向けた視線には3人の仲むつまじい人影が……ひとり増えてる!?
 ルーファスだった。
 トランプのメンバーにルーファスが追加されていた。ちなみに今ババを持っているのはルーファスだ。
 じゃなくって!
「ルーファス! さっさとファウストを追え!」
 カーシャの叱咤を受けて反射的にルーファスは動いた。まさに脊髄反射の域に達している。
「は、はい!」
 トランプをぶちまけてルーファス出動。勝負はおじゃんで、ババを持っていたルーファスは大助かり。将棋で大手をかけられたときに駒がぶっ飛ぶのと同じだ。
 ファウストを追ってルーファスが走り、そのあとを釣られてクラウスとビビが追う。が、クラウスはカーシャに呼び止められる。
「おまえは妾からスライムを引き剥がせ!」
「はい!」
 一国の国王に私情で命令できるのは、この国広しと言えどカーシャだけかもしれない。
 ファウストは石碑の前で立ち止まり窪みを見た。そこに古文書と同時に見つけた?鍵?を差し込んだ。鍵と言っても、それは石のような形をしていた。
 搭全体が動くような音がした。
 天井からは何百年、何千年もの間に積もった埃が落ち、長い間、起動されることなかったロストテクノロジーが動き出す。
 もし、この力が暴走したら、どこかの国が滅びるかもしれない……。
 ルーファスがファウストに飛び込む。
「ダメだファウスト先生!」
 ファウストの身体を押し倒し、ルーファスの手が……ポチッとな。
 発射スイッチオン!!
「ルーちゃんの……ばか」
 ビビの呟きを掻き消すように、唸り声をあげた搭が、その頂上から七色の輝きを放った。
 その光景はルーファスたちがいる制御室でも、3Dホログラムでモニターされていた。
 ドジッ子ルーファスのせいで、世界は未曾有の恐怖に……。
 と、思ったら天高く昇った輝きは、パーンと弾けて辺りに綺麗な華を咲かせた。
 一同沈黙。
 これってまさか?
 ここでビビちゃんが笑顔で掛け声。
「たっまやーん!!」
 綺麗な花火が昼間の空を彩った。
 クラウスは俯いて肩を震わせていた。
「くくっ、はは、あははは! なんだ花火じゃないか」
 横にいたカーシャも残念そうに。
「そのようだ(チッ、古代兵器ではないのか)」
 そんな軽いオチで包まれるこの場で、たたひとりルーファスだけが顔面蒼白だった。
 自分がスイッチを押してしまった罪悪感で、その瞬間に気を失って倒れてしまっていたのだ。
「ルーちゃん、カッコ悪」
 呆れたようにビビはため息を落とした。
 こうして今回の騒動は呆気なく幕を閉じたのだった。

 ちなみに、この事件で大火傷を追ったオル&ロス兄弟に、ルーファスが追っかけられるのは後日談である。

 第3話_ドカーンと一発咲かせましょう おしまい