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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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ドカーンと一発咲かせましょう4


 塔から転げ落ち、下の湿地帯に飛び込み、どうにか無事でびしょ濡れのルーファス。
 やっと塔の頂上にたどり着いたときには、なぜか4人があーでもないこーでもないと戦闘を広げていた。
 氷系魔導を得意とするカーシャの攻撃は、同じ氷系を得意とするロスに防御され、カーシャが苦手とする炎系魔導でオルが攻撃を繰り出し、それを同じく炎系を得意とするクラウスが防御し、クラウスは氷系を得意とするロスに攻撃すると、それをオルが防いで、オルはカーシャに……。
 とにかく!
 赤い光と青い光があっちに来たり、こっちに来たりを繰り返していた。
 ビビの姿はない。とっくに階段を下りていってしまったらしい。
 ルーファスに気付いたカーシャが声をあげる。
「ルーファス、1匹任せた!」
「はぁ?」
 と、理解できないルーファスが、もっと理解できないことにカーシャに投石ならぬ投人された。
 人間ミサイル発射!
 投げられたルーファスはオルに向かってぶっ飛ぶ。
 オルはロッドをバットのように構えて、カキーンとルーファスを打った。
 さよならホームラン!!
 さよならルーファス。
 ルーファスはお星様になったのだった……じゃなくて、またもや塔の下にまっ逆さま。今度は高さ的に危ないかもしれない。ご冥福をお祈りいたしますルーファス。
 塔の上に残った4人が黙祷。
 カーシャが嘘泣きで涙を拭う。
「ルーファス、お前の意思は妾が……」
「勝手に殺さないでよ!!」
 塔の淵からルーファスの声が聞こえた。よく見るとかろうじてルーファスの手が見える。
 井戸から這い上がってくる死者のような形相で、ルーファスは必死に塔の側面をよじ登った。
「……まだ死んでないから」
 生き絶え絶えのルーファスを見ながらカーシャは舌打ち。
「チッ(香典は妾の懐に入る予定だったのに)」
 ルーファスの葬儀で集めたお香典を懐に入れる気だったのか!!
 そんなサイドストリーが繰り広げられる中、クラウスの不意打ち攻撃発射!
 エナジーチェーンと呼ばれる拘束魔導。湿地帯でルーファスを引っ張ろうとしたときに放ったモノと同一だ。この魔導は世界でもポピュラーなもので、治安官などが犯人を捕らえるときにも使用される。
 そんなわけで、あっさりと捕らえられたオル&ロス。
「クソっ、クラウス早く解け!」
「解かないとあとで仕返しするぞ!」
 赤と青のどっちがオルでロスなのか、そんなのはどうでもいい話で、とにかく2人は喚いた。
 しかし、そんな2人組みはシカトでクラウスは話を進める。
「先を急ぎましょう、カーシャ先生」
「うむ、ファウストを探すのが先決だ」
 走る二人の背中に、オル&ロスが罵声を投げる。
「「チェーン解け!」」
 やっぱり見事なシンクロだ。
 ルーファスもこっそり2人を素通りしようとした。
 が、やっぱり呼び止められる。
「「ルーファス!」」
「は、はい!(この2人苦手なんだよねぇ)」
 ビクッと身体を震わせルーファスは足を止めた。
 オルがまず最初に話す。
「チェーンを解けとお前に言ってもムダなのはわかってる」
 エナジーチェーンは基本的に術者しか解くことができない。だが、今の言い方はルーファスが無能で役立たずのへっぽこだから解けないと言ってるようにも聞こえる。あくまで解釈の範囲で聞こえる。
 次にロスが話す。
「だが、せめてこの場所から移動させてくれないか?」
「どういうこと?」
 ルーファスが尋ねると、オル&ロスが同時に話しはじめた。
「「あれを見ろ」」
 と、2人同時で顎をしゃくって示したのは、塔の頂上に存在する謎の池。
「「ファウスト先生の話によると、あれは砲台でいう口に位置する場所だそうだ」」
「つまり、この塔そのものが砲台ってこと?」
「「そうだ」」
 通常の2倍で公定。
 てゆーか、こんな場所でクズクズしてたらルーファスも危ない?
 ドーンと発射されたら、ルーファスたちも余波でドーンだ。
 冷や汗の出たルーファスは急いで二人を移動させ――ようとしたが動かない。
 身体をグルグル巻きにされた人を運ぶのは容易ではない。
 1人ぐらいなら担げばいいが、相手は双子。2人が重なってグルグル巻きだった。
「……ムリ」
 ルーファス断念。 
「「オイ!」」
 ツッコミ2倍。
 赤いオルが犬のように咆える。
「ここにオレたちを置いてったら、次に会ったときにギタギタにしてやる! なあロス?」
「そうだ、半殺しじゃ済まないからな!」
 2人に咆えられ、ルーファスは重いため息を付いた。
「はぁ……なんとかするよ……」
 と、見せかけてルーファス逃亡。
「やっぱりごめん、運べない!」
 背中を見せてルーファスは逃げた。
 オルとロス兄弟の喚き声が塔の屋上に響いたのだった。

 古文書を片手にファウストは扉の前に立っていた。
 その耳に届く足音。
 ファウストは振り向いた。
「たしか……ビビと言ったかな?」
「フルネームはシェリル・B・B・アズラエルだよぉん」
「どうしてここにいるのだ?」
「楽しそうだから決まってるジャン!」
 わかりやすい行動動機だ。
 いや、しかし、ファウストが聞きたかったのはそんなことではなくて。
 ビビの後を追ってカーシャとクラウスも駆けつけてきた。
「やはり来ましたね……カーシャ先生、ククッ」
「当たり前だ、お前に古代兵器を渡してなるものか」
 もちろん我が物とするためにだ。
 でなきゃ、こんな湿地帯の奥まで来るはずがない。どこまでいってもカーシャは利己的な女だった。
 いつの間にか、カーシャとファウストの間には火花が散り、バーサスの構図がわか〜りやすくできてしまった。毎回毎回、こんな調子で2人とも疲れないのだろうか。
 カーシャはファウストの真後ろにある扉に目をやった。
「その奥に制御室があるのだな?」
「確かめるには私を倒さねばなりませんよ?」
「望むところだファウスト!」
「ククッ、お相手いたしましょう」
 魔導学院に伝わる暗黙のルール。
 カーシャとファウストのケンカは犬も食わない。
 つまり、2人のケンカは放置するのが一番だ。
 正義感をかざして渦中に飛び込んだらケガをする。
 ファウストは一枚の契約書を取り出した。そこにサインされたカーシャの印。1000ラウルの借用書だった。
 しかし、これはただの借用書ではない。
 悪魔の契約書レッツ封解!
 契約書が風もないのに揺れ、どこからともなく餓えた野獣の呻きが聴こえた。
「出でよスライム!」
 ファウストの掛け声と同時に、緑色の物体が契約書から吐き出された。
 流動するネバネバの生き物がカーシャの身体に張り付いた。
「クッ……小癪な!」
 しかし、振り払おうにも振り払えない。スライムはカーシャの手足を包み、身動きを封じてしまったのだ。
 それを見てファウストは満足そうだった。
「今日は無駄な小競り合いなどしていられないのでな。カーシャ、そこでじっとしていたまえ(今は一刻も早く魔導実験をしなくては)」
 カーシャの動きを封じ、扉の前に立ったファウストはさっそく古文書の解読をはじめた。
 扉はなにかの力で封印されている。それを解くのにファウストは神経を使っていた。