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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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ドカーンと一発咲かせましょう3


 ――カーシャだった。
 物陰からひょこっと現れたカーシャを見てビビが叫ぶ。
「あ〜っ、アタシを置いて行った薄情者!」
「それは誤解だぞビビ。妾はおまえを置いていったのではなく、捨てたのだ」
 もっと最悪だった。
 途中までビビとカーシャは共に行動していたのだが、いつの間にかカーシャが消えてビビは独りぼっちで彷徨っていたのだ。
 地面で死の境を彷徨っていたルーファスがのそっと立ち上がった。
「あー、質問。じゃあなんで戻ってきたわけ?」
「そんなこと決まっておるだろう。道に迷ったのだ(景色が全部同じに見える)」
 堂々と迷子です発言。
 ここでカーシャ以外が冷や汗たらり。
 ルーファスはクラウスに顔を見合わせた。
「クラウス……道覚えてる?」
「いや、大蛇に襲われた場所までは記憶してたんだが、そのあと必死に逃げたから……」
 不安顔のルーファスは次にビビを見た。
「ビビは?」
「アタシに聞かないでよぉ」
 絶望の顔で最後にルーファスはカーシャを見つめた。
「カーシャは……迷子だよね」
「あはははは」
「きゃははは」
「ふふふふっ」
「あ〜ははは」
 乾いた笑いが木霊した。
 一同遭難。
 ビバ・遭難!!
 周りは危険なアニマルでいっぱい。
 暗くなったらもっと絶望的だ。
 いち早くクラウスが冷静さを取り戻した。
「みんな、大丈夫だ。少し冷静になろう(来た道を戻ればいいだけじゃないか)」
 クラウスは辺りをゆっくりと見回した。
「みんな冷静になれば帰り道がわかるはずだ。帰り道は……あっちだ!」
 一斉に4人で帰り道を指さした。それが見事にバラバラの方向。絶望色が濃くなった。
 こんなことじゃへこたれない。クラウスは冷静さを保った。
「カーシャ先生、箒に乗って上空から現在地を確認してください」
「……箒か……あれならさっき野人に盗まれた(イタズラ好きな野人さん……なんて笑えんぞ……ふふっ)」
 かなり絶望的な展開にルーファスは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「どうしよう、不安でお腹が痛くなってきたぁ……」
 ポンとビビが手を叩いた。
「そうだっ、まだ昼ごはん食べてないよ。お腹すいたぁ、お腹すいたぁ、お腹すいたぁ」
 駄々をこねはじめたビビ。
 横ではカーシャが暗い影を落として、含み笑いで肩を震わせている。
 パーティーメンバーが次々と役立たずになっていく中で、さすが一国の王クラウスは希望を捨てていなかった。
「ルーファスしっかりしろ、魔導学院の遠足に比べたらミズガルワーム湿地帯で遭難なんてたいしたことない。グラーシュ山脈の登山や帰らずの樹海でのサバイバル合宿、他にもゴンゴル火山に飛び込めだなんて無理難題もあったじゃないか!」
 魔導学院で初の課外授業を行なったのがグラーシュ山脈だった。温泉遠足だと騙されて連れて行かれた雪深い極寒の山脈。見事にそこでルーファスは遭難した。
 そして、その遭難時にルーファスはカーシャと初めて出逢ったのだ。いや、遭っちゃったのだ。
 遭難から帰ったルーファスの口から、そのときの詳細は今もなお語られていない。
 たしかに今まで行なってきた魔導学院の、理不尽かつむちゃくちゃな課外授業に比べれば……いつもと同じくらいだ。ただし、いつもと同じでも、いつも同じ絶望感や恐怖などを味わっている。
 今まで乗り越えてきたといえ、絶望は絶望なのだ。
 まあ、しかしこんなところでじっとしていても話は進まない。
 クラウスが別の場所に移動しようと提案しようとした、そのとき!
 ビビの身体に細い蔓が巻きついた。
 先ほどの蔓がまだ近くに潜んでいたのだ。
 遭難した絶望感で、そんな蔓のことなどすっかりさっぱり忘れていた。
「きゃぁ!」
 蔓に捕らえられたビビの後ろには巨大な影がそびえていた。
 2メートルもありそうな花弁。グロイというか、毒々しく赤い花。強烈に甘い臭いがあたりに立ち込めはじめた。
 何本もの蔓を足のように使い、巨大な花がこちらに向かってやってくる。
「ルーちゃん助けて!」
 ビビの叫びを聞いてルーファスが立ち上がる。
「ビビ!」
 気持ちの切り替えも早く、ルーファスは風の刃を放った。
 ビビを拘束していた蔓が切り裂かれる。
 自由になったビビはルーファスに駆け寄り抱きかかえられた。
 その間にクラウスが両手から炎の玉を放つ。
 炎の玉は巨大な花に見事命中。だが、花に穴を開け焦がしただけだった。
 カーシャは冷静に花を見つめていた。
「湿地帯は湿気が多い、炎は不利だ。加えて水分量の多い敵は燃やすことはできない」
「そんなこと言われなくてもわかってますよ先生。咄嗟だったので得意な炎が出ただけです」
 クラウスの守護精霊は炎を司るサラマンダー。ちなみに今日の曜日はサラマンダーだ。つまりクラウスの魔力が普段よりも上昇している。
 再びクラウスは構えて魔法を放った。
「喰らえ!」
 また炎の塊だ。しかし、今度は違った。
 炎の塊は花にぶつかった瞬間、大爆発を起こして木っ端微塵に標的を吹っ飛ばした。
 爆発系の魔法を放ったのだ。
 感心したようにカーシャは頷いた。
「見事だ。申し分ない破壊力だな」
 巨大な花は跡形もなかった。
 ビビもおおはしゃぎだ。
「クラウスかっこいい! ルーちゃんとは大違い」
 と、ボソッと最後に付け加えた。
「私もいちようビビのこと助けたんだけど?」
 恨めしそうにルーファスは目を細めていた。
 たしかにルーファスも風の刃で蔦を切ってビビを救出した。けれど、クラウスのほうが目立っちゃったのだ。仕方ない。
 とりあえず一件落着だ。
 カーシャは目を細めて何かに振り向いた。
「捕まえろ!」
 カーシャの声で3人はその方向を見た。
 箒を持った野人が立っている。それ以上の説明はいらない。あれこそ希望の光だ。
 必死こいて4人は野人に向かって飛び掛ったのだった。

 カーシャがボソッと呟く。
「なぜ4人もいて見失う」
 見事なまでに野人を見失ってしまった。
 追跡時間は十数分だったが、ルーファスはもうすでに息を切らしてゼーハーしている。
「ムリ、あの猿自由に動きすぎだよ」
「だな、この樹海じゃあいつの方が有利だ」
 と、クラウスは言いながら、前方から目を離していなかった。
 カーシャもビビも、クラウスと同じモノを見上げていた。
 両膝から手をあげたルーファスも顔を上げ、その巨大な塔を見上げたのだった。
「帰ってきたっていいたいところだけど、あの塔じゃないね」
 ワープ装置ではじめにやってきた塔ではなかった。また別の塔がそこには立っていたのだ。
 カーシャはさっさと塔に向かって歩きはじめた。
「別のワープ機関があるかもしれん」
 ナイス推測。
 カーシャに続いて3人も塔に向かって歩き出した。
 塔の周りには草木が生い茂っていたが、何者かが強引に通ったような伐採跡がある。木の断面が新しいことから、もしかしたらファウストたちかもしれない。
 塔に入ったカーシャは渋い顔をする。
 そこは小さな個室だった。塔の外観から考えて、三メートル四方しかない部屋はおかしい。しかし、ここには先に続く道がないのだ。
 ビビが天井を指差した。
「見て、天井に穴あいてるよ」