魔導士ルーファス(1)
湿地帯で大蛇に襲われたルーファスはアンラッキー。けれど、いきなり丸呑みにされなかったルーファスはラッキー。まさに不幸中の幸い。
しかし、このままの状況では、ルーファス死ぬ。
クラウスはすでに膝まで水に浸かり、已然としてルーファスは水面でアップアップ。
「(やっぱり来るんじゃなかった)」
と意外に冷静なルーファス。自分の死期を悟って逆に冷静になってしまったのだ。
ネガティブ冷静化現象だ!!
そんな現象名があるのかはわからない。
クラウスは両手で鎖を引っ張っているが、なんとルーファスは両手が空いている。
これって不幸中の幸い?
冷静モードのルーファスはすぐに呪文を放った。
水をも切る風の刃。
見事に風の刃は大蛇の肉を裂いた。
しかし、やはり水で勢いが弱まったのか、大蛇の皮膚が厚かったのか、切断には至らずに大蛇は暴れ狂った。
その衝撃でルーファスは遠くに投げ出された。
放物線を描いて落下してくるルーファスをクラウスが見事キャッチ。
若い国王によるお姫様抱っこだ!!
んなことを言ってる場合じゃなかった。
憤怒した大蛇はその全容を現し、三メートル以上の高みからルーファスたちを見下ろし、長い舌を出し入れして風のような鳴き声を立てている。
どうやら大蛇を怒らせてしまったようだ。
が、しかし!
そのとき大蛇の上空から飛来してくる物体エックス。
それは大蛇にも優るとも劣らない巨大な怪鳥の影だった。
鋭い爪を地面に向け、怪鳥は大蛇を鷲掴みにした。
そして、そのまま大蛇を上空かなたへ掻っ攫って行ってしまったのだ。
大蛇を怒らせたのはアンラッキー。
怪鳥が現れたのはラッキー。
まさに不幸中の幸い。
へっぽこ魔導士ルーファス不幸中の幸い説浮上。
不幸ゆえにへっぽこと呼ばれ、大事故にも度々巻き込まれるルーファス。しかし、先日の『ねこしゃん大行進』の爆発に巻き込まれ入院した件に代表されるように、死亡してもおかしくないような事故にあっても、生き残ってしまうある意味強運の持ち主。
そう、魔導士ルーファス、その実体は不幸中の幸い体質なのだ。
けれど、たぶんアンラッキーの割合のほうが多い。
お姫様抱っこされているルーファスが、クラウスの後ろを指差した。
「クラウス逃げて!」
「どうした?」
振り返ったクラウスの目に映ったのは、毛むくじゃらの野人だ。
あんまり友好的じゃないようで、野人は雄叫びをあげている。
たぶんルーファスたちは今夜のディナーだ。
不幸中の不幸体質。一難去ってまた一難。やっぱりルーファスはただの不幸体質かもしれない。
クラウスはお姫様抱っこをしたまま走った。
逃げた。
逃亡した。
とんずらした。
とにかくただでさえ歩きづらい湿地帯を走り、樹海の奥へ奥へと進んだのだった。
抱っこされているルーファスは耳を立てた。
「助けてーっ!」
女の子の声がした。ヒーローの登場を願う助けてコールだ。
気付けば後ろから迫っていた野人の姿も消えている。
「クラウス、今の聴こえた?」
「ああ、助けを呼ぶ声だ」
クラウスはすぐに声のした方向に足を運んだ。
「助けてーっ! あっルーちゃん!」
ビビの声だ。
名前を呼ばれたということは近くにいるはずなのだが、辺りを見回してもビビの姿が見当たらない。
「ルーちゃんってば!」
ルーファスは上を見た。
蔓に吊るされ木の上にいるビビの姿。逆さ吊りにされているために……パンツ丸見えだった。
お尻にクマさんがプリントされたパンティーだ。
「えっち、見ないで!」
ビビはえっちな視線に気付いてすぐにスカートを押さえた。
急いでルーファスとクラウスは首を横に振った。
「「見てない、見てない」」
見事なハモリだった。でも、実は2人ともバッチリ心の写真館に保存されている。
そんなことより、なんでビビが木の上に吊るされてるのだろうか?
なんてことをクエスチョンタイムする前に、ビビにアクションが起きた。
突然、ビビの身体がより高く上に引っ張られたのだ。
「助けて、これ生きてるの!」
補足をすると、この蔓は知能を持ってます、ということだ。
その危険性に気付いたクラウスは両手が塞がっているので、その塞いでいるものを現場に投入した。
「行けルーファス!」
クラウス、ルーファスを全力投球。またの名を人間ミサイルという。
「ぎゃ〜〜〜っ!(なんで投げられてるの!?)」
ルーファスは一直線にビビに向かってぶっ飛び、そのままビビの身体に抱きついた。
ビビの顔に触れるふにふに感。
顔面にルーファスの股間ぐぁっ!!
「いやぁぁぁぁん!!(ルーファスのばかぁぁぁん!!)」
思いっきり突き飛ばされてルーファス再びぶっ飛ぶ。人間ミサイル返しだ!
軌道の先にはクラウスがいるが、今回はお姫様抱っこなしだ。クラウスは空いた両手から風の刃を放っていた。
鋭い風の刃はビビを捉えていた蔦を切り、自由になって落下してくるビビの身体をクラウスは見事お姫様抱っこキャッチ!
代わりにルーファスは地面に激突つキッス!
「(なんか……そんな役回り)」
蛙のようにルーファスは地面で伸びていた。
そんなルーファスを放置プレイして、ビビとクラウスは見詰め合っていた。
お姫様抱っこされるビビは顔を桜色に染めて、突然のグーパンチ!
クラウスの鼻から鼻血ブー!
「ぐはっ!(なぜに!?)」
「えっち!」
クラウスの腕から降りたビビはプンスカプンと起こっていた。
「今アタシのお尻触ってたでしょ、えっち痴漢、変態!」
ちなみにえっちの語源は『変態』の頭文字の『H』なので、えっちは重複だ。
「僕がそんなことするはずないじゃないか……」
鼻を押さえながらクラウスは弁解した。
その鼻血は本当に殴られたときに出たものかな……うふふ。
「誤解だよ、誤解!」
そうやってムキになるところが……うふふ。
木の陰から誰かがこっちを見ていた。
「うふふふ……ふふふふっ、クラウスもやはり男の子だな」
低い女性の声。
その正体はいったい!?
作品名:魔導士ルーファス(1) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)