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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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「悠長なことを言うな、ファウストが学院地下で……なんて説明はどうでもいい。とにかくファウストがクラスを引き連れて、超古代兵器を……とにかく来い、他の教師どももファウストを追って出た」
 カーシャの慌てように、パラケルススもただならぬ雰囲気を感じ取った。
「ふむ、またか(ファウストは魔導実験のことになると、たまに見境がなくなるからのぉ)。授業は自習じゃ、みな静かに各自自習をしておるように」
 ざわめき立つクラス。
 ビビはワクワクしていた。
「ねえルーちゃん、楽しそうじゃない?」
「……別に(なんかビビの目輝いてるよ)」
「行こ、絶対楽しいよ!」
「はぁ?」
「レッツ・ゴー!」
 ルーファスが止める間もなく、ビビは教室の外に飛び出していた。
 虚しく伸ばされたルーファスの手が、何者かにつかまれた。
「ルーファス、僕らも行こう!」
 クラウスだった。
「クラウスまで……パラケルスス先生が自習って言っただろう」
「そう硬いこというな、行くぞルーファス」
「……はぁ(いつもこうなんだから)」
 クラウスは決して模範的な優等生ではない。悪友に振り回されているのは、ルーファスのほうだった。

 教室を出て校舎を飛び出す。
 ビビの姿はもうない。
 他の人影も……1人だけあった。
 空色ドレスに乗った中性的な顔が無表情で挨拶をした。
「おはよう(ふあふあ)」
 羊雲みたいな声を発したのはローゼンクロイツだ。
 ローゼンクロイツは二人の顔を見つめた。
「キミたちも遅刻かい?(ふにふに)」
「君と同じにしないでくれよ」
 と、クラウスは苦笑いを浮かべた。
 無断欠席、大幅遅刻はローゼンクロイツの得意技だ。そんな人物と同じにされたくないのは当然だった。
 無表情のままローゼンクロイツは首をかしげた。
「じゃ、サボリだね(ふにふに)」
 ルーファスがすぐさま反論。
「違うから。なんかまたファウスト先生が事件を起こしたとかで自習になったんだよ。それで私たちは事件の見物に行く途中」
「それってサボリっていうんだよ(ふにふに)」
 無表情のままローゼンクロイツツッコミ!
 自習をサボったことはたしかで、否定の『ひ』の字も返せない。
 なぜかローゼンクロイツはクルッと身体を回転させ、来た道を戻りはじめた。その背中越しに手をひらひら振っている。
「じゃ、ボクは帰るね(ふあふあ)」
 ローゼンクロイツの背中にルーファスが手を伸ばす。
「ちょちょちょちょっ、今学校に来たばかりなのになんで?(また出席日数危うくなるよ)」
「自習なら行かなくていいと思うけど?(ふにふに)」
「そーゆー問題じゃないでしょ?」
「そーゆー問題だよ(ふあふあ)」
 サラッと言っのけたローゼンクロイツの肩をクラウスが叩いた。
「それでは僕らと行くか?」
「……興味ない(ふあふあ)」
 無表情だった顔が一瞬だけ、凄く嫌そうな顔を作って、すぐに元の無表情に戻った。
「無理やり誘うのは良くないな」
 と、クラウスは諦めてルーファスに視線を向けた。
「では、僕ら二人で行くか」
「ちょっと待って、行くって言ってもどこに行くかわからないよ(カーシャもパラケルスス先生も先に行っちゃったみたいだし)」
 困って腕組みをするルーファスは、視線を感じて顔を上に向けると、ローゼンクロイツがエメラルドグリーンの瞳で、じーっとなにか言いたそうに見ていた。
「魔女ならあっちの方向に箒で飛んで行ったよ(ふあふあ)。ボクが思うに、駅かな?(ふあふあ)」
 その言葉を聞いてクラウスがすぐに走り出した。
「ありがとうローゼンクロイツ。行くぞルーファス!」
「うん、またねローゼンクロイツ」
「また(ふあふあ)」
 機械的に手を振るローゼンクロイツを尻目に二人は駅に向かった。
 正門から続く噴水広場を抜け、駅はすぐ近くにある。クラウス魔導学院が建設されたときに、同時に建設された『クラウス魔導学院前』駅だ。
 駅に着くとここで問題発生。
 どこまでの切符を買ったらいいかわからない。
 てゆーか、本当に駅で良かったのかどうかすらわからない。
 2人が路線図を睨めっこしていると、鼻を押さえた駅員がフラフラした足取りで歩いてきた。
 クラウスが駅員を呼び止める。
「少し聞きたいことがあるのだが?」
「なんですか?(あれこの顔どっかで見たことあるな?)」
 クラウスの顔の認知度は意外に低い。公式の行事が苦手なために、建国記念日くらいにしかクラウスは国民に顔を出さない。それに国王がこんなところにいるはずがないという先入観から、バレても勘違いにされるかソックリさんで通ってしまう。
「箒を持った長い黒髪の女性を見なかったか?」
「あーっ! おまえあの女の知り合いかッ!」
 突然、駅員はクラウスの胸倉に掴みかかり、眉間に青筋を浮かせて怒り出した。
 なんで起こられているのかわからないクラウスは、きょとんと目を丸くしてしまっている。
 2人の間にルーファスは割って入る。
「まあまあ、ちょっと冷静に(まさかカーシャがなんかやったのかな?)」
 ルーファスが2人を引き離すと、駅員は荒々しい鼻息を出しながら地団太を踏んだ。
「あの女に言っとけ、治療代出してちゃんと俺に謝れって(クソー鼻が痛ぇ)」
 真っ赤に腫れた鼻にルーファスとに視線が向けられた。
「たぶんそれうちの教師です。なにされたんですか?」
「殴られたんだよ。『退けーッ!』っていきなり走ってきて、俺を殴って改札口を通って行ったんだよ」
「はぁ、そうなんですか(まったくカーシャッたら)。それでその女性がどこに行ったか知りません?」
「知るかよ!」
 鼻を押さえて駅員は怒鳴った。かなりイライラしているらしい。イライラにはカルシウムがいい。この駅員には牛乳を飲むことを推奨する。
 駅員が客の行き先を全部把握しているはずがない。どうやら駅に来たのは正解だったが、ここで打つ手なしなってしまった。
 だが、クラウスは諦めなかった。
「では、長髪で魔導具をジャラジャラ腰から下げて歩いている黒尽くめの男性と、それに引き連れられた生徒の一団を見なかったか?」
「生徒かどうかはわからないが、そんな客がいたなぁ」
 魔導学院は制服がなく私服のために、ひと目で学院生だとはわからないが、そんなような一団に駅員は見覚えがあった。
 難しい顔をして考えた駅員は、パッと明るい顔になって閃いた。
「そうだ、湿地帯に行くとか……?(ミ……ミがつく場所だったような気がするな)」
 クラウスも閃いた。
「この辺りで湿地帯と言えば、ミズガルワーム湿地帯か?」
「そうそう、ミズガルワーム湿地帯だよ。そこに行くとか騒いでたそうな気がするな」
「よしっ、ミズガルワーム湿地帯に行こう!」
 クラウスの白い歯がキラリーン!
 拳まで作って行く気満々、ヤル気満々、そんなクラウスを止める術はなかった。
 重いため息がルーファスの口から漏れた。